心理学とスピリチュアルの違い

私の身近な人がスピにハマり始めました。
その人は心理学の勉強もしていたのに、なんだか残念な気持ちです。

さて、心理学とスピは相性がよく、混同されがちだったりします。
公認心理師のブロガーでも、スピな感じの記事を書きまくっている方もいらっしゃいます。
高額なわけわからない商品を売りつけるのは論外として、人の話を聴き、人の悩みに応える心理学とスピはなにが違うのでしょうか。
私は心理学の大学に通い始めたばかりですが、過去10年近く対人支援の仕事をしており、自分も心療内科やカウンセリングにかかった経験があります。あくまでそういう人がこの記事を書いているのだと思ってください。

まずスピのほうですが、これは様々なアプローチや程度があります。カルトっぽい感じのスピに関しては雨宮純さんにおまかせするとして、割とソフトな感じのスピはどうなのかというと、相談者に対して「実はあなたは」とか「深層心理の部分では」とか「◯◯に当てはめて考えると、あなたは◯◯な人ですね」なんて言ったりします。
概ね、「そんなに悩んでいるあなたは実は◯◯な人で、あなたはもっと自分を大切にしていい」みたいなことを言って本を買わせたり、小麦中心の食事がダメとか言ったり、医者が出している薬は飲んだらダメとか言います。
このように、内面をぴたりと当てて、次のアクションをどうしたらいいのか風のことをアドバイスするのです。

心理学、特に臨床心理など対人支援の場ではこのようなアプローチはしません。アメリカ映画などで心理学者やカウンセラーが殺人鬼の内面を分析して、生い立ちをリサーチして、パーソナリティに仮説を立てて、その殺人鬼がなにものなのかを見つけていくストーリーがあったりしますが、実はあのようなアプローチはほとんど行いません。
現代の対人支援の現場では、まずはロジャースのカウンセリング論にのっとって、心理相談の対象者をクライエントとし、クライエントがその時話したいことを積極的に話してもらいます。話したくないなら、可能な限り話すまで待ったりします。
映画『グッド・ウィル・ハンティング』のロビン・ウィリアムズ演じるショーン・マグワイアのようなアプローチを想像してもらえればと思います(あの映画でも後半はショーンがアドバイスをする立場になっちゃいますが)。
基本的に支援をする立場の人間がクライエントにアドバイスをすることはありません。
ですから、「人を殺したいんです」とか「自殺をしたいです」と相談しても支援者側が「それはダメだよ」「そうか、でもね」なんて切り出してはダメなのです。
せいぜい「そうか、そうなんだね。僕は今、人を殺したいって聞いて驚いちゃったよ。よかったら、もう少し詳しく話を聞かせてくれない?」と自分がどう感じたのかを言うくらいにとどめて、相手の考えを否定してはいけないのです。
クライエントの話を聞くなんて、一見なんの意味もないような気がするかもしれませんが、岡本茂樹氏による『反省させると犯罪者になります』にもあるように、まずは自分の中にある主張を思う存分吐き出してもらい、自分の弱い部分や情けない部分を自ら表現してもらうことで徐々に自分の中の自分と対峙してもらうのです。
なーんだ、人の話を聴くだけなんて簡単じゃんと思うかもしれませんが、それは違います。
否定せずに聴くというのは勉強も訓練もいります。
大方の人間は「人を殺したいんです」と告白されれば、それを止めようとします。
逆にそういうことを告白されて「うわー、こいつちょっとイッちゃってるやつじゃん」と思って聞き流せば、クライエントにバレてしまいます。
聴くというのは訓練が必要なのです。

ちょっと前まではカウンセリングの場で、相談者の深層心理やトラウマと向き合うなんて治療を行ったりもしてましたが、最近はまず行いません。
理由は、そんなことをしても相談者に負担がいくだけで、今を生きることに繋がらないからです。
過去にいじめを受けていました、ということと、今は引きこもってて職が見つからないんです、ということはその人のパーソナリティには関わるとしてもそれを分析したところで今の暮らしは改善されません。
医者ならヒアリングを行い必要な薬を処方しますし、カウンセラーならまずは本人が話したいことを40分ほど話してもらいます。
心理テストなんてものがあるせいで、心理学とはほんとうの自分を知ることができて、ほんとうの自分を知ればあとはその枠に当てはめて突き進めば幸せな人生が待っている、と思われる方がいますがそんなことはないのです。

話をスピに戻すと、スピの人たちはとにかく答えを提示します。
「あなたは、◯◯という人ね」と言ったり、商品を買わせたりします。

私が強く言いたいのは、「ほんとうのあなた」とか「人生の答え」を簡単に提示してくる人は要注意ということです。

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