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感想レポ:郡司ペギオ幸雄『やってくる』

1

『天然知能』を書いた著者の最新作。
単純な文章の難しさで言うと他の著書よりも平易で、具体的体験を交えて「天然知能」についてのより具体的な理解が得られるようになっていると思う。
ただ、『天然知能』で最も好きな「ダメットの思考実験」のような専門的な話は今回は控えられている。
『天然知能』を読んだ人は『天然知能』の副読本として、『やってくる』から初めて郡司を読んだ人は『やってくる』を足掛かりとして『天然知能』など他の著書を読むのが適当なように思える。

自分は数か月前に『天然知能』を読んで以降郡司信者になってしまったが、まだまだ郡司の伝えている内容を捉えきれていない。
そこで、『やってくる』を通して考えたことをここにのせる。

2

人口知能的知性の持ち主は奇跡を好む。
という言説がこの本で一番良かった。これを得られただけでこの本を読んだ価値は十分あったと思える。

このフレーズは恐らく、『セルオートマトンによる知能シミュレーション』
における”カオスの縁”を掲げる人工知能理解批判と対応している。

生命の多様性は複雑系におけるクラスⅢ、カオスと秩序の間において説明されるが、人工知能的描像ではこれは極めて稀な現象で一部の科学者はここに生命の奇跡を見出す。しかし天然知能の概念を用いるとクラスⅢが普遍的なものとして理解される。

3

”やってくる”もの、自分はセレンディピティと対応させたが、これは歴史的な天才の独占物でもなければ奇跡でもなく、日常にありふれたものだと理解する。
外部に対して徹底的な受動の姿勢、空白を保つことが大切であり、この姿勢は敬虔なキリスト者が終末を待つ態度や仏教の悟りの態度に似る。

”徹底的な受動としての能動”、”能動としての受動”、”受動でも能動でもない”、”受動かつ能動である”、”急ぎつつ待つ”、”中動態”…
言い方はなんでもいいと思うが、この姿勢はまだつかみきれてない。

4

纏まりがつかなくなるので文末に回すことにしたが、”フレーム問題は機械だけでなく人工知能的知性を持つ人間にも付きまとう”という話も非常によかった。
『生命、微動だにせず』でもフレーム問題は出てきていたが、この時は機械に限った議論だったと記憶しており、いまいち現実的な問題意識をもって読んでなかった気がする。この機に復習して記事にするのも良いかもしれない。


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