服を捨てる

3月に引っ越しをすることにした。

それにあたり、少しずつ荷物の整理をすることとする。まずは洋服から。着る服なんかにまったくこだわりなんてないのに、収納ケースを引っ張り出すと、やたらに服が出てくるのには辟易する。

躊躇せずにどんどんゴミ袋に突っ込んでいくが、「サイズも合わないし、この服、絶対に着ないだろうなあ」なんて思うものでも、ちょっとした思い入れがあったり、それなりに高い買い物だった服は、「せっかくだし」という気持ちが働き、そっと畳んで横に分けておく。こんな自分でも、服に対する未練のようなものはあるらしい。

どんな所有物にも、思い入れは宿るものだ。しかし、と思考は立ち止まる。どうせいつか自分が死んだら、躊躇なく燃されてしまうばかりだ。引き取る人間がいなければ、本人の思い入れもへったくれもなく、「ゴミ」と帰していく。なんだか自暴自棄な捉え方だと思われるかもしれないが、人生も折り返し地点めいた年齢を迎えると、どことなく「終わり」というものが頭の片隅にチラついてくるのも道理だろう。

どうせいつか捨てられてしまう何かを、人間は己の「所有物」だと言い張って、後生大事にヤドカリのように抱えて生きていく。そう考えると「所有」なんて虚しいものでもあるが、そんな人間のいじましさが、またかわいらしくもある。

古着を詰め込んだゴミ袋は、全部で5袋になった。これが多いのか少ないのか。まずは君たちとは、今生のお別れだ。


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