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中学国語教科書に登場する暴力

光村図書の中2の国語教科書を使って国語のレッスンもしています。
手元にあるのは令和2年検定済のもの。
日本全国の中学校で配布されているものと同じです。

驚いたことに、この教科書には、暴力や人殺しの場面を含む作品が複数登場するのです。
作品ごとに紹介しますので、
この内容が中学2年生の国語の教科書に登場することについて、ちょっと考えてみてください。

【古典】平家物語より「扇の的」

「扇の的」の逸話はとても有名です。
舟の先頭に立てられた竿の先に付けられた扇を、那須与一が弓で射る、という場面です。
戦の真っただ中に、ずいぶんと風流なことをしていたもんですよね。
那須与一の心情や扇に集中する様子、
扇がみごとに射られ、ひらひらと海に散る様子の美しさは、
現代に通じる普遍的なもので、心に残るものがあります。

しかし、その後の残酷な場面まで、教科書では取り上げられています。

扇がみごとに射抜かれ、平家側も源氏側も盛り上がっていました。
この成功に感じ入った男が、舟の上で舞を舞い始めました。
すると源氏側の重臣が、那須与一に、この舞を舞っている男を射るように命じるのです。
那須与一は遂行し、男の顎に弓は命中。男は倒れました。
源氏には、「よくやった!」という人もあれば、「ちょっとかわいそうだったんじゃないか」という人もいました。

この場面、中学2年生の教科書に、必要でしょうか?

「走れメロス」

太宰治の「走れメロス」も「名作」ですよね。
「メロスは激怒した。」という始めの一文は、
いろいろなところでパロディ化されているくらい、だれもが耳にしたことのある一節です。

なぜメロスが激怒していたかというと、
この物語の架空の町の王が、人を信ずることができないからという理由で
人々を次々と殺しているからです。
メロスは町を暴君から救い、平和をもたらすために、「死ぬる覚悟」で王に異議を唱えます。
怒った王は、メロスを磔刑にしようとしますが、メロスは妹の結婚式のために三日間の猶予を願い出て、友人セリヌンティウスを人質として差し出します。
最終的にメロスは約束の時に間に合って、友人を救い出し、王も改心する、というのが物語のあらすじです。

最後に、
メロスは一度だけ、あきらめようとしたことを、
セリヌンティウスは一度だけ、メロスを疑ったことを告白し、
「私を殴れ」と許しを乞います。
そしてお互い一発殴り合ったあと、抱き合ってうれし涙を流すのです。

学校での暴力事件をニュースで目にする日もありますが、
授業中に読む教材では、暴力や人殺しが、容認されています。

ちなみに、那須与一は、もし扇を射ることに失敗していたら、腹を切るつもりでした。
メロスも、正義のためには死を厭わない覚悟でした。
このように、自己犠牲や、失敗したら恥、という観念も、このふたつの作品に共通してみられます。

現代を生きるティーンたちに、この教科書はどのように受け取られているのでしょうか。

国語の教科書について、こちらも書きました。

「名作」については、こちらにも書きました。


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