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酔たりエッセイ 密造酒

飛び切り上等の日本酒を頂いたのでそれを自宅で頂戴するためにそれなりの演出が必要な状況になった。
安普請で古くて老朽化だけが味わいの木造住宅だからなんの目新しさはないのだが。
まず飲む量を決めておかなければならないと思った。
高級酒だから大雑把ではいけない。
1合、180ミリリットルだと心もとないほど少なく、3合、540ミリリットルだとかなり危うい。その間を取って360ミリリットルにしようかと迷う。
それにしても日本酒を相手にすると無意識に計量単位が
「合」になる。 これも不思議。でも山も合だし、ご飯の量も合だし。
合コンの合ももそうなのかと思うがそれはきっと違う。合格だな。
なので飲む量を396ミリリットルにした。
特に理由はないが2合の1.1倍とした。消費税、深夜割増、ご祝儀割増。
396ミリリットル、もはや目測や料理用の計量カップでは測りきれない。
500cc マックスレンジのメスシリンダーが必要だ。
そんなものが家にあるわけもなく、 もしも500cc メスシリンダーが 隠すようにあったとしたら当局の捜査を受けることになるのかもしれないと思った。 計量はヤクルト1000の空き容器を代用する。 細かいところは目測。 自らの指定量を大盛にすることはわかりきっている。
気前はいいのだ。
まず準備するのはヒノキの3勺升。ヒノキの升は乾燥させればさせるほどヒノキの香りが漂う。
日本酒の香りと実に良く合う。 肴は貝の刺身を主体としたのだがスーパーに行くと ホタルイカが売っていたのでホタルイカキムチを作った。 もしくはキムチホタルイカ、 どっちでも同じですが。 最強の日本酒のアテであることは間違いない。と、同時に尿酸値上昇の最強のアイテであることも間違いない。
次は照明。和室の鴨居にクリップ式の照明器具に電球色の20ワットのクリプトン電球を付けて天井を照らした。単純明快間接照明。
音楽は?
流れ的にはエンカでしょうや、との声が聞こえなくもないがそうはいかない。そうもいかない。
ニールヤングやらディランやら。もはや民族音楽とも言える演歌はいらない。
濃密な週末の夜、減塩醤油だけが薄い。
いただいた日本酒からヒノキの匂いと、あろうことかほんのりとヤクルトの匂いが重なっていた。密造酒を飲んでいるような気分になった。
       おわり

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