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「良いロビイング」の探求

「透明で責任のあるロビー活動のあるべき姿とは」というサブタイトルに興味を持ち、株式会社マカイラさんのセミナー(令和6年(2024年)1月17日19時~21時)に参加して来ました。抱いていたいくつかの問題意識を刺激し、最終的に、登壇者のアルベルト・アルマノ氏とグータッチ(?)をすることになる展開で、とても有益なものだったと思います。

セミナーのタイトルは、「CSRの次はCPR⁉透明で責任あるロビー活動のあるべき姿とは?企業ロビー監視の仕組みを開発した、欧州NGO代表来日!」というもの。

麻布十番のSTUDIO GREENが会場

アルベルト・アルマノ氏(Alberto Alemanno氏(The Good Lobby 代表)(HECパリ教授・東京大学客員教授)の来日公演で、セミナーの説明文は、「Alberto Alemanno氏が代表をつとめるThe Good Lobbyは、市民の政治参画の民主化のツールとしてのロビー活動というコンセプトを掲げ活動しています。The Good Lobbyは、企業のpolitical footprint(政治活動の規模や内容)を可視化することでCPR(Corporate Political Responsibility=企業の”政治的”責任)を高めることを狙った「The Good Lobby Tracker」をリリースしました。本セミナーでは、Alemanno氏より「The Good Lobby Tracker」の紹介をしていただき、より透明で責任あるロビー活動はどうあるべきかについて、有識者と参加者同士での交流・対話の機会をご用意します。ぜひ奮ってご参加ください。(逐語通訳有)」というもの。

1.CSR、そしてCPR?

まず、CSRについては、東証プライム誕生時に、ESG投資との関係で様々言われていたことを思い出しました。

CSRは、Corporate Social Responsibilityの略で、企業の社会的責任と訳され、従業員や環境などのステークホルダーに配慮した経営のこととされます。

東京証券取引所は、ESG投資の普及に取り組んで来ましたが、令和4年(2022年)の市場区分の見直しで、プライム等が生まれた時にも「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業」等が示されました。ESGとは、Environment、Social、Governance(環境、社会、ガバナンス)の頭文字をとったもので、投資家が投資判断を下す際の考え方とされます。非財務、非市場の要素です。CSRを見てESG投資を判断するという関係と考えます。

東証プライムのスタートに当たり、こうした非財務、非市場の要素の重視について、様々言及されたいたことは記憶しています。

そこにCPR(Corporate Political Responsibility=企業の”政治的”責任)と出てくると、これもESG投資の対象というような、企業価値を判断する材料の文脈での話かという印象を持ちました。

セミナー開始直前の会場

2.マカイラ藤井CEOの問題意識

(以下、セミナーの内容から記述しますが、私の理解の範囲のものなので、発言者の意図との齟齬があり得ることはご承知おきください。)

マカイラ株式会社代表取締役CEO藤井宏一郎氏は、私も会員であるNPO市民アドボカシー連盟のアドバイザーで、イノベーション企業のいわゆる「ルールメイキングアドボカシー」の担い手として広く認知されている方と考えます。

セミナーでは、まず、藤井氏から、アルベルト・アルマノ氏の紹介の後、次のようなことが示されました。

これまで、パブリック・アフェアーズということを言って、スタートアップ企業のイノベーションのために法律を作ったり変えるためのロビイングを行って来た。それが世の中のためになると考えて取組み、ある程度ポピュラーとなったが、ここに来て、テックラッシュということが言われるようになった。テクノロジー企業がロビングをやりすぎているのではないかという声が強くなったのである。こういう業界で、このままで良いのか。ここ2,3年
考えるようになった。ロビングが市場をゆがめるのではなく、小さな声を届けることを大切にしたいと考えて行動して来た中でのことである。

テックラッシュ(techlash)とは、技術(tech)と反発(backlash)からの造語で、特にアマゾン・フェイスブック・ツイッター・グーグルといった巨大テック企業が提供するサービスに対し、プライバシー侵害のリスクやフェイクニュースの拡散による弊害などの積み重ねで、そうした企業への不信感となったとされます。

藤井氏は、こうしたことへの対策を考えなければならないと思っていたところで、The Good Lobyが市場原理を利用して企業を監視するシステムを作ったことは、非常に面白いということで、来日に際しイベントを行うこととなったとのことでした。

3.アルベルト・アルマノ氏のThe Good Lobby

アルベルト・アルマノ氏は、次のように説明されました。

自身は法学教授だが、The Good Lobbyの活動をしている。ブラッセル、マドリード、パリ等に拠点を持つ。
権力へのアクセスを平等にしたい。変革を遂げたい。企業の声は、大きな声。Good Lobbyによる変革で、誰でも参加できるような民主化を行いたい。このムーブメントで、よりよい運動に続けたい。
ヨーロッパでは、様々な企業がこの活動を盛り上げてくれている。進歩的な企業が、よりよい活動、責任を持った活動を目指している。
政府に対する信頼は低下し、マスコミに対する信頼はもっと低下し、市民社会での信頼も低下しているが、企業活動はそれほど低下でない部分もある。
ビジネスリーダーは、新たな期待値を持つようになった。企業に対して、企業の価値の最大化が目標となった。関係者に対して責任ある活動をすることが目標となった。そうした新たな期待値生まれる中で、企業に対する新たな目が向けられている。社会的監視、サステナビリティについて、企業の説明責任が求められるようになった。社会的監視は誰がするのかというのと、まず投資家が担う。企業への評価について、財務活動のみならず、非財務活動にも注目。社会的にどのような活動を行っているか。
企業に対し、説明責任を求め、非市場活動を可視化している。OECD諸国では、従業員への説明責任もより可視化されており、最終的に、消費者も商品、サービス購入で、企業の非財務的活動の説明責任に応じ購入するようになって来た。企業が世界にどう影響を与えているか、説明責任が求められるようになった。カーボン・フットプリント ソーシャルフットプリント等、企業の非財務的活動に注目されるようになった。
Yet one impact. まだ一つ残っているものがあり、それが、ポリティカル・フットプリントである。ロビイング活動について、政治的活動についてのデータの提供が、インパクトとして欠けている。ロビング活動の可視化等、投資家に対して、消費者に対して、従業員に対して。
例えば、ある企業が、パリ合意について、トランプ米政権に声をかけ、一緒の活動を求める一方、IECAという、トランプ米政権をパリ合意から押し出そうとする団体にも参画する等、複雑な動きがあったりする。
グリーン、社会的責任まで進歩し、次は政治的責任もサステナブル、政治的にサステナブルであるべきである。

1.で取り上げた、CSRとかESG投資の話と符合する話だと思います。それを政治的活動にまで広げるという趣旨かと思われます。

しかし、企業がどんな政治的な活動を行っているのか、政治的責任を果たしているのかを開示するメカニズムがない。
ロビングの登録の制度があるのは、OECD諸国の3分の1程度で、日本にもそういうものはない。
国に、政治的データの開示の制度がない中で、市場が先に情報収集を行っている。26のイニシャティブ(initiative、先進的)企業が、社会的、環境的のみならず政治的発言をどう話しているかを示すようになった。このような政治的な活動、責任のデータは、企業の中にあり、企業が知っている。そのフットプリントを企業が投資家に販売する形が考えらる。
企業の政治的活動、責任を果たしているかのデータは、企業のみが知っており、外から見えない。そこで、それらを集めるために、The Good Lobbyとしては、質問を考えた。8つのカテゴリーについて、チェックリストを作ったのである。一つ一つの質問の答えを、8つのカテゴリーのどこかに整理する。26の先進的企業について、調査を行った。政治的ポジションの開示、民主主義のイベントのサポート、政治家との会合・会議、業界への参画、積極的に開示をしているのか等についてである。  
質問への回答について、ポイントを付与。企業への評価、政治的な責任を果たしているかを示せるようにした。

https://www.thegoodlobby.eu/initiatives/tracker/

Good Lobby Trackerは、企業の政治的責任と持続可能性への道筋を描く上で、関心のあるすべての利害関係者に実用的な洞察と支援を提供するリアルタイムのナビゲーターとして機能します。

The Good Lobbyのホームページより。

評価できる企業の活動の情報は、まだ十分ではない。評価の活動を行う会社のデータをうまく活用したい。
企業にはDIAGNOSTIC(自己判断ツール)を提供し、自己査定してもらう。 
自己査定は、質問の答えをシステムがスコアリングし、改善点がどこなのか 例えば、業界団体所属を明示すべきだ等の改善点が示されることになる。
企業のベースラインが出来て来る。来年は20%、30%上げるとか。グローバルな企業において、評価を使う企業が広がっている。どんどんと広げていきたい。

1回の説明と、英文のホームぺージで、システムの詳細の把握は厳しいですが、ESG投資の文脈に政治的活動の説明責任を加える、そのための評価分類システムの導入という認識を持ちました。

4.日本における企業の政治的活動の透明性の確保についての検討


19時過ぎからのセミナーの後半、19時50分過ぎからは、
 
 「良いロビング」の定義は?
 「良いロビング」のための規制のあり方は?
 「よりロビング」のための市場の仕組みとは?

という言葉を掲げながらのアルベルト・アルマノ氏、藤井宏一郎氏に、福田峰之氏(多摩大学ルールメイキング形成戦略研究所・九州大学客員教授)(元衆議院議員)を加えてのパネルディスカッションとなりました。

福田氏、アルマノ氏、藤井氏


日本には、ロビイングの規制ない。登録、規制の法律ない。規制を作るべきか。ESG投資と同じように、政治的活動について、市場から開示のプレッシャーを企業に与えることができるかというところから話が始まり、様々興味深い話がありました。

実際、日本において、どれぐらいロビイング活動の透明化ができるか、それが様々な活動の足かせになるのではないかという話が、多くなされた感がありました。
例えば、ある企業がA政党の議員にロビイングに行ったことが分かると、B政党の議員のところへその企業がロビイングに来ても、B政党の議員は受け付けないのではないか。野党の議員のところにロビングに行ったのを、与党の議員が知るところになると、与党の議員の影響力による問題解決に支障が生じるので、野党議員へのロビイングは行われなくなるのでは。日本は政権交代がほとんどない状況なので、特に、そうした状況に拍車がかかり、政治活動の足かせになるのではないか等の話です。

一方で、政治との多数のチャンネルを持つ大企業と、そうしたものがなく、ロビイングを、各議員のところへ正面から「お話を聞いていただきたいのですが」と持っていかざるを得ない草の根レベルのロビイングとは、線を引いて扱うべきではないか等の話もありました。ドイツでは、教会と労働組合のロビイングは透明化の対象外となっているとの話もありました。

私は、草の根レベルの市民によるアドボカシーを主に扱う、NPO市民アドボカシー連盟の会員として、その勉強会に参加しています。そのレベルでもロビイングの在り方は議論され、NPO/NGOなどの市民セクターが社会的責任と責任あるロビー活動を遂行するための参考資料として『草の根ロビイング倫理規定』を策定しましたが、その際に、お手伝いをさせてもらいました。


アルマノ氏の言うように、ロビングで声を広げることができる。新しいチャンネルをもたらすことで、政治のシステムを変えることができる。それを一層推進するために、政治的適切性を企業に求めることは大切と考えます。一方で、話に出たように、一律の透明化ではなく、どこかで線を引いて、マイノリティーの市民のロビイングは手厚く支援する必要があるのではないかと考えます。自主的な倫理規定に行動は委ねるレベルで当面は良いのではないかと思いました。

また、ESG投資の視点を広げ、企業に透明性を求めるとしても、政権交代が少なく、政治において、何をやるより誰がやるが重視されるような風土のある日本の状況の中では、例えば、東証プライム市場に上場している企業というようなもの、それらの企業は、政治とのチャンネルもそれぞれ多数持ち、透明性を高めても対応できる部分が大きいと思われますので、まずはそこに限定して始めたら良いのではないかと思いました。


アルベルト・アルマノ氏

セミナー終了後、懇談時間がありましたので、個別にお話しをさせてもらいました。
藤井氏に、透明化の対象を、どこに線を引くかは難しいとのことでしたが、まずは東証プライム上場企業から始めるのはどうかと申し上げたところ、「それに、後は外資の大企業を対象にするのでしょうね」との答えをいただきました。
アルマノ氏には、「先日、駅前である政治家が、「ある企業と政府が結託し、国民に情報を知らさず、国民に特定の施策を強いている」旨の演説をしていた。その内容が真実でないなら、企業の政治的活動を透明化することで、企業に対する疑い、政府に対する疑い、国民の不安を除去することができると思う」話したところ、アルマノ氏は、「まさに、今日、私が話したことがあてはまる例だ」と言われました。私は、それゆえ非常に共感した旨伝えるとともに、日本の独特の政治風土を考えると、草の根レベルのアドボカシーは保護し、東証プライム上場企業等から対象とし、始めれば良いと思った旨申し上げました。もちろん、アルマノ氏の提案も、投資家をまず監視者にし、投資対象となる企業の行動をターゲットにしているのですから、私のは発言は、その日本における一つの具体化の考えにすぎません。アルマノ氏は、グータッチ(?)のグーを突き出し、「The Good Lobbyを広めましょう。」と笑顔で述べられました。そういうことで、私はアルマノ氏とグータッチ(?)をして、セミナー会場を後にしたのでした。


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