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Door13: その国を好きになる予感~キングストン(ジャマイカ)

ジャマイカと聞いてなにを思い浮かべるだろうか。
レゲエ、カリブ海、ゲットー(スラム街)、ジャークチキン、マリファナ、治安の悪さ・・・
わたしが日本にいた時に連想できたのはこれくらいのもので、心惹かれるというよりは、むしろなんだか怖いなあと思っていた。
日本にも、ジャマイカの音楽、文化などにはまっている人はたくさんいて、
彼らを見ていると、ジャマイカの雰囲気はなんとなく分かるような気がしていたものの、自分にとってそれはそこまで魅力的には感じられなかった。

空港から出ると、真夏。もわっとした空気に包まれ、古いレゲエの流れる車に乗りこみ、宿を目指す。
これまでしばらく冬の季節の国々にいたので、体がびっくりしている。
車窓を過ぎて行く風景は想像していたよりもほのぼのとしていた。
動物の絵がペインティングされた、家の壁の前で子ども達が遊んでいたり、手持ち無沙汰な感じの、ドレッドに髭の男性がたたずんでいたり。

辿り着いた宿は、高級住宅街の中、鉄のフェンスで覆われ、何重にも大きな南京錠がかかっていて、その、ものものしさは、能天気な南国のムードにそぐわない緊張感を与えていた。
実際、ジャマイカの治安は非常に悪くて、昼夜問わず犯罪に巻き込まれる可能性は高い。

こんなにものんびりとして暖かな空気の中、宿から出たらリラックスすることはできないというのが、もどかしく、所在なかった。
とはいえ、食べるものもないし、お金もおろさなくてはならないし、宿の中でじっとしている訳にもいかない。
教えてもらったローカルなショッピングモールまで、とりあえずタクシーで出かけた。

始終緊張していたけれど、銀行のお姉さんはかわいい上に優しいし、フードコートには気になるメニューがいろいろある。
ジャマイカにはお弁当屋さんがたくさんあるのも印象的だった。
あれこれ迷って、山羊のカレーを注文した。
思ったようなくせもなく、おいしく食べながら、少し前に誰かから聞いた話を思い出す。

ジャマイカの森をバスで走っていると、時々横切る山羊を轢いてしまうことがある。
そうすると、たちまち、近所の人々が集まってきて、あっという間にその場で山羊をさばき、肉も内臓も、跡形もなく持ち帰ってしまうという話。

食後、まわりの席を見まわすと、ひとりのおばちゃんが上をむいて、口をぽっかり空けたまま、ぐうぐう眠っていた。
そこに、くすくす笑いながら近寄ってくる食べ物屋の店員達。
何をするのかなと思って見ていると、一人の店員がはちみつのチューブを取り出し、おばちゃんの口に思いっきり絞り始めた。
それでもびくともせず眠り続けるおばちゃん。
そこにいる人達と一緒になって、いっぱい笑った。

タクシーで帰る途中、運転手が「見てみろ」と指差す方を見てみると、家の前に座る警備員・・・と思ったら等身大の警備員の人形。
「why?」と聞くと、「security!」と言って笑う。

あかるい日差しによく似合う、のどかでかわいい人たち。
これらは極めて多面的なジャマイカの風景のひとかけらにすぎないけれど、初日にそういうものに出会えたのは幸せだったなと思う。


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