カッコいい辞典「お」

「お祝い」なのさ。

カッコいい男たるもの、お祝いの一つで相手に心震わせられなくて何がカッコいいのさ。

僕はアルバイトで飲食のホールをしている。

お客様が誕生日プレートを注文することがあるのは至極まっとうなことである。

この前初めてお客様に誕生日プレートを提供する大役を仰せつかった。

普段カッコいい辞典を編纂している身として、ばっちり決めなくてはならない。

そう思った僕は何が一番スマートな提供の仕方か考えた。

考えたというか悟った。

これは、提供時、ぼそっと「おめでとうございます」とお客様の聞こえるか聞こえないかの声量でこぼすのが一番カッコいいと。

いざ行かん。カッコいいの境地へ。

ロウソクが消えないよう細心の注意を払ってテーブルにたどり着いた僕は少々逡巡した。

祝われるのが野郎だった。

失礼。男性であった。

てっきり女性で、僕のカッコいいしぐさでギギッとさせたかったのだがまあいい。男性にもギギっとなってもらおう。

ちなみにギギっととは、キュンの最上級系である。僕が勝手に使っているだけなので皆さんも多用してほしい。

話を戻そう。

テーブルにプレートを置く瞬間に一言こぼす予定だったので実行したが、相手が男性であることと、プレートを提供することが初めてであったことが重なって、一言がかなりでかい声になってしまった。

僕「おめでとうございます!」彼女「サトシ君おめでとう!」

やべえ!かぶった!

考えてみれば、誕生日のお祝いで第一声目は彼女からの祝福を受けたいのは至極当然のこと。

どこの馬の骨かもわからない店員からの祝福なぞ誰がいるというのであろう。

完全にカッコ悪かったのは僕だ。

大反省である。

さて、その日が過ぎ去り

再び誕生日プレートを提供する大役を仰せつかった僕は、今度こそスマートに決めてやるぞと意気込み、

余計なことは言わず、ただ提供してすぐに去り、二人の幸せな時間を満喫してもらおう。

そう心に誓った僕は誕生日席から離れた場所でロウソクに火をつけた。

その時、

ロウソクに火のついたプレートを持ち上げようとした僕の目の前に、

誕生日の当事者がきた。

プレートをチラ見して自分の名前が書いてあることを確認しながら、

「お手洗いどこですか?」

と聞きに来たのだ。

めちゃくちゃバレた。

大失敗である。

だがこれに関しては一家言ある。

自分が誕生日だと知っているはずだし、食事で祝われていてプレートが来るのは予想できたはずだ。

何故待てない。

だがこの戯言はとてもカッコ悪い。

なんだか日に日にカッコ悪くなっている気がする。

これではだめだ。

バイトをもっと真剣にやろう。

それが芸事にもつながるのは先のカッコいい辞典でも述べた。

皆さんもカッコいい辞典を参考にカッコいいを極めてほしい。

どっちが早くカッコよくなるか。

一つ競争と行こう。


ここまで読んで頂きありがとうございました。
また逢う日まで。

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