浅間明月記6

 【草取物語】(2023年6月4日)


 昨年晩秋軽井沢から東京に戻り越冬の期間中、断捨離(書籍と書
類の処分)を始めた。書類は四分の一まで手で破いた。根を詰めた
ため利き手(左手)が腱鞘炎になった。ただその予兆は夏の軽井沢
にあった。

 軽井沢別邸の南面の庭は芝を植えたがなかなか根付かず、毎年雑
草取りを続けてきた。昨年妻が南面の庭を全て人工芝に張り替えた。
南面の庭の雑草取りから解放されると道路沿いの北側の土地の雑草
が目に留まった。今まで全く手を入れてこなかった場所だ。年々滞
在時間が増える軽井沢での私の家事として20数坪の土地の雑草を
抜くことを自らに課した。

 現役時代会社の仕事は持続するが個々の事案は終了させてきた。
完璧は無理でも高い完成度を追求してきた。
 一方草取りは終わりのない作業である。終わりがあれば高い完成
度を目指さざる負えないが、無ければ自由に対応できるし気が向か
ない時は手抜きもできる。日々の完成度は問われないが、やったこ
とは必ず成果になる。終わりのないこの不条理な作業が意地にも似
た楽しみになった。
 雑草を取り続けるとその下から苔が見えてきた。苔には迷惑かも
しれないが苔に日の目を見させることを本プロジェクトの目標とし
た。まだ雑草交じりではあったが苔庭もどき物ができた頃には左手
に痛みが出始めていた。

 今春軽井沢に戻ると北側の土地では越冬した苔が迎えてくれた。
油断は禁物、やがて芝擬など雑草が伸びてきた。芝擬を無理やり抜
くと苔を痛めるので、今年からは地上部分を切断することにした。
地下茎があるので一掃はできないが地上部分を切断することにより
光合成での養分生成を減じて、地下勢力の弱体化を図った。伸びて
きたらカットする床屋のような作業だが苔を痛めても構わないとい
う気持ちで根元から切断している。
 昨年笹擬物で抜くのに苦労した雑草があった。今年は先手を打っ
て新芽の時から思い切って切断した。後日妻から怒られた。彼女が
大事に育てていたキボウシやスズランの新芽を切断してしまった。
反省先に立たずである。
 今年はダメかと言われたが幸い切断後の葉が伸び始め大きく成長
してきている。ホッとしたが今でも傷跡があり、私の原罪を日々攻
めているように感じる。

 ゴルフ練習の後立ち寄ったティールームスのイングリッシュガー
デンの見えるテラス席でインド風チキンカレーを食べた後、キボウ
シの苗を5つ購入した。早速駐車場脇の花壇に植えた。「大丈夫君
たちを切ることは今後ないから安心して」と彼らに話しかけた。

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