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リンキン・パーク初のベスト・アルバムの聴きどころは

リンキン・パーク初のベスト・アルバム『ペーパーカッツ』がリリースとなった。タイトルは当然、デビュー・アルバムに入っていた「ペイパーカット」から来ているが、ペイパーカット(紙による切り傷)を彼らがたどってきた歴史の中でのシングルに例え、リンキン・パークに刻まれた傷の歴史という意味が含まれているのだろう。すごくいいタイトルだと思う。「ペイパーカット」は思い入れがある楽曲だ。そのあたりは、以前のnoteを読んでいただけたらと思う。

また、アルバムの曲順が、アルバムを聴いてみるとわかるが絶妙だ。バンド自身がかかわっていることもあり、非常にすんなり彼らのシングルの数々を楽しめると思う。選曲は「シャドウズ・オブ・ザ・デイ」や「ロスト・イン・ジ・エコー」も入れてほしかった気もするが、CD1枚に収まらない数のシングルがあるのだから、これは仕方ないところだろう。
アルバム未収録曲はいくつか入っているが、やはりファンとしては「ニュー・ディヴァイド」と「クワ―ティー」の2曲の収録がうれしいのではないだろうか。アルバム全曲を振り返ることもできるけれど、この2曲にフォーカスしてみたい。
まず「ニュー・ディヴァイド」は映画『トランスフォーマー/リベンジ』の主題歌だった曲だ。映画のCMでも、クレジット入りで流れたし、大ヒットした1曲だった。

この曲と「ワット・アイヴ・ダン」は、一卵性双生児のような曲だと個人的には思っている。「ニュー・ディヴァイド」は映画のヒットのために、そして「ワット・アイヴ・ダン」はアルバム『ミニッツ・トゥ・ミッドナイト』のヒットのために、最後の最後に書いた1曲だ。つまり、リンキン・パークが本気でヒット・シングルを書くと、こんなすごい曲が生まれ、チェスターがどれだけすごいシンガーかわかるのだ。この2曲ではマイクはプロデューサーに徹している。おそらく「ニュー・ディヴァイド」は、前期リンキン・パークの総決算と言える1曲で、実はこのタイミングで、本来ベスト・アルバムをリリースすることもできたと思う。しかし、彼らは挑戦的な道を選び、2010年のアルバム『ア・サウザンド・サンズ』へと突き進んでゆく。
そして、「クワ―ティ」だが、この曲が全世界で初めて披露されたのは、初のヘッドライナーを務めた2006年のサマーソニックでだった。

リンキン・パークのファンサイトによれば、この楽曲は未完成だったが、日本に向かう飛行機の中で歌詞が書かれ、完成状態になり、サマーソニックで初披露されたもので、非常に日本のファンにとっては特別なものだ。マイクのラップも、チェスターのスクリーム・ヴォーカルも最高で、ライヴ映えする1曲だった。この曲はLP UNDERGROUNDという彼らのファン・クラブに入っているファンだけが、スタジオ・ヴァージョンを耳にしていたが、2009年に再びサマーソニックのヘッドライナー出演が決まった時に、来日記念盤として、リリースさせてほしいと、僕が当時担当者として懇願し、『ソングス・フロム・ジ・アンダーグラウンド』の1曲として、リリースされたものだ。こうやって、ベスト・アルバムに改めて収録されるのは、うれしい限りだ。
僕がリンキン・パークを担当していたのは、2012年の『リヴィング・シングス』までだ。とてもすべての逸話は書ききれないが、このベスト・アルバムはキャリアを俯瞰できる素晴らしい1枚だと思う。
現在、僕はソニーミュージックで2組の若いバンドを担当している。一つはホット・ミルクというバンドで、フロントマンのジム・ショウは『ハイブリッド・セオリー』を、自分に決定的な影響を与えた1枚に挙げていた。
もう一つのバンドは、フィンランドのリンキン・パークと言われるブラインド・チャンネルだ。ニュー・アルバム『エグジット・エモーションズ』が出たばかりなので、ぜひ聴いてほしいが、フロントマンの二人、ヨエルとニコは『メテオラ』を通じて、意気投合して、バンドは結成されたそうだ。そんなわけで、リンキン・パーク・チルドレンが世界各国で活躍している。ぜひ、そんな若いバンドにも注目してほしい。


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