風見聡

稀代のお人形を後世へと受け継ぐ。

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最近の記事

映画『窓ぎわのトットちゃん』を観た感想

昨日、映画『窓ぎわのトットちゃん』の三回目を観てきました。 紛れもなく、日本アニメーションの表現の一つの到達点であると言える作品だと思います。 私がこれまで見てきた全映画作品の中でも最高傑作となりました。 まず、以下のPVをご覧ください。 いかがでしょうか? このようなアニメーション表現、私は見たことがありません。 映画館の座席で身震いし、思わず「凄い!!」と喝采を上げたくなりました。 小学校から追い出される形になったトットちゃんが、トモエ学園の小林校長先生に「君は、

    • 劇場版『DEEMO サクラノオト』の感想

      「わたしの心に寄り添う物語」 先日、劇場版『DEEMO サクラノオト』を観てきました。なお、原作のゲームは未プレイです。 私の中で、これまで観た全作品の中でも最高傑作になりました。 一人の女の子の「痛みと癒しの軌跡」をここまで丁寧に描き切った作品を私は知らない。 二回ほど鑑賞し、二回とも号泣いたしました。 あと二回は観に行きたいと思っています。 ハリウッド映画的なスリルとは対極に位置するような作品で、往年の「世界名作劇場」のような優しい雰囲気に包まれています。 楽曲も「N

      • 『徒花異譚』の感想

        ノベルゲームとは何か。 『AIR』『Forest』『腐り姫』『徒花異譚』『紅殻町博物誌』 いずれも文学性を有する傑作です。 『狭き門』『罪と罰』『婦系図』などの傑作の文学作品にも匹敵しうると思っております。 世間の荒波に揉まれながらも、それでも、幼き頃に親しんだ「童話」の世界の灯を大切に抱き続けているようなーー祈り。 そのような祈りが籠められているような作品に惹かれます。 すなわち、『Forest』『徒花異譚』は、言うなれば、大人になった子供たちに贈るお伽噺と呼んで

        • 【小説】白詰草

           一  見渡す限りの荒れ野が広がっている。地平線の向こうは土煙によって漠然としており、辿り着くべき場所は見定められなかった。  一人の旅人が荒野を渡っていた。襤褸布を纏い悄然と歩くその足取りは重く、半里もゆかぬうちに倒れ伏しそうな様子である。野営の装備も持たず、この果てしない不毛の地を踏破するには無謀であった。あるいは、彼は死に場所を探して彷徨っているのかもしれなかった。ただ、必ずしもそうではないことは、水分に渇き切った彼が荒野に点在するサボテンの一柱をナイフで傷付け、その

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          パラボリカ・ビスと春秋山荘の展覧会の思い出

           本年五月、先進的なギャラリーとして高名であり、私も大変お世話になっているパラボリカ・ビスさんが閉館されるということである。先達ての一月には京都山科の古民家ギャラリーである春秋山荘さんが閉館され、お人形界隈では惜しむ声で満ちており、私もその一人である。  なお、銀座マリアの心臓さんも昨年十二月で閉館となり、さらに本年七月をもって京都大原マリアの心臓さんも閉館とのことであり、「一つの時代の終わり」を印象付けられる一連の流れであるようにも感じられる。  他に類を見ない先進的なギャ

          パラボリカ・ビスと春秋山荘の展覧会の思い出

          『翼と宝冠』を読んだ感想および『翼と宝冠』展の思い出

          ※後半から『翼と宝冠』のネタバレを含みますので、必ず読了してからお読みください。  先日、パラボリカ・ビスさんで開催されている中川多理先生の『翼と宝冠』展を観てきた。  『翼と宝冠』は山尾悠子先生の掌編小説であり、その前作『小鳥たち』の外伝という位置付けの物語である。『小鳥たち』は、山尾悠子先生と人形作家の中川多理先生のコラボレーションによる人形写真と短編小説からなる珠玉の幻想文学作品である。したがって、『翼と宝冠』は『小鳥たち』を読んでから楽しむのが良かろうかと

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          映画『遮那王』『お江戸のキャンディー』の感想

          ※後半から映画『遮那王 お江戸のキャンディー3』および『お江戸のキャンディー』のネタバレを含みます。必ず鑑賞してからお読みください。  先日、下北沢トリウッドさんで、映画『遮那王 お江戸のキャンディー3』(五回目)および『お江戸のキャンディー1、2』を鑑賞してきた。なお、1月25日からは大阪シネ・ヌーヴォさんで公開される予定である。  私はお人形愛好家であり、『遮那王』では中川多理先生の至高のお人形、朱殷さんが大姫人形として映画に登場するということで観に行ったのだが、銀幕に

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          映画『サンダーボルトファンタジー 西幽玹歌』の感想

          ※『サンダーボルトファンタジー 西幽玹歌』のネタバレを含みます。必ず鑑賞してからお読みください。 美形のお人形による武侠ファンタジー人形劇『サンダーボルトファンタジー』の映画を三回観てきた。  率直に言って、最高だった。劇中、何度もゾクゾクとした。  個人的に、『まどかマギカ』以来の映像作品と言っても良いと感じている。  順を追って筋を辿っていこう。  冒頭、草木も生えぬ山中で二人きりの母子が歌の稽古をしている。虐待の域にも入っている常軌を逸したスパルタ教育であり、この幼

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          「『小鳥たち』出版記念 京都巡回展」の思い出

           先日、京都は山科の春秋山荘さんで開催されている「『小鳥たち』出版記念 京都巡回展」を観てきた。  『小鳥たち』は、幻想文学の第一人者である山尾悠子先生による瀟洒で奥深い小説と、稀代の球体関節人形作家の中川多理先生による存在感のある美しいお人形たちがコラボレーションした、古今稀にみる本である。その感想と東京での出版記念展の思い出については、以下に書いた。  今回の展覧会は、東京での出版記念展の京都への巡回展である。間を空けずに巡回ということになったが、新作の小鳥の侍女さんた

          「『小鳥たち』出版記念 京都巡回展」の思い出

          『小鳥たち』を読んだ感想および出版記念展の思い出

          先日、パラボリカ・ビスさんで開催されている『小鳥たち』出版記念展を観てきた。 『小鳥たち』は、幻想文学の大家である山尾悠子先生と新進気鋭の球体関節人形作家である中川多理先生による、小説と人形という芸術の二つの領域が融合された新しい形の本である。 広大な噴水庭園を舞台として、山尾先生ならではの奥深い雰囲気の物語が格調高い文体で紡がれ、中川先生の圧倒的な存在感を纏った可愛らしいお人形たちの写真がイメージに輪郭を与えてくれる。ミルキィ・イソベ先生による瀟洒な装幀も見事で、箔押し

          『小鳥たち』を読んだ感想および出版記念展の思い出

          初めてのイタリア紀行の思い出

          先日、イタリアはヴェネツィア、ヴェローナ、マントヴァ、ローマを訪れてきました。 ーーヴェネツィア、最高。ヴェローナ、最高。 人生初の一人海外旅行ということで、出発前は不安がありましたが、蓋を開けてみれば、特に進退窮まるような場面はなく、空港やホテル、レストランなどでのやり取りも問題なくこなすことができました。 (ヴェネツィアのリド島の海の家で「シーフード・ピザ」が通じなかったのは失敗でしたが。) ちなみに、私の愛するお人形たちも一緒に連れて行きたいと思い、小さな小鳥のあ

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          京都再発見と「狐娘展」の思い出

           先日、京都は山科、春秋山荘さんでの「狐娘展」を観てきました。  その前に、余った時間を利用して恒例のお寺参り。いつもの南禅寺金地院に、おそらく四度目の参拝をいたしました。  その時に私が感じたことは、以下の通りです。 * 「京都再発見」 優に十回以上は訪れている京都 率直に、飽きてきたかなと思っていた けれど、今日はどうしたことだろう 今日の京都は、金地院は、これまでとは全く違う顔を見せている 私は一体、何を知っていたというのか 大方はもう知ったつもりになっ

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          『この闇と光』を読んだ感想〜『デミアン』とともに〜

          ※『この闇と光』のネタバレを含みます。必ず読了してからお読みください。また、『デミアン』『罪と罰』への言及を含みます。 先日、京都は山科の春秋山荘で中川多理先生の個展、『夜想#中川多理—物語の中の少女』出版記念展・京都巡回展を鑑賞してきた。 そこで一際、光り輝く美しさを放っていたのが、『この闇と光』に材を得た「レイア姫」だった。 『夜想#中川多理—物語の中の少女』出版記念展・京都巡回展」の思い出 https://note.mu/kazami7/n/n478f8d87f

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          「『夜想#中川多理—物語の中の少女』出版記念展・京都巡回展」の思い出

          先週末から京都は山科の春秋山荘で始まった、中川多理先生の個展、『夜想#中川多理—物語の中の少女』出版記念展・京都巡回展を鑑賞してきた。 http://www.yaso-peyotl.com/archives/2018/11/yaso_tari_kyoto.html 紅葉に包まれた京都は山科の毘沙門堂。 その人波を避けるようにして川沿いの細道をゆけば、京都市の「京都を彩る建物や庭園」にも選定された、古さびた趣のある茅葺き屋根が見えてくる。私が二年余り前、初めてお迎えしたお人

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          映画『響-HIBIKI-』を観た感想〜天才と凡人の狭間で〜

          昨日、今日と二回、映画『響-HIBIKI-』を観てきた。 原作は未読であり、昨年末の紅白歌合戦の一件も記憶に新しい平手さんが主演する映画ということで興味を持ち、事前情報なしで鑑賞した。 なお、私はただの労働者であり、また、普段、アイドルについては興味がなく、映画についても詳しくない人間であることをご承知おきいただきたい。 映画はとても良かった。 天才にして暴走少女である響の平手さんの演技がとても良かった。 私は、お母さん役である担当編集者の花井さんに感情移入して観ていた。ヒ

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          「うたかた 麻生志保×土谷寛枇 二人展」の思い出

          去る七月七日の七夕より、八月十一日まで、パラボリカ・ビスで開催されている「うたかた」展を観に行ってきた。日本画の麻生志保先生と球体関節人形の土谷寛枇先生のコラボレーション展ということで、何が飛び出すのか、期待を胸にギャラリーへと向かった。ちなみに、この前日にボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』を読み終えて予習を済ませたのだった。 ・うたかた 麻生志保×土谷寛枇 二人展 http://www.yaso-peyotl.com/archives/2018/06/utakata.h

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