こんばんは、カズノです。

【民意の形成】

　オンラインじゃない署名には「当たり前にスルーされる辛さ」があるけれど、オンライン署名にはそれがないという話を、この前にしました。
　だとすると後者では、抗議者の思考や運動が成長するのは難しい気がします。思考や運動の成長とは「自分に反対する意見を聞き、じゃあどうするか？」というところから生まれるのがたいていだからです。

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　対面での署名活動では、自分への反対意見を、どうしたって抗議者は含めていかないとなりません。
　もちろんオンライン署名をしていても、あれこれ反意を述べてくる人はいるでしょう。それは多いでしょうし、揶揄や当てこすりでしかないような反応を返す人間はイヤになるほどいるでしょうが、でもいちばん多いのはほぼまず、「当たり前にスルーされる」ほうだと思います。つまり「相手にされない」そちらです。
　はっきり言葉にしてくれる「反意」「揶揄」なら抗議者も意識するでしょうが、絶対数で多い『反対意見』は「スルーされている」ほうでしょう。圧倒的に、どう考えても。でもこの「当たり前にスルーする相手（ネット閲覧者）」に、オンライン署名は出会うことが出来ません。
　言い換えれば、オンラインじゃない署名ではこの「スルー」、つまり「迷惑そうな顔をされたり」「それすらされないまま無言で立ち去っていく」ような『反対意見』を、まず最初に含めないとなりません。だって立ち止まってもらえないと、そもそも意見を聞いてもらえないわけですから。
　本人にとっていちばん厳しいのは「話を聞いたうえで拒否される」でしょうが、それでも多少の交渉があれば、「ああ話せばよかった」「こう反論すればよかった」とは思えます。けれど、「スルーされる」にはこれすらありません。そもそも対話の場がないのがその関係だからです。

　ですので「自分の意見はそのままじゃ通らないらしい」から始めて、「声のかけかたがまずいのかも知れない」「場所を駅前から変えようか」「着ぐるみのパフォーマンスでもするか」などなど、「とにかく立ち止まって話を聞いてもらうところまで行かないとダメだ」という、すごく初歩的なレベルから考え直す必要があるはずです。
　そういうレベルから、「自分に反対する人、自分の意見を無視する人のことを含めた考え方」をしないとなりません。
　だから逆説的に、主張も思考も運動も成長していきます。より正しいもの、誰もに受け入れられるものに成長する。天才でもない限り、たいていはこういうパターンを踏むのが人間の成長です。

　なので場合によっては、「対面による署名運動」は「民意」にもなりえます。なぜなら、「反対意見を踏まえた上で練り直された主張」とは、反対意見も含めているゆえに「民意」とも呼べるからです。それがごく初歩的な「ともかく話を聞いてもらうところから始める」ならなおさらです。
　そのように積み重ねられた主張は少なくとも、反対意見を含めていない意見／運動よりは十分に「民意に近いもの」です。
　もちろん「どれだけ無視されたって、自分の意見は正しいのだ！」でゴリ押しする人もいるでしょうし、それで勢いづいてなんとか相応の人数を集めることもあるでしょう。
　でもいずれにしろ、こういった契機がオンライン署名には無い、またはあっても極めて弱いものだろうとは想像できます。不快な反論にはこちらからスルーしてもよいスタンスなのも事実ですよね。対面ではそれは出来ません。呼び止めたのはこちらだからです。

【結論】

　オンライン署名にはオンライン署名で、いいところはあると思います。そのよさについては他で当たってもらうとして、おれが話題にしたいのはこの「対面ではないとこ」「そのせいで生まれる悪影響」です。
　自分の「正論」にまったく耳を貸さない人がこれだけいる、耳を貸してくれた人からすらこう反論された、だったら自分は考え直さないといけない──つまり葛藤と自省をオンライン署名は生まないんですよね。あるいは生んだとしても、対面ではないぶん極めて弱い、または非現実的な葛藤になりうる。よって現実的な自省を生めるかどうかは未知数です。
　加えて、もちろん、

　先の斉藤の歌はこう続きます。「誰にも相手にされなくて心が折れてる、けど、立ち止まってくれる人がいた。その人と二言三言かわし、ちょっとしたクセを見つけ、また二言三言おしゃべりできたとき、自分はすっごくあったかい気持ちになった」という内容です。
「たくシゴトってめんどくせえなあ」で始めたアンケートのおにーちゃんは、やっぱり99人に無視されてなおさら心が折れている。でもだからこそ、賛意を示してくれた「1人」がどれだけ自分にとって大切なものかが分かる。仕事観、人間観まで変わる。
　こういう人間関係、人間観や世界観の変化をオンライン署名は生まないんですよね。こういう「ベリーベリーストロング」な繋がり方を見つけられない。