IEO(Initial Exchange Offering)に関する会計処理

I. はじめに

IEO(Initial Exchange Offering)がなんとなく盛り上がってきているような気がする。

2021年から2022年にかけて一気に盛り上がったNFTプロジェクト。2023年にクリプトの冬が到来すると一気に盛り下がりあらゆるプロジェクトが淘汰された。

が、、しかし、、

クリプト市場全体が回復の兆しを見せてきた2023年後半から「IEOを検討しています」という話を耳にする機会が増えてきた。
「IEOの審査プロセスが緩和される」という話もあるし、IEOというイベントをビジネスとして支援する事業者の意向もあり、2024年はIEOは増えていくであろうと個人的には見ている。

IEOを検討している上場会社も複数社出てきており、未上場のスタートアップが隅っこでコソコソやっているというフェーズから次のステージに上がってくる予感がする。

上場会社が手を出してきたとなれば会計処理の問題が切っても切り離れない。

不特定多数の株主が存在する上場会社は四半期ごとに決算の状況を報告する義務を負っており、更に年度の決算では株主総会にて承認を受けて、財務局への決算の状況をファイリングする義務を負っている。

そのようなプロセスを踏むために、IEOのような比較的大きなイベントの会計処理をどうするか?というのは上場会社の決算上も重要なトピックになることが多いからだ。

以下でそのIEOの会計処理について解説をする。

そもそもIEOとは?という点については説明を省略する。いくつかのサイトで紹介されているので、それらを参照していただきたい。
以下ではcoindeskの記事のURLを貼っておく。

https://www.coindeskjapan.com/learn/ieo-ico-sto/


II. IEOの会計基準

現在日本においてトークン及び暗号資産の発行に関する会計処理は存在しない。
(暗号資産の保有に関する会計基準は存在している)

つまり、株式会社が自らが暗号資産の発行体となり、企業が自ら暗号資産を発行し他の財と交換する取引について会計基準が整備されていないのである。

現時点で暗号資産の発行に関するルールとして存在しているのがJCBA(日本暗号資産ビジネス協会)より公表されている「暗号資産発行者の会計処理検討にあたり考慮すべき事項」のみである。

よって、この「暗号資産発行者の会計処理検討にあたり考慮すべき事項」で示されているIEOに関する会計処理について以下で解説する。

III. IEOの会計処理

JCBA(日本暗号資産ビジネス協会)ではIEOに関する会計処理の考え方を3つ示している。

  1. 調達した資金を使用した時点で収益認識する方法

  2. 約束した成果物が納入された時点又はマイルストーン達成時に収益認識する方法

  3. 一定期間に応じて収益認識する方法

以下、それぞれについて解説するが、この3つの共通点はIEO時に収益認識せずに、IEO後に発行体の履行義務を充足した時点に収益を認識するという点である。

つまり、通底する考え方として、IEOは資金調達手段であり、調達した資金をプロジェクト(=事業)に投下し、プロジェクトに価値が帯びることで、IEO参加者に経済的にも報いることを前提としている。

では、以下で解説する。

1. 調達した資金を使用した時点で収益認識する方法

これはIEOにより集めた資金を使った段階で収益を認識する方法である。
一般的にはIEOを実施する際に集めたお金を何にどれくらい使うか?をホワイトペーパーと呼ばれる目論見書のようなものに記載する。

そのホワイトペーパーに記載された通りに資金を使用した時点で収益計上を行う。

例えば、10億円IEOで資金調達をしたとしよう。
ここで、調達した資金をマーケティングに3割、開発に4割、デザインクリエィティブに2割、リーガルに1割、それぞれアロケーションすると計画しているとする。

この場合、IEO時には調達した資金10億円を負債計上した上で、マーケティング完了時に3億円、開発完了時に4億円、デザインクリエイティブ完了時に2億円、にリーガルイシュー検討終了時に1億円それぞれ収益認識する(負債から収益に振り替える)。

2. 約束した成果物が納入された時点又はマイルストーン達成時に収益認識する方法

これはIEOにより集めた資金を投資し、投資の成果に応じて収益を認識する方法である。

ゲーム、コンテンツ、プラットフォームなどのプロダクトを作ることを計画し、この資金調達の手段としてIEOを実施するケースがあり、そのプロダクトの開発に関するロードマップをホワイトペーパーに記載するケースがある。

そのロードマップに記載された機能の開発が完了し、プロダクトに実装されるのに応じて収益認識を行う。

例えば、10億円IEOで資金調達したとしよう。
ここで、IPの開発に2億円、ゲーム開発に4億円、アプリ開発に1億円、マーケットプレイスの開発に3億円それぞれ開発コストがかかるとする。

この場合、IEO時には調達した資金10億円を負債計上した上で、IPの開発完了後に2億円、ゲーム開発完了後に4億円、アプリ開発完了後に1億円、マーケットプレイスの開発完了後に3億円それぞれ収益認識する(負債から収益に振り替える)

3. 一定期間に応じて収益認識する方法

これはIEOにより集めた資金を投資し、完成したプロダクトをユーザーが使用する期間に応じて収益を認識する方法である。

サービス提供期間の定めがある場合は当該期間に応じて収益を認識し、また、期間の定めがない場合は、ユーザーの利用期間を見積り、当該期間に応じて収益を認識することが考えられる。

例えば、10億円IEOで資金調達したとしよう。ここで、サービス提供期間が5年であれば、IEO時には調達した資金10億円を負債計上した上で、5年に渡って毎年2億円が収益認識する。

また、各年度のアクティブユーザー数に応じて、サービス提供期間を加重平均する方法なども考えられる。

IV. おわりに

以上IEOの会計処理に関してその考え方が3つ掲げられている。しかし、これらは会計基準の設定主体であるASBJ(Accounting Standard Board of Japan)より出された会計基準ではなく、JCBA(Japan CryptoAsset Business Association)という業界団体のガイダンスである。

事実、「暗号資産発行者の会計処理検討にあたり考慮すべき事項」には「会計処理の結論を示すものではない」と再三注意書きが入っている。
従って、準拠性に乏しい。

よって、IEOを検討される場合は、これらを参照しつつ、自社で会計方針を策定の上で、会計処理を行う必要があり、監査人の同意を得られるのは依然難しいという点は改めて強調しておく。

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