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ロシア国民は反戦の声を上げていないのか3

 さて、2022年2月のウクライナ侵攻が始まった直後に、話を戻します。

 多くの市民が街頭デモに参加して拘束されたり失職した以外にも、著名人たちが反戦の声明や大統領への公開書簡を出しました。そうした声明に名前を連ねた人たちは、公の場での活動を禁じられました。アーティストはコンサートができなくなり、映画監督は撮影予算をもらえず作品公開を禁じられ、研究者は所属先を解雇されました。本人のみならず、家族も弾圧や嫌がらせの対象になりました。

 当局による弾圧や動員を逃れて、国外に脱出する人が相次ぎました。国外移住できる人はすでに出国済みで、今国内に残っているのは、さまざまな理由で出国しないかできない人たちです。プーチン支持者もたくさんいますが、反戦の立場の人も少なくないと思われます。戦争には反対だけど、家族を食べさせていかなければならないから職を失うわけにはいかない。職を失わない、すなわち現状を維持するためには、黙っているしかないのです。自分と家族を人質に取られて、嵐が過ぎ去るのを、頭を低くして耐えて待っている、そんな感じだと思います。

 ロシアには「シロビキ」と呼ばれる警察、ロシア軍、ロシア国家親衛隊、連邦保安庁(旧KGB)、内務省、非常事態省、対外諜報庁などの治安関係者の数が異常に多いです。正確な数はわかりませんが、国民1人に対し2人の治安関係者がいるとのデータもあります。

 中でも軍隊は、高失業率の地方の貧困者の受け皿になっています。第二次大戦時の日本でも、動員兵の根幹を成していたのは、東北など貧しい地方の農家の次男や三男だったといいますが、ウクライナ戦線に送られている兵士の多くが、地方の貧しい家の若者で、仕事もない中で、それなりの額の賃金を目当てに、動員に応じた人々です。

 多額の借金の返済のために参戦する人もいれば、街頭や反戦デモの会場で拉致されて、あるいは家まで召集令状を持ってこられて、逃げようがなくてそのまま戦地に送られる人もたくさんいます。少数民族が多いのも特徴的です。

 このように、自分の意思に反して、あるいは貧困から、やむを得ず戦地に向かった兵の士気が高いはずはありません。理不尽な侵略者から祖国を守っている、士気の高いウクライナが、西側の武器支援を受けて勝利するかと思いきや、制裁下でも、人海戦術と天然資源の輸出による武器増産でロシアが踏みとどまり、米国のウクライナ支援予算が議会を通らない中、泥沼の消耗戦には終わりが見えません。

 これで、万が一ロシアが勝てば、弱肉強食の帝国主義が、再びまかり通ることになってしまいます。それは世界にとって、全く望ましいことではないですよね。

 では、私たちは、いったい何をすべきなのでしょうか? 

 ここで私に名案があるわけではありませんが、ウクライナ侵攻がいまだに続いている事実を、日本のメディアも国民も、すっかり忘れてしまったように思えます。少なくとも、ウクライナと、そしてロシア国内で声を上げられずにいる反戦・反体制の立場の人たちを支援するべく、情報を集め、日本として何ができるかを考え、議論していくことが大切なのではないかと思います。

 安全な場所に身を置きながら「ロシア国民はなぜ戦争に反対しないのか」と批判しているだけでは、プーチン政権の存続とウクライナ侵攻続行、そして最悪のシナリオであるロシアの勝利を後押しすることになるのです。

(写真は「酷すぎて何も言えない」と白紙を掲げて反戦の意思を示す市民)

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