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911

友人で仕事仲間でもあるレノアへのプレゼント。
とっておきの手作りピクルス。
4つのレシピを試して、一番美味しくできたと思う一品(笑)

そう、明日9月11日は彼女の誕生日。

周りの人の誕生日や年齢を覚えるのが苦手な私。
会話の中で年齢の話が出てきたりするから、身近な人のは大体(笑)はわかっているけれど、もちろん日本のように1コ違い(生まれ年でなく学年でいうところの)というようなことはこちらのスクールシステムでは適用しないわけで、細かいところの数字が私の頭の中では曖昧になっている。

でもさすがに911は忘れない。

911は
2001年のニューヨーク。
もちろんそれも大きいけれど
私にとってはここカナダでの緊急コールの911。

1年の間に10回救急車を呼んだ。
夫ジェイの在宅緩和ケアの時。

でもそんな記憶もだんだん苦しくなくなってきて。
激しい緊張は随分色あせてきた。


さて彼女への誕生日のプレゼントを詰める可愛いバスケットがないかな。
なんせ車がないもので
時々乗っけてもらっているレノアに頼むわけにもいかないし
間借り人のハンターEはクマ狩りに行くと言ってここんとこ姿を見ないしで
歩いて行けるお店に行くしかない。

思案していると

そうだ
Larry The Liquidator
があった。

このお店、最初通りがかりに見つけたときは
なんせそそっかしい私ですから
Liqu・・・・
の文字だけでお酒屋さん(Liquor shop)と思い込んでお酒の飲めない私は素通りしていた。

んでご近所のリタが
Larry The Liquidatorで何かを安く手に入れたと言った時も
やたらLやらRやらで聞き取れない私は名前とお店が一致ぜず聞き流していたのだ。

だから
あのお店のことかと一致したのは、ずいぶん経ってからのことだ。

ちなみにLiquidatorとは清算請負人というような意味でつまり、このお店は余った在庫(倒産後などの)を引き受けてそれを安くで売っているというわけだ。

ウォーキングのついでに寄ってみると
可愛いピンク色のバスケットを見つけた。

これはまさに先日、彼女が着ていたワンピースの色と同じだ。
ピンク色が好きに違いない。
その鮮やかなピンク一色のドレスが彼女にとても似合っていた。
彼女は私よりも8つ年上。
いつまでもこんなかわいいピンクが似合う人でいたいな。

野菜畑の巨大バターナッツスクワッシュも。

ポリス or   イマージェンシィ?
911にコールすると一番初めに聞かれることだ。

イマージェンシィー、プリーズ。

夫のジェイが瀕死の時が幾度かあった。
でもあるとき、在宅訪問のドクターが911へのコールはもうしなくていいからと言った。
その代わりオフィスに電話して。

彼女か担当のナースが来てくれるのだろう。
ただそう思った。

でも医療器具のない自宅で十分な緊急処置ができるの?

だからそういうことじゃなかったのだ。
私は症状緩和(Sympton relife)キットを厳重なデリバリーで受け取っていて。

ある日ジェイの具合が思わしくなくて。夜のお手伝いのマーガレットが来るのを待っていた。彼女はこのPSW(パーソナル・サポート・ワーカー)になる前はERのナースさんだったから、いつも的確なことを言ってくれる。
この日はすぐオフィスに連絡した方がいいと。電話をするとその夜の担当のナースが自分には何もできないから911のコールをしてくれと。

それで結局911救急隊を呼んだ。
ひとりになる私を心配してマーガレットは、次のおうちへの訪問時間ぎりぎりまで私と一緒に待ってくれた。

でものちにドクターが言った。
看護師にちゃんと伝えておくわ

つまり・・・。
その意味が分かったのはそれからまた数か月してからのことである。

いつもの診察を終えた帰り際、ガラスドアの前でドクターが言った。

大丈夫、穏やかに亡くなるから(He’ll die peacefully)

そうか彼女はジェイの病気を治すために来ているのではなかったのだ。
亡くなるために来ていたのだ。

幸せに穏やかに死んでいくために?

ERで死ぬものじゃないわよ!あの雑踏の中で。

マーガレットは言った。
それはわかる、何回もERに運び込まれて。
あわただしいストレッチャーの音と救急隊の声とナースの声とそして途切れない機械音とうめき声と・・。
でもそこは生きる望みがあってこそなのだ。

911
ポリス or イマージェンシィ?

今も電話越しの声を思い起こせる。
決まって落ち着いた女性の声だった。

そしてふっと思った。
よく乗り越えたな、私。

ピンクのバスケットに、巨大スクワッシュとピクルスのジャーを入れる。
バースデーカードも添えて。

セプテンバー・イレブン。
レノアの笑顔を思い浮かべながら。


日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。