一史 kazushi

詩人 第32回 詩と思想新人賞受賞

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詩人 第32回 詩と思想新人賞受賞

最近の記事

「百花図」より《白木蓮》伊藤若冲

息づく大地 そよぐ大気 風景の気配が見える       百花図を初めて見た時、 花そのものしか描かれていないのに 周りの様子が目に浮かぶのが不思議でした。 地表に漂うわずかに湿った空気、 時折そよぐ風、 揺れる影、 這う虫、飛ぶ虫などが 見えている気になったのです。 十年後に改めて見て、 若冲は花を写生したのではなく 花の持つ空気感を写実したのではないかと思い至りました。 空気感を描くなんてなぜ可能なのか想像もできませんが そう思うと納得できます。 【美術詞】短い言葉でアー

    • 《郵便配達夫》 佐伯祐三

      わが街パリが       腰掛ける         佐伯祐三はパリに行ってから、 突き抜けたように見応えのある絵を描くようになった気がします。 そんな彼を育てたパリそのものを現わすような郵便配達夫が よくもまあ現れたものだと思います。 出会うべきものが、出会うべくして、出会ったということでしょうか。 佐伯祐三は奥さんの加筆とか、いろいろ噂があるようですが、 ただ、この絵の前に立つと、 引き込まれてずっと眺めていたくなります。 【美術詞】短い言葉でアートを表現

      • 《黒い壺のある自画像》       エゴン・シーレ

        自意識を、  塗りつける     エゴン・シーレとロバート・メープルソープは 似ているなと思いました。 どちらも性的な欲求に突き動かされたような 強烈な自意識を持っていますし、 また、ともにヌードを捻じ曲げて、 身体の軋みから生じる快楽を 同じように追求しているのではないかと思えるのです。 違いといえば、何か美しいものを見出そうてしている メープルソープに比べて、 シーレは自意識を そのまま叩きつけているようなところでしょうか。 【美術詞】短い言葉でアートを表現

        • 《水より上がる馬》 坂本繁二郎

          風景の生きざま       坂本繁二郎の「水より上がる馬」は、 青木繁と坂本繁二郎の二人を取り上げた展覧会で初めてみました。 青木繁はモチーフの選び方からして、 評価されたいという意識が色濃いように見えました。 もちろん描いて評価されたいのは当然だし、 若い時にその意識が強く滲むのも当たり前だし、 そして実際に評価されているから凄い画家だと思います。 坂本繁二郎は若いうちから とりたてて目立つ素材を選ぶ訳でもなく、 ただ目の前の画題と向き合い続けているように思えました。

        「百花図」より《白木蓮》伊藤若冲

          《アフリカン・デイジー》      ロバート・メープルソープ

          かすかに匂い立つ花びらの 淡い光の向こうに 限りある時が見える ネットで探してみてもそれらしき画像は出てこないので、 記憶がいつの間にか変化しているのかも知れませんが、 最初に見たメープルソープの作品は 異様なまでに屈曲したチューリップの写真だったように思います。 花瓶から上に伸びた茎が180度のカーブを描いて 花は床に向いていました。 どちらかといえば無為自然、 あるがままにというのが好みの私にしてみれば、 茎を湾曲させていること自体が驚きでした。 美しさの基準が違

          《アフリカン・デイジー》      ロバート・メープルソープ

          《自画像》             レンブラント・ファン・レイン

          年輪のように 瞼を塗り重ねようとも 眼ざしは変わらない 心を描くために レンブラントについては オランダを代表する画家の一人として 教科書で名前を見たのが最初でした。 その後、なんの接点も無かったのですが、 ある時、撮影のライティングで 《レンブラント・ライト》と呼ばれる 当て方があるということを知りました。 これは斜め前の上から照らして、 反対の目の下に逆三角形の光を残す レンブラントが好んで使ったといわれる 光の照射方法です。 こんなところにレンブラントがー、 な

          《自画像》             レンブラント・ファン・レイン

          《築地明石町》 鏑木清方

          今少し 身構える気配 時に向かって 日本画を見ていると 描かれた当時の人たちと 絵の捉え方が違っている気がします。 例えば、 着物を日常的に着ている人は殆どいませんから、 柄や着こなし方など、 当時の人の見方とは、ずれがあるように思います。 日本画の顔に陰影が少ないのは、 もしかしたら白粉(おしろい)に 関係があるのかなという想像はしますが、 当時の白粉の普及具合がわからないため、 あくまでも空想に過ぎません。 もちろん、今とでは化粧のやり方も全く別物だと思います。

          《築地明石町》 鏑木清方

          《散歩、日傘をさす女》       クロード・モネ

          風にそよぐ日ざし 雲にとけゆく時間 高知県の北川村に「モネの庭」という庭園があります。 さほど期待をしていなかったのですが、 行ってみたところ、とても良い場所でした。 モネの絵のままの 池に架かった橋を目の当たりにした時には 心を動かされましたし、 何よりも庭の手入れが行き届いていて それだけでも行く価値はありました。 また行ってみても良いかなと思える場所でした。 【美術詞】短い言葉でアートを表現

          《散歩、日傘をさす女》       クロード・モネ

          《花鳥図》 狩野永徳

          節目が 跳ねる 伸びる 躍動する筋肉のように 初めて永徳の花鳥図を見たとき、 枝のポキポキ感に 心を打ち抜かれてしまいました。 樹齢を感じさせる幹と、 花をつけるしなやかな枝は、 永徳の筆さばきによって 命の力感に満ちた梅となっています。 【美術詞】短い言葉でアートを表現

          《花鳥図》 狩野永徳

          《ひまわり》            フィンセント・ファン・ゴッホ

          もがく 花瓶の上で 青空を失った 花弁はもがく 魂のように まだ、小学校に入る前のことだったと思います。 母が《アルルの跳ね橋》の印刷物を持っていました。 母は美術に縁がなさそうな人だったから、 何かの雑誌から切り取ったものだと思います。 その時は、ゴッホか何かも分からなくて、 むしろ跳ね橋という見たこともない 不思議な橋に興味を惹かれていました。 ゴッホと跳ね橋が結びつくのは その後、学校で美術の時間を過ごすようになってからです。 初めて、ゴッホ作品の実物を見

          《ひまわり》            フィンセント・ファン・ゴッホ

          《秋冬山水図・冬景図》 雪舟

          天からの線 射抜く 雪舟さんを初めて知ったのは 小学校低学年の頃、 ご多分にもれず涙で描いた ねずみの話からでした。 その後、 子ども向けの歴史の本で、 大名の大内氏が 中国から取り寄せた絵を見せて さすがのあなたも、 このような絵は描けないだろと言ったところ 雪舟が黙って 中国人画家の署名を水で拭くと 下から雪舟自身の署名が現れた という話も 読んだことがあります。 そんな雪舟さんは とんち話の一休さんのように 逸話の中の登場人物でした。 彼が実在の、 しかも影響力のある

          《秋冬山水図・冬景図》 雪舟

          《カフェにて》 藤田 嗣治

          ぽう、とした色気の中に 小鳥のさえずりのような キラキラした瞳を見るだろう 藤田嗣治は歴史によって、 作品や画家としての人生が 大きく揺さぶられているため、 スターのならではの 切なさを感じます。 《カフェにて》の女性は かなりエロティックな描写です。 1949年にニューヨークで 描かれたということですが、 当時復興途上だった 日本と比べて、 戦場にならなかった戦勝国には このように自分の人生を 生きている女性がいることが、 藤田のさらなる 創作意欲につながった気がします

          《カフェにて》 藤田 嗣治

          《Head of a Woman》        アメデオ・モディリアーニ

          ほほからあごへ 指の指紋をあてがうように触れる はなすじを撫でおろす ようやく向きあった まなざしに宿るのは 愛か、寂寥か。 モディリアーニは展覧会よりも前に、 「モンパルナスの灯」という映画で知りました。 モディを演じる ジェラール・フィリップの 品の良い雑味に魅了されたことを覚えています。 ラストはアヌーク・エーメが演じる ジャンヌ・エビュテルヌの笑顔だったと思いますが その後の悲劇を知ってからは、 切なさを禁じ得ない場面となりました。 モディリアーニの絵と彫

          《Head of a Woman》        アメデオ・モディリアーニ

          《Number 14 Gray》        ジャクソン・ポロック

          絵の具は 遠心力と重力をみなぎらせて 降りてゆく 織りなす刺繍糸のように 色を投げ出すポアリングの作品と同じように、 絵筆をキャンバスにくっつけて描くことはできると思います。 けれど、きっとポアリングのほうが、 良い線になるのではないでしょうか。 キャンバスから筆を浮かせることが 作品に与える影響について、 表現よりも技法が主体になるのではないか、 あるいは、描く動作を見せる パフォーマーなってしまうのではないかといった不安な気持ちを ポロックは抱えていた気がします。

          《Number 14 Gray》        ジャクソン・ポロック

          《麗子像》岸田劉生

          麗子のじょっぱいはじかみを 撫で、撫で、するよう、 写実する。 写実の力と変形の意図が、 見事な融合を見せてくれている気がします。 彼が二十歳の頃に描いた自画像も見たのですが、 落ち着いた色ではあるけれど、 筆がポップに踊っているのがわかります。 描くのが楽しくてしょうがない、 そんな様子がうかがえます。 【美術詞】短い言葉でアートを表現

          《麗子像》岸田劉生

          「ジャズ」より《イカロス》     アンリ・マティス

          鼓動する魂も ほとばしる躍動も たったひとりの重力を 虚空で支える 力にはならなかった 「ジャズ」という シリーズタイトルで考えれば、 とても音楽的で、 躍動感溢れる作品に思えるのですが、 「イカロス」という 作品タイトルをみているうちに、 絵を逆さまにしたくなりました。 怒るだろうな、マティス様。 【美術詞】短い言葉でアートを表現

          「ジャズ」より《イカロス》     アンリ・マティス