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「少し違う」を考える

先日、プロレスリング・ノアの小川良成選手のインタビューをさせてもらいました(詳しくはこちら)。メインのテーマは1・1武道館大会でのタッグパートナー・HAYATA選手とのGHCジュニア王座戦。その中で小川選手は王者の実力を評価しつつも、新人の頃から指導してきた清宮海斗選手とは「少し違う」と言い、その違いは「清宮を見ていればわかるでしょ」と続けました。

清宮選手にあってHAYATA選手にないもの。もっと言うと、清宮選手にはあるけど、他の多くのNOAHの選手にはないものとも言えるかもしれません。その答えは何なのか? 現在は何でも検索すれば答えが出る時代。だからこそ敢えて原稿では答えに言及しませんでした。読んだ人があれこれ考える余白が残る。これはすごく素敵なことです。

 というわけで、この話の模範解答を書くことは控えますが、我々の編集業界でも育ち方で「少し違う」と感じることが増えています。もしかしたら、小川選手が言わんとしていることのヒントになるかもしれないので、気になる方は読み続けてください(プロレスの話ではありません)。

 現在はインターネットの発展により、“ネット媒体”と呼ばれるWebメディアが増えています。私自身も自社のトレーニングサイト「VITUP!」(ヴィタップ)をはじめ、スポーツナビさんやマイナビさん、障害者スポーツ協会さんなどのWebの媒体での仕事も数多くこなしています。

私は20年以上前、まだネット媒体が存在しない時代に出版社に入社して、マスコミ、発信者としての仕事をスタートさせました。当時は今のようにSNSがない時代であり、誰でも自由に自分の言葉を世間に向けて発信できる時代ではありませんでした。つまり、発信側の人間になるには、マスコミに就職するしかない時代。そこに足を踏み入れた人間は、メディアで発信することに対する教育、マスコミとしてのイニシエーションを受けて育ってきたのです。

2000年代に入るとインターネットの発展により、一般の人も自由に発信できるようになり、インターネットで情報を発信する媒体も誕生。日々情報を更新するWebサイトはスピードと量、更新頻度が命であり、紙媒体とは性質が違います。各媒体が日々発信してくれる人材を求めた結果、“Webライター”と呼ばれる発信者が誕生。マスコミとしての教育、イニシエーションを受けていないライターが、メディアとして発信することが普通になっていきました。

実はこれはプロレス界の流れと似ています。2000年以前はプロレスラーになるには、体格や実績など求められるハードルが高く、非常に狭き門でした。ところが多団体時代となり、またプロレス学校・闘龍門の誕生以降は、体格や年齢で切り捨てられることはなくなって、体が小さくても才能のある人間がプロレスラーになり、輝けるようになりました。

発信者(ライター)も同じで、以前はマスコミに就職という狭き門を通る必要があったものが、そうしたハードルがなくなり、比較的簡単に誰でも発信者になれるようになったのです。学歴や年齢、あるいは性格で新聞社や出版社から門前払いされた人でも発信者になれるようになり、結果として才能を生かせるようになった人も多いと思います。

ここで「少し違う」の話に戻りましょう。「取材して情報を発信する」という、やっていることは同じでも、出版社や新聞社で育った人間と、Webから入ってWebのみで発信している人間は、通ってきた道が違うため「少し違う」のです。これは文章のスキルであったり、取材スキルであったりということではなく、「それ以前のこと」(小川選手風)です。

取材者として、書き手として、この少しの違いは実は大きな違いです。少し前にWebライターとして成功を収めている方と仕事でご一緒したとき、“やっぱり違うんだな”と感じることがありました。その人の書く文章は面白く、私も好きなのですが、「こういうことを知らないんだ」と思うことが多々ありました。マスコミとしての教育を受けた人間なら誰でも知っていることを知らずに発信している。それができてしまう時代なんだなと改めて実感しました。

キャリアを積めば、知らなくてもできてしまうケースも多々あります。しかし、知っていてやらない(使わない)のと、知らなくてやらない(できない)のでは、まったく別モノ。その世界で長く生きていこうと思うのなら、絶対に外してはいけない基本というものがあります。違う世界の人にはわからないような「少しの違い」だったとしても、実は結構大きな違いということもある。これはどんな業界にも言えることではないでしょうか。

核心をつくと角が立つところもあるので、かなり遠回しな表現になってしまいましたが、何となく言わんとしていることが伝わればいいです。勝手に想像してください。編集業界で私が思っていることと、小川選手が清宮海斗選手とHAYATA選手に対して「少し違う」と言ったことは、根本には通じる部分があると思っています。

NOAH1・1武道館大会でのGHCジュニアヘビー級タイトルマッチを見るときは、「少し違う」を感じることができるのか、それとも成長を続ける王者がすべてを凌駕するのか。GHCヘビー級王座戦やGHCナショナル王座戦とは一味違う楽しみ方ができると思います。深いなぁ。

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