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研究費の半分以上は失敗のためにある

大学卒業後の1991年に私は妻と渡米した。その後、私は2つの研究室で育てられた。特に2つ目の研究室、Joseph(Joe)Takahashi博士は私の科学者としての思考の基盤を確立してくれた。彼の研究室は大変大所帯だった。一番多い時で60人以上の研究者がいた。彼は大変忙しい人でほとんど研究室にはいない。世界中を飛び回っていた。あれやれこれやれということはほとんどない。自分たちで好き勝手にやっていた。新しい手法、技術をすぐに取り入れる風潮があり、研究好きには最高の環境だった。当然、何をしたらいいかわからない人には地獄だったに違いない。ある意味、研究者を自然淘汰するような研究室だった。

まだ娘たちが小さかったので、私は、夕方には家に帰り食事をしたり遊んだりした。もし独身なら研究室に住んで、朝から晩まで週7日、年365日仕事をしていたと思う。妻曰く、私たちに感謝しなさい。私たちのおかげで、あなたは世間でいう“まとも”な人間でいることができたのよ(笑)。

Joeが研究室に姿を見せると、彼の部屋の前には長蛇の列ができる。自分の結果を見てもらい、今後の指針をもらおうと。アポなしで突然10人くらいの人間が現れ、どんなことを言ってくるかわからない。そして決断を迫ってくる。まともな反応をするのは困難なはず。その光景を見て、アポなしで人に会おうとしてはいけない、ということを学んだ。

その後Joeとトイレで出くわし、“大変ですね”と言ったら、笑いながら、

“彼らはうまく行った時のデータしか見せない。しかしその裏には失敗データが山ほどあるはず。私はそこが見たい。決して失敗を非難するためではなく、そこから学ぶため。研究費の半分以上は失敗のためにあるのだから。”

彼の研究室のテーマのほとんどは、うまくいくかどうかわからないような内容が多い。武田邦彦先生の言葉を借りればいわゆる“暗闇研究”。手探り状態で進んでいく。どうやったら正解に到達できるかわからない。その前に正解があるかどうかもわからない。だから多くの失敗が蓄積されている。正解に到達する前に諦めた研究者を数多く見てきたし、その中には研究者の道を諦めたものも少なくなかった。

ベンチャー会社は“暗闇研究”。”研究費の半分以上は失敗のためにある”と言える会社が私の目標。

私が学んだ教訓:失敗はお宝の山。


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