フィナンシェのスキームと法、税、会計

I. はじめに

最近話題のフィナンシェ。
「トークン!!ウェイ!!」みたいな一部のweb3の人の間で盛り上がりを見せているが、実はCAMPFIREやready forなどのクラウドファンディングのプラットフォームと同じく、どちらかというとweb2的な購入型(or寄附型)のクラウドファインディングのプラットサービスを提供している。

ざっくりサービスを解説する。

  1. フィナンシェが発行するフィナンシェポイントをクレジットカードで購入する

  2. 購入したフィナンシェポイントでフィナンシェ上のクラウドファンディングのプロジェクトに寄附することができる。寄附の返礼品としてトークンと呼ばれるプロジェクト固有のポイントが付与される

  3. そのプロジェクト固有のポイントであるトークンを売買するマーケットプレイスがアプリ上にあり、そこでトークンの値段がつき、売買されている

  4. 売却したトークンは現金で自分の指定した銀行口座に出金される

特定のプロジェクトに寄附するとトークンがもらえ、そのトークンを持っている人がそのプロジェクトのサポーターとして、持っているトークンの数量に応じてプロジェクトから特典がもらえたりする仕様になっている。

人気のプロジェクトのトークンは皆が欲しがるので値段が上がり、高値で売買されている。

ここで、いくつか疑問が出てくる。

  • そもそも法的に大丈夫??

  • トークンに関する税金は?

  • 企業が参入した時の会計処理ってどうなる?

いつものweb3の制度的な論点である。

フィナンシェにおけるこれら法、税、会計が純粋に気になったので、僕が考えるフィナンシェの制度上の整理を以下に取りまとめる。

以下は、専門家としての正式な見解ではなく、1ユーザーとしてアプリを触った個人の感想であるという点をご理解いただけると幸いです。

II. スキームの整理

まず、スキームを整理する。
上記に示した1.ポイントを販売する、2.プロジェクトへ寄附する、3.マーケットプレイスでトークンを売買する、4.トークン売却代金の出金にプロセスを分けて説明する。

1. ポイントを販売する

ユーザーはクレジットカードでの決済によりフィナンシェアプリ上で利用できるポイントを購入する。
つまり、フィナンシェはユーザーにアプリ内ポイントを販売することになる。

2. ポイントをプロジェクトへ寄附する

フィナンシェアプリの中には寄附を募っているプロジェクトが複数存在しており、ユーザーは支援したいと思うプロジェクトに寄附をする。

その際に1.で購入したポイントを寄附することになる。

寄附を受けたプロジェクト側は、クラウドファンディングの返礼品として各プロジェクトが発行しているトークンをユーザーに付与する。

3. マーケットプレイスでトークンを売買する

2.のプロジェクトへのクラウドファンディングの返礼品として付与されたトークンは別途フィナンシェが運営しているトークンのマーケットプレイスで売却することが可能である。

フィナンシェユーザーであればが自由に値段を設定してトークンを売買することができる。

4.トークンの売却代金を出金する

3.のマーケットプレイスで売却したトークンの売却代金はユーザー指定の銀行口座に出金をされる。
以上が、一連のフィナンシェのスキームである。

ここで強調したい点は財産的価値が現金(クレジットカード)→ポイント→トークン→現金と移り変わっている点と、それがすべてフィナンシェのアプリ内で閉じられているという点だ。これを念頭に置いて以下の説明を聞いていただきたい。

なお、スキーム紹介の最後にすべての取引を1つの図に取りまとめたものを添付しておく。

III. 法律

スキームの整理ができたところで、次はこれらの一連の取引の法律上の整理について考えてみる。
僕はいつもブロックチェーン上の財(トークン、暗号資産、ステーブルコイン、前払式決済手段)を分類する時に以下の図を使うので、ここでも同様に以下の図を用いて説明する。

上記スキームの1.でユーザーに販売するポイントと、2.でプロジェクトへの寄附で返礼品として受け取るトークンについて当てはめる。

結論を申し上げると、いずれも資金決済法という法律に抵触しない形で整理している。

1. ポイント

まず、フィナンシェはユーザーに対してポイントをクレジットカードで販売するので、最初の分岐は「有料」に進む。

そして、購入したポイントは市場で価格が変動するようなものではないため、次の分岐で「固定」に進む。
さらに3つ目の分岐にあたって利用規約第10条を見ていただきたい。

ここに購入したポイントについては180日の有効期限が付されており、180日を過ぎると失効する記載がある。したがって、3つ目の分岐は「6か月で失効する」に進む。ここでいう「その他」は特に法律の規制対象外という意味である。
結果、資金決済法の規制に該当しないスキームが成立する。
仮に180日の失効規制がない場合、このユーザーに販売するポイントは前払式支払手段に該当することになる。その場合、フィナンシェは金融庁に届出を行う必要があると共に、販売したポイントの半分を法務局に供託する必要がある。

2. トークン

まず、トークンについては利用規約第3条第12項をご覧いただきたい。

「株式ではなく、前払式支払い手段ではなく、法定通貨でも(ステーブルコインでも)、暗号資産でもない」と謳われている。つまり、資金決済法及び金融商品取引法で規定する財ではないという整理になっている。
他方で、「発行後に時価で取引される」という記載もあり、実際にフィナンシェアプリ上のトークンのマーケットプレイスで時価で取引されている。これはビットコインやイーサなどと同様に暗号資産のようにも見て取れる。
先ほどの図に当てはめると以下のようになるようにも思える。

ここで、改めて利用規約の第3条第12項を再度ご覧いただきたい。

「本サービス(つまりフィナンシェ)以外では一切利用できない」と謳われている。
この一文は資金決済法で定める暗号資産の定義

「物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値」

に当てはまらないように整理しているものと考えらえる。

以上、トークンはフィナンシェ上では売買できるが、フィナンシェ以外でモノを買う場合の対価として支払手段とし利用できないため、暗号資産ではないという整理である。

IV. 税金

ここではトークンの税務上の処理にフォーカスしたい。
上記のとおり、トークンは暗号資産ではないため、国税庁からリリースされている暗号資産の税務上の取扱いをそのまま準用して課税関係が決定されるわけではない。
他方で、(暗号資産に該当しない)トークンに関する税務上の取扱いが明文化されているわけではない。そのため、税法の一般原則に従って判断することになると考えらえる。

時価評価されるか?(法人税)

法人で暗号資産を保有する場合は期末時時価評価課税がなされるが、フィナンシェ上のトークンはどうなるか?
時価評価課税の必要はないと考えられる。
保有資産の時価評価課税が求められるのはトレーディング目的の有価証券や暗号資産に限定されており、トークンが売買目的有価証券や暗号資産ではないからだ。

では、いつ課税される?(法人税・所得税)

トークン売却時に課税されるものと考えられる。トークンの売却によりフィナンシェから対価が入金され損益が確定するからだ。
税額の計算基礎は、、トークンの売却代金からトークンの取得価額を差し引いた額となる。これがトークンの売却により得た利益になるからだ。

(エアドロなどで)トークンを無償でもらった場合は?(法人税・所得税)

これは判断が悩ましい。
もらったタイミングで課税される場合と、売却したタイミングで課税される場合が想定される。
一般論としてもらったタイミングで課税される場合は財産的価値のあるものを取得した事実に課税の根拠を見出す。一方で、売却したタイミングで課税される場合は現金に転換された時点で利得が確定した事実に課税の根拠を見出す。
個人的にはフィナンシェ上のマーケットプレイスで即時に売却可能な状況があるため、トークンをもらったタイミングで、もらったトークンのその時点の時価に基づき課税される可能性が高いと考えている。

所得の分類は?(所得税)

雑所得に分類される可能性が高いと考えられる。
トークンは土地、建物、株式などの譲渡所得の資産に含まれないため、キャピタルゲイン課税が適用されないからだ。
つまり、暗号資産の課税関係と同様に取り扱われ、最高税率55%で課税される可能性が高い。

V. 会計

税務上の整理と同様にトークンは暗号資産ではないため、暗号資産に関する会計基準(実務対応報告第66号)がそのまま準用されるものではない。
では、どうなるか?

1. ポイント購入時及びトークン取得時

ポイント購入時は貯蔵品や前払費用などの流動資産項目として計上され、ポイントを寄附しトークンを取得した場合も引き続き貯蔵品や前払費用などのその他流動資産に含まれる項目で計上しても差し支えないものと考えらえる。
積極的にポイントやトークンを示す勘定科目が財務諸表等規則に定義されていないからだ。

2. トークンの期末時価評価

これは判断が極めて難しい。トークンが金融商品会計基準に定義する金融資産に該当しないと考えられ、従って、金融商品会計基準に則って時価評価することは妥当ではないと考えられる。
その場合、トークン価格が上昇した場合は取得原価で評価し、トークン価格が著しく下落した場合は回収可能価額まで投資簿価を切り下げ、差額を損失処理する所謂減損と同様の会計処理が考えられる。
また、利用規約上では「時価で取引される」旨が謳われており、フィナンシェアプリ上の時価で回収可能な資産であり、仮にトークンの時価の上昇を期待しているのであれば、投資の成果は時価であることから時価評価が妥当であるとも思われる。
その場合、バランスシートでトークンを時価評価した上で、評価損益を営業外損益で処理するのが妥当である。

以上、会計方針を策定の上でトークン取得の目的に応じて、時価評価するか、原価評価とするか、各社で決定する必要があるものと考えられる。
なお、フィナンシェアプリ上で表示される価格(時価)が会計基準で求める時価の基準を満たすか合わせて検討する必要がある。

3. トークン売却時

トークンを売却時に出た売却益は、営業外収益でトークン売却益などの適切な科目名を付して計上するか、もしくは雑収益に含めて処理することも考えらえる。

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