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「これでいいのか?!改正児童福祉法案」緊急対談:堀正嗣×菊池まりか〜子どもアドボカシーの視点から

2022年5月15日(日)、子どもアドボカシー研究会主催の2022年度総会記念シンポジウムにて、国内のアドボカシー研究の第一人者である堀正嗣氏と、一般社団法人子どもの声からはじめようの理事である、菊池まりか氏が緊急企画にて対談を行いました。

堀正嗣
1997年に子どもアドボカシーに出会って感銘を受け、以来、カナダ、イギリスなどの事例研究を中心に、国内における子どもアドボカシー研究の第一人者。熊本大学教授。子どもアドボカシー研究会(今回の総会にて「子どもアドボカシー学会」へ名称変更)代表。

菊池まりか
児童養護施設、児童相談所勤務を経て、児童養護施設退所後サポートを行う、一般社団法人Masterpiece代表。都内を中心に子どもアドボカシーを行う、一般社団法人子どもの声からはじめようの理事も務める。社会福祉士。

現在、国会に提出されている児童福祉法の改正案について、子どもアドボカシーの視点から、不安な点、不足していると思われる点、評価できる点が語られました。

<目次>
改正児童福祉法案は基本は歓迎
何が変わる?何が問題?改正児童福祉法
 ①「意見表明支援」と明記してほしい
 ②アドボカシーは専門職?
 ③アドボカシーの独立性を確保できる?
子どもアドボカシーとネガティブケイパビリティ
モヤモヤを正しい方向へ変えていくために
子どもアドボケイト養成講座について

◆改正児童福祉法案は基本は歓迎

菊池氏:堀さんも私も講義は慣れているけれど、対談は慣れないですね…笑 テーマは法改正と堅いですが、ポップにやっていきたいと思います。何かに対して攻撃をしたいのではなく、みんなで考えようという企画です。よろしくお願いします。

堀氏:まず、この国ではいまだ子どもの権利条約が根付いていないということを念頭におきたいと思います。国連で子どもの権利条約が採択されたのが1989年、日本が批准したのは1994年。しかし、それからも子どもの権利が法律に織り込まれることはなく、忘れられている状態でここまできました。

私は1997年に子どもアドボカシーに出会い、この考え方が広がっていくことを願って研究や活動を続けてきました。ここにきて、法律化、制度化の動きが一気に加速しています。これはすごいこと、基本はとてもめでたいことだと捉えています。

しかし、「大丈夫かな?」と思うところはいくつもあります。子どもの権利条約にも明記されている「意見表明権」は、子ども本人がspeak out(正々堂々と意見を述べる)するものです。また、speak up(自分の意見を自由に話す)という側面もあります。

子どもに関わる人たちにとって、子どもの意見(子どもの権利条約においてはview)を「聴く」のは当たり前のことだと思うかもしれませんが、ただ「話を聞く」だけではないのです。

子ども自身が伝えたいこと、言いたいことを子ども自身の言葉で伝えていくことが意見表明です。大人が聞きたいこと、大人の耳に心地よいことを聞くことじゃないし、ヒアリングでもありません。

◆何が変わる?何が問題?改正児童福祉法

菊池:今回の改正児童福祉法案を、子どもアドボカシーの視点で見た時のポイントは3つですね。
 ①「意見表明支援」と明記してほしい
 ②アドボカシーは専門職?
 ③アドボカシーの独立性を確保できる?

①「意見表明支援」と明記してほしい

堀:「ヒアリング」と「アドボカシー」は違います。その違いがはっきりと示されていないのが心配な点です。「ヒアリング」は、「大人が聞きたいこと」を子どもに尋ねて、子どもが話してくれた意見を大人が活用することです。子どもにとっては意見がどう使われるのか、と不安要素になります。

アドボカシーを行うアドボケイトは、「子どもの声のマイクになろう」と表現されるように、聞かれにくい、聞き流されやすい子どもの声を大きくして伝える必要から生まれています。アドボケイトは完全に子どもの立場に立つ役割です。

今回「意見表明支援員」として表現されているアドボケイトは、児童相談所や児童福祉審議会などの勘案や連絡調整役ではないはずです。アドボカシー(意見表明支援)の意義が法案にしっかりと記述されていない状態では役割がぼやけてしまい、専門機関側に立ってしまわないか心配です。

②アドボカシーは専門職?

菊池:アドボケイトは専門機関の調整役ではありませんが、専門職というのも違いますね。言ってみれば、完全に子どもの立場に寄り添う力強い専門職ともいうことができますが、アドボケイトになろうとすると、最初に言われるのが「専門職の眼鏡を外そう」ということですね。

堀:菊池さんが子どもだったら、アドボケイトの専門性をどう考えますか?

菊池:まずは、秘密を守ってくれることですね。保護者や里親、児童相談所などの利害関係者と一線を引いていて繋がっておらず、話したことが漏れないこと。それから、自分が話したことを話したように受け止めてくれること。

堀:アドボケイトは専門職というよりも、市民性に根ざした専門性を活かした役割、ということができるのですね。

③アドボカシーの独立性を確保できる?

堀:先ほど話しましたが、アドボケイトは子どもの利害関係者・関係機関と一線を引いていて繋がっていないことで、子どもの秘密が守られる、ということでしたね。それこそがアドボケイトに不可欠な「独立性」です。

菊池:児童相談所などの「中の人」になってはいけないのですよね。一時保護など環境が急激に変化した子どもはとても不安です。そんな時に、利害関係のない独立した立場の人は話しやすいので、独立性の確保はとても重要です。

◆子どもアドボカシーとネガティブケイパビリティ

菊池:私もアドボカシーの活動をしていますが、社会福祉士の専門職がベースなので、そこから足抜けきらず、市民性が薄くなりがちな気がしています。

堀:語弊があるかもしれないけれど、アドボケイトは「レンタル何もしない人」に近いと私は考えています。ネガティブケイパビリティという言葉が最近聞かれますが、その反対語にポジティブケイパビリティがあります。問題解決力と言われる能力のことです。

一方で、ネガティブケイパビリティは問題を投げ出さず抱え続ける能力のことです。課題を抱えた人に寄り添う力、一緒に耐えていく力であり、人を指します。これまでの専門職に求められてきた能力とは正反対のもので、つまり、アドボケイトは成果を上げるための専門職ではない、ということです。

菊池:そういう視点では、福祉や専門職といったものを知らない方がアドボケイトに向いているとも言えますね。いずれにしても、経験者やユースなど外部からの目線を大切にしたいところです。

◆モヤモヤを正しい方向へ変えていくために

堀:そうはいっても、弁護士さんや専門機関、専門職の方がアドボケイト養成講座(文末参照)を受講して本気で目指してくれたら、アドボカシーが社会に根付いて、子どもたちの願いが叶って、子どもたちの力になりますよね。ただ、専門職の帽子や眼鏡を取るのは大事だし難しいようです。

菊池:それが難しいのですよね…でも、いろんな機関や専門職の方が受講してくれているのは嬉しいです。アドボカシーのマインドを広げていきたいですね。

堀:今回成立しそうな法律は僕らが目指すアドボカシーの文化やマインドを実現するための手段の一つです。全部ではないです。できる限り良いものになってほしいけれど、今回だけで実現できるものではないでしょう。

カナダでもアドボカシーの目的は、アドボケイトを育成することではなく、権利ベースの社会と文化を築くことだと謳われています。事業だけでも、制度や法律だけでもダメなのです。今回の法改正のモヤモヤは、みんなで一緒に目指す社会の実現の方向へ、中身をしっかりと作っていきましょう。

◆子どもアドボケイト養成講座について

以下の子どもアドボカシー研究会のサイトにまとまっています。シンポジウム後の発表では、子どもアドボカシーセンターosakaで7月から基礎講座がオンラインで開催されるとのことです。

基礎講座の内容(私が2月から3月に受講したもの)は以下にまとめてあります。

◆参考サイト


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