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【 決戦は日曜日 】 感想vol.075 @MOVIX八尾⑪ 22/1/16

21/日/ビスタ/監督:坂下雄一郎/脚本:坂下雄一郎/撮影:月永雄太

予告篇を観て、言い知れぬ興味に目覚める。このご時世に、何やら昭和の喜劇映画のような雰囲気を醸し出しているではないか。主演が窪田正孝と宮沢りえであるにも関わらず、さして熱心な広告活動が行われていない気がするし、盛り上がりにも欠けているのが、妙に興がそそられる。単に私がテレビをほとんど視聴していないだけというのもあるのかもしれないが。真意を見定めるべく、劇場へと自転車を飛ばす。

ストーリーについて。千葉県の架空都市。地域に強い地盤を持ち、当選を続けて来た衆議院議員の川島の私設秘書として働く谷村。それほど仕事に強い拘りを持つ訳でもなく、現状に甘んじて漫然とした日々を送っていた。衆議院議員選挙を前にしたある日、川島が病により倒れてしまう。地域の地盤を任せられる後継者を誰にするかと奔走したあげく、川島の娘である有美に白羽の矢が立った。政治のことを全く知らないが、情熱だけはやたらと持ち合わせている有美。父親の恩恵を受け、ぬくぬくと育ってきた彼女の、自由奔放で世間知らずの態度に、谷村は振り回されるのであった。有美の軽率な言動や行動で、世間を賑わせたりするも、余程のことが起きない限り、当選は確実。それが、地盤を引き継ぐということの、政界の不問律。しかし、古くからの慣例に業を煮やした有美は、谷村と共にどうにか選挙に落選するように画策する。果たして、選挙の結果はいかに?

とにかく秘書側の人間に、誰一人として熱意というものがないのが面白い。流れ作業的に淡々と仕事をこなしていく。慣れとは恐ろしい事だ。確かに能率は上がるのかもしれないが、そこには感情が存在しなくなる。人間とは心で感じて動くものだ。打っても響かない人たちが政治家を支えているのであれば、国が動き辛いのも道理かも知れない。政治家とは、地域と国のために頑張っています、というアピールをするだけのパフォーマーなのか。本当にそうであるならば、我々は何の為に投票をして、彼らに思いを託しているのだろうか。
今作はコメディと謳っているいるだけに、有美の空回りと、終始空虚な態度の谷村との温度差に笑わせられたし、情熱を突き通す有美と、理詰めでなだめる谷村との対比は、非常に滑稽であったのだが、私としては重苦しい空気が張り詰める、シリアスなドラマであると感じられた。

今作で一番頷かされたところは、人物の背景描写をほとんど描かないということだ。会話の中で断片的に語られるだけで、この人はこういう人なんです、というのがほとんど見えてこない。主役である有美や谷村にしてもそうだ。有美がこれまでに何処で何をしてきたのか、谷村が秘書になったきっかけは何なのか。通常の映画であれば語られそうな人物設定を、ことごとく排除して、その状況、現状だけにフォーカスして描き続ける。だからこそ、観客は何が起きているのだろうか、この人はどんな人なんだろうか、とセリフのやり取りから情報を得ようとスクリーンに没入できる。何故に有美は赤い服を着続けるのか。どうして谷村の髪型は変なのか。そういったことは劇中で明かされない。いや、それは当然である。
申し訳ないが、私は坂下監督の過去作を観ていない。なので、これが監督のいつもの脚本スタイルなのか判じられないけれども、暗に政治離れした現代人への注意喚起として、この書き方を選んだのではないかと思っている。大々的なトピックスに踊らされて、印象だけで判断する人々。その本質を自ら見ようとしないままに、惰性で決定してしまう。今作の登場人物の様に、注意深く観察していけば、本当のことが見えてくるよね?ということが言いたいのではないかと。

かくかくが政治に無関心になるのも道理であるが、かくかくの住まう地域の代表を、引いては国の代表を選ぶ訳であるから、かくかくで選挙には行かねばなるまいて。その一票が世界を変えるのだ。

劇場を後にする際、あまり面白くなかったと話している観客もいたが、私は十分面白いと、評価されるべき作品であると思う。

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