重度メンヘラの同性にストーカーされて、まあまあしんどかった話

私は、高校時代から一部の女性から、異様に懐かれたり好かれたりすることがあります。

最初は女子高時代。通っていたのは、幼稚園、中等部、高等部、短大がある私立のプロテスタント系の学校で、中等部と高等部が同じ敷地内にありました。
高校時代の私の髪はベリーショートで化粧っけもなく、かなりボーイッシュなルックスでした。そういうルックスや生徒会副会長をやって(選挙はあったものの、私たちの仲良しグループで会長、副会長、書記を独占して牛耳っていたという今考えると最低な生徒会 笑)目立っていたことも相まってか、中等部の後輩女子や同級生の一部の女子にハートがたくさん描かれたラブレターぽい(今のLGBTQ+のように明確な意思がまだなかったのでふんわりとした曖昧なもの)手紙をもらったり、体育祭の時には「ゼッケンください!」「ハチマキください!」「一緒に写真撮ってください!」みたいなことが複数回ありました。あげたゼッケンやハチマキなんて、きっとその後すぐに熱が冷めて捨てられたんでしょうけど 笑。

そういった同性に異様に懐かれる・騒がれる類のことはなく平和だった大学時代を経て、社会人になってから強烈な体験をすることになりました。

私の最初の職業は、某教育機関に勤務する公務員でした。そこに配属された同期職員は私を含めて5人で、全員女性でした。主役の彼女をC、今では一番の親友になっている同期をTと呼ぶことにします。

Cは、父親が地元の町議会議員でお金持ちのお嬢様でした。当時、親が家賃を払ってくれている2LDKの瀟洒なマンションに、親から生活費の仕送りを受けながら大学生の弟と二人で暮らしていました。

Cは、自分のことを下の名前で呼ぶタイプの子でした。ものすごい厚化粧でくるんくるんに巻いたロング茶髪、膝上20センチくらいのミニスカートを履き、書類など入らないというか、持ち歩く気なんてハナからないであろうめちゃくちゃに小さいハイブランドのバッグを持って毎日出勤していました。私たちを含めた他の職員とは明らかに違う雰囲気の彼女が、なぜ地味な教育機関の職員として採用されたのか今でも謎ですが、まあ、目立っていました。
そして何となくお察しでしょうが、全然仕事ができない・仕事をしない人でした。勤務時間中、30分に1回くらいの頻度でトイレに消えメイク直しをしていました。この回数については、あまりにも頻繁にトイレに行くCを見て、呆れてふざけたTが数えたので間違いないです。

ある日、そんなCが一人で担当する何かの業務をこなせないところをたまたま見かけた私は、仕方ないなぁと思いながら手伝いました。たぶんこれがきっかけで、同期の中で私に異様に懐いてくるようになり、「二人だけで一緒に帰ろう」とか「二人だけで一緒に休憩しよう」と誘われたりするようになります。

当初、私は特に彼女を好きでも嫌いでもなかったので、誘われたらそのまま彼女に付き合っていました。そして徐々に、Cは同期全員でいる時はしないプライベートな打ち明け話を私にするようになってきました。その一つが、Cは性欲がめちゃくちゃに強く、出身大学のゼミの教授と不倫関係にありその先生とのセックスにハマっていることでした。


Cに休憩に誘われたある日の話です。
「なあなあ、どうしよう。Cさあ、生理めっちゃ遅れてるねん。妊娠したかもしれへんねん…」
「え、そうなん。検査薬で調べたん?」
「まだ調べてない」
「検査薬か病院で調べてからどうするかちゃんと考えたら?」
「うん。でも、Cが妊娠してたら先生と先生の奥さんと裁判になるかもしれんやんか。認知させなあかんし、離婚して責任取ってもらわなあかんから。だから、Cな、先生の子供ってちゃんと証明できるように証拠残してあるねん!」
「?…証拠って?」
「この前エッチした後先生がシャワーしてる間に、ゴミ箱からゴムを拾って化粧水の瓶に先生の精液を入れて、冷蔵庫に保管してあるねん!間違いない証拠になるやんか。この前、実家からママがうちに来て冷蔵庫を開けた時にそれ見られて“Cちゃん化粧品まで冷蔵庫で冷やしてるん?”て言われて、C、めっちゃ焦ったわー笑 ヤバかったー笑」

驚き過ぎて怖過ぎて言葉が出ない私。さすがに「この子だいぶヤバいやん…」となり、私は徐々に彼女と距離を取るようになりました。


結局Cは妊娠しておらず、ほどなくしてその先生とはお別れしました。
そのことを知ったのは、もともとまともに仕事をしていなかったCが、以前に増して離席することが増え、さらにトイレから戻ってくると毎回号泣していたのが分かるくらい泣きはらした目をしていたからです。職場の先輩にも「さわらちゃんさぁ、Cさんの勤務態度があまりにも酷いから同期として注意しといてよ。私たちも我慢してるけどそろそろ限界やし、このままだと課長に報告しなあかんレベルやで。さわらちゃんたちの代全体の評価が悪くなるで」と言われ(私はその先輩に気に入られていましたので、彼女は私に言ってきました)、仕方なしにCを食堂に呼び出し「仕事が全然手につかへんみたいやけど、なんかあったん?」と聞いたら、先生とお別れしたことを聞かされました。

「それはしんどいやろうけど、さすがに仕事中ほとんど席におらんくて帰ってきたら泣きはらした目で仕事を全然してないっていうのはマズいで。そろそろちゃんとしな先輩に怒られるで」と内心「まあ、もともと全然仕事してないけどな」と思いながら刺激しないように柔らかめのトーンで言うと、「そやな。ありがとう。明日からがんばってちゃんとする。でも、今日はさわらにもっと話聞いて欲しいから、仕事終わりにCの家に来て欲しい」と言われ、正直面倒臭いし嫌だったけど、先輩の忠告の件もあったので仕方なく行くことにしました。


Cの住むマンションに着きリビングに通されると、出勤前にメイクした時の化粧品がテーブルに散らばったままで、飲み残しのカフェラテが入ったままのグラスもそのまま、ガラスのテーブルにはグラスから溢れた何かの飲み物の輪になった跡がいっぱいでした。レザーのソファの上には洗濯前か後か分からない下着、服が山積みになっていました。そして、ソファとテーブルの向こうにはデスクがあり、その横の壁にはいわゆる萌え絵、何かのアニメキャラの女の子のヌードイラストの等身大ポスターが貼られていました。この光景を見た瞬間「ヤバいことになったかも。来たのは失敗やったな」と思ったのですが、今さら帰るわけにもいきません。

ソファの上の洗濯物をざっと床に落としながら、「あのポスターは弟のんやねん。エロいよな〜」とCは笑いながら言いました。「何か飲む?」と言われたのですが、リビングに入った瞬間から不快な気持ちになっていた私は遠慮して、仕方なくソファに座りました。「着替えてくるから待っててな」と言いながら部屋に消え数分後に現れたCは、バスローブを着て箱を抱えてリビングに戻って来ました。
「…え?友達来てるのに、バスローブ?性欲強過ぎて私を抱こうとしてるん?」くらいの恐怖を内心感じてヒヤヒヤしている私をよそに、Cは箱を開けて手紙の束を取り出しました。

「これ、全部先生がくれた手紙やねん。さわらにも読んでほしくて」と泣きながらCが言います。

そんなもの全然読みたくなかったけど、仕方なく読みました。内容はパッとしないベタベタしたラブレターでした。そうこうしている内に、Cが「これはこの前のホワイトデーにプレゼントと一緒にくれた手紙」と束の中から一通の手紙を私に渡しました。

「C、バレンタインのチョコレートありがとう。おいしかったよ。
 一粒目は、Cの耳たぶの味がしました。
 二粒目は、Cの乳首の味がしました。
 三粒目は、Cの○○の味がしました。」

その先の文章はもう覚えてもいないし、読んだのかさえ記憶がないです。気持ち悪過ぎて。

Cも先生も、恋愛経験が少なくエロ小説かエロ漫画を読み過ぎてこうなってしまったのでしょうか?とにかく気持ち悪くて、一刻も早く帰りたくて、覚えていないのですが、何か理由を作って帰ることをCに告げました。

するとCは「今日は来てくれてありがとう。これ、お土産に漫画貸すから読んで。一番好きな漫画やねん。さわら、この前事務所でTに稲中卓球部貸してたやん。私にも今度貸してな」と紙袋を渡され、お礼を言って慌ててマンションを出ました。

電車に乗って紙袋の中の漫画を取り出すと江上達也の「東京大学物語」でした。私は読んだこともなかったし、江上達也では「マジカルたるるーとくん」のタイトルしか知らないレベルだったので、パラパラとページをめくると、めっちゃエロ漫画でびっくりして慌てて紙袋に戻しました。


この日以降、私は完全にCを避けるようになりました。それでも、Cは先に自分の仕事が終わったら、職場のエントランスで私を待ち伏せして「一緒に帰ろう」と誘い続けました。途中まで同じ方向なので避けることもできず、仕方なく一緒に帰り、Cが先に電車を降りるまでCの話を一方的に聞かされ続けます。徐々にそれも我慢できなくなり、Cを避けるため定時ダッシュしたり、逆に無闇に遅くまで残業したり、Tと二人で帰るようにしたり、それでも一緒に帰りたいと言われたらTと3人で帰るようにして、Cに個人的な話を聞かされないようにしていました。

しばらくすると、今度はCは毎晩私に電話してくるようになりました。一方的にその日の出来事を話して「じゃあおやすみ〜また明日〜」と言って電話を切ります。しばらくして着信拒否にしたら、今度は固定電話にかけてくるようになりました。もうほとんどストーカーです。

私としては態度で示していたつもりだったのですが、言葉にしないと伝わらないと思い、お昼休みに食堂に呼び出し「もう仲良くできひんし、電話せんといてほしい。一緒に帰るのも無理」と伝えました。その時彼女が何を言ったのかは覚えていません。

こうして無事に距離を取ることができたのですが、就職して1年後、彼女は何人かとお見合いをして、そのうちの医師と結婚して寿退職することになったと、職場で発表がありました。私は正直とてもホッとしました。

Cの退職日、私は万が一でも彼女につかまりたくなかったので、彼女が早めに帰る直前の小一時間、資料室で作業をして隠れていました。頃合いを見計らってデスクに戻ると、小さなギフトの包みと分厚い封筒が置かれていました。周りを見ると他の職員はギフトの包みを持っているけど手紙は持ってなさそうでした。Tに「手紙付きやった?」と聞くと、「出た〜笑 さわらだけやん。私には手紙なんかないで」とのこと。別部署の同期2人に聞くと、同様に手紙なしでした。

4人で食堂に行き、封筒を開けると便箋が10枚くらい入っていました。
「私はさわらのことが本当に大好きでした。だから、最後にさわらが私から離れていったことが本当に悲しかったです。なぜ、私に冷たくしたの?私はこんなにさわらのことが大好きだったのに。酷い」という恨み節と、結婚相手との馴れ初めと惚気が詳細に書かれていました。一緒に読んでいた同期3人は「こわーーーー」と言いながら苦笑いしていました。

この手紙でようやく本当にCから解放されることを思うとすごく安心できたし、今となってはネタになっているので、まあこれはこれで良かったしありがとうと思ってもいます。

親友のTに「なんで、私はあそこまでCに執着されたんか分からんわ」という話をしたことがあるのですが、T曰く「さわらは、一見冷めてるように見えるけど、周りで困ってる人を放っとかずに助けるし、見た目と違って案外面倒見がいい。中身はかなり優しい。ああいう子はそこに気づいたら骨の髄までしゃぶりにくるねん。私なんか見た目穏やかで優しそうって言われるけど、自分が本当に好きな相手じゃない限りペラッペラやもん。上部の優しさはなんぼでもできるけど、ああいう子はそれは見破るねん。甘えられるのは、私みたいなんじゃなくさわらやって」とのことでした。


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