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ソースの海、ショーユの風

旅の途中、日本海に面した山形県の遊佐というところの海岸に寝転んでいると一匹の痩せた犬がやってきた。

首輪がついていたので近所の飼い犬と思えたがその首輪のサイズと実際の首のサイズに大きな乖離がありその犬は飼い犬ではあるがどこからかの脱走犬に思えた。放浪中に痩せてしまったのだろう。

黒色の艶のある毛は中濃ソースを思わせたのでそのイヌの名前を暫定的にソースと名付けた。
流木の上に座って海を見ていたらソースも僕の隣に座った。 海を見ながら色々な話をした。とは言いつつも僕が一方的に 話しているだけなのだがソースは海を見ながら一生懸命僕の話に耳を傾けた。

時々視線を感じてソースを見るとじっと僕を見ている。目が合うと軽くしっぽを振りまた遠い海に視線を移す。 そんな会話がしばらく続いた。もちろん犬だから話の内容は理解するはずもないが音としてさらには声としてその抑揚を感情としてとらえているのであろう。話が途絶えるとソースは僕に視線を寄せて「それで、それで?」という言葉を求める表情になる。 リュックの中をまさぐると、新幹線の車内販売で買った ブルボンのビスケットが出てきたのでひとつ上げた。 ソースはそのにおいをかいでから微妙な表情をして僕の手を舐めた。気持ちだけ頂いておきます、の。

話を理解しているのだなと思った。合図だったんだろう。

宿に移動する時間が近づいてきたので僕はその場を後にした。 僕が国道側に上がろうとするとソースは何事もなかったように僕の反対側に去っていった。

日本海から夕陽の赤混じりの醤油みたいな夕暮れの風が吹いてきた。

目前にはまさしく鳥が羽根を降ろしたような形の雄大な鳥海山が繰り広がっていた。

また逢おう、ソース。
生きていてくれ。

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