見出し画像

キムハソンから学ぶアジア人内野手がMLBで活躍した方法


ソウルシリーズの開幕も控え韓国だけでなく日本などのアジア野球大国全体でMLBの開幕が盛り上がり始めている。

そもそもなぜソウルで開幕することになったのか疑問に思う方は下記の記事を読めば大体の経緯は分かると思う。

要約すると、

・そもそも大谷がドジャースに入団する前からソウルの開催は決まっていた
・パドレスにはキムハソンという韓国のスターがおりソウルの開催を望んでいた。相手がドジャースなのは歴代に韓国スター選手が所属しており韓国でも一番馴染みのあるMLB球団だから
・ソウル開催をオファーしたのはMLB機構側

という感じで、ソウル開催に至る経営利益の苦労もあったらしいのでその辺は記事読むと面白いと思う。結果的には大谷の入団はうれしいハプニングだったらしいが。

ちなみに最後のMLB機構側が開幕戦の開催地を他国にオファーしてるのはこれに始まったことではなく、数年前から不定期に行われている。

我々が記憶に新しいのはイチローの引退試合となったシアトル対オークランドの東京ドームだろう。あの辺りからMLBは興行収益からスポンサー契約による増益に経営方針をシフトし始めている。

野球人気も世界で下がり続けていると言われる昨今、おそらく国内収益も飽和し世界市場に目をつけたことでこうしたMLBの人気を海外で広めようと開幕開催オファーに着手している。

昨年はロンドンでヤンキース対レッドソックスが開催され、来年はソウルシリーズでの反響もあり東京ドームでの開催も本格的に議論されている。日本ならスポンサー契約への宣伝だけでなく、放映権もエキシビジョンから高く売れるから日本が許諾さえすれば開催は間違いないだろう。

今年もドジャースの試合だけ不自然に民放で行われたのはそういう経緯だろうがそういった内部事情の話が全く報じられず大谷と夫人の反応ばかり放送しているのも哀しい所だ。

今年のソウル開催も相変わらず日本では大谷と山本がメインに報じられているが、MLBと韓国が意図していた凱旋キムハソンの魅力と

アジア人から内野手が出てくることはもうないという言説を覆した飛躍の方法を勝手に考察したいと思う。


アジア野球の基本から外れて獲得したゴールドグラブ

アジア人内野手として初めて栄光を切り開いたと言えるのは昨年のゴールでグラブの獲得でしょう。そしておととしから初めて新設されたユーティリティ部門での獲得。

元々アマチュア時代から守備には定評があり本職のショートの他にセカンドも守っていたがKBOでショート一本化。

パドレスに入団して2年目はタティスJr.が事故を起こし出場停止処分、また外野転向でそのまま穴を埋めるショートの出場がメインだったが、昨年はマチャドの怪我や補強が続くチーム編成の都合上再び複数ポジションに守ることで出場機会を増やし見事タイトルを獲得した。

彼の守っている姿を見ていて惚れ惚れするのは恵まれた体格から俊敏な動きを見せる器用さだけでなく、大型内野手の称号そのままにアジア人らしからぬ足のステップを最小限にしたダイナミックなプレーの多さだろう。

データを観ても年々複数のポジを守っているとは思えないレンジの向上も顕著に見られ、メジャーでも明らかにトップクラスの内野手と言って文句ない。

元々守備にも定評を持って渡米したが、入団1年目からそれまでの基本を根本から見直す作業が続いたようだ。


「MLBに来てボールハンドリングの矯正をしたのだが、今まで自分が知っていた守備とはまったく違った。昨年は試合出場こそ多くなかったが、決して遊んでいたわけではない。自分が上手くできる部門が何であるかを突き止め、守備に多くの投資をした。ハンドリングを矯正したり、ステップを変えたりしたことで、守備が楽になった」

この辺はアジア全体で共通していると思ったが、基本的に内野手は正面に入って捕球し上から投げなさいと指導される。

この「正面」を体の真ん中で捕ることだけを指すのか、グラブの位置の前で捕ることを正面と考えるのかで全く変わってくる。

前者であれば捕球よりも体でボールを前に止めることが優先事項になるし、後者であれば捕球しやすい位置にグラブを動かすことが自然と練習の中に取り込まれていく。

内野手の大前提からまず考えるとボールを前に落とすことが目的なのではなく、「確実に捕球して素早くアウトにすること」がプレーの目的であるはずだ。それならば全ての打球の正面に入るためにステップを刻むことは後に繋がる捕球にもスローイングにも目的から遠ざかってしまう。

自分が楽な場所でグラブを捕球できる位置を正面とするならばようやくそこから「ハンドリング」という概念がでてくるはずで、南米の選手などは既にそういった考えが共有されていると彼も危惧していたわけだ。

日本でもこの辺の考えのアップデートは少しずつプロの指導者から共有されてきてはいるが、こうした情報も外から入ってくるのが実情で相変わらず閉塞的なままである。

プロのキャンプでもわざわざハンドリングの練習をしている姿もそこまで見ない。(数年前阪神臨時コーチできた川相氏などはしていたが)

ましてやバックハンドやベアハンドなどで捕球して投げる選択はアジア人には中々ない。体格の違いとよく言われるがキムハソン曰くそうしたことも含めてアジア人で戦える使い方があると話しているのは興味深い。

彼はそういった前提の見直しと選択を増やしたことで明らかに守る負担は少なくなったと話しており、プレーの姿を見ても正に飛躍に繋がったのだと思える。

内野の守備理論に関しては三者三様で返ってくる実情に対してアジア人視点でワールドクラスの基本を今後も発信して見せる姿にも個人的には注目している。


着実な打撃力の向上は直球へのアジャストか

守備には定評があるものの打撃にはパドレスに入団して振るわず出場機会も減少していった。

ただ23年シーズンは打率.260 HR17 OPS.749 盗塁38 と大きく飛躍。

ゴールドグラブの獲得もこの打撃の飛躍があったからこそと言っていいだろう。

よく言われているのは今シーズンはボールへのアプローチが良貨されたということだ。元々バットコントロールの上手さは評判であったが早い直球へのアジャストとそれに伴う変化球への対応に苦心していた。


今年のデータを見るとChase%(ボール球のスイング率)やWhiff%(空振り率),、BB%(四球を選ぶ割合)が明らかに高い数字を残している。

そして球種別でみると顕著なのが直球へのアプローチの改善だろう。

特に95mph以上の直球のxWOBA(1打席あたりにどれだけチームの得点増加に貢献したかの期待値)2022年.213 2023年.330に大きく改善された。

この辺の改善がスイング率や見極めの改善にもつながったとも見える。実際ンパドレス公式チャンネルで公開されている、キムハソンのドキュメント動画でも昨年の練習法に少し言及しており

試合前にマシンを使い100mph以上のスピードに設定して練習したことが上手くハマったため今年も継続すると話している。


日本人を含めまず外国人野手がMLBで苦慮するのが直球へのアプローチと言われる。球速が速く多様な方向にも動かしてくるため芯からずれる打球が増える。

さらに深く突くとむこうでは「ピッチトンネル」と言われ、針の穴を通すように全く同じコースから横に曲げたり落とす再現性が最も投手にとって重要な能力であるとされており、直球のタイミングに惑わされてる間に空振りも簡単に増えてしまう。

一時期フライボール革命という言葉が流行ったが、野手はホームランが出るバレルゾーンの角度が数値化されてしまいそれを再現することに特化されたが、投手側の対処法の一つはこのピッチトンネルでもあった。

大谷も一年目はここの差に苦労しノーステップに変えて今も同じ打撃のスタイルのままバットスイングの強さと多様なコースへの角度の再現性を世界が驚くほどに高めてしまっている。

鈴木誠也も同様で1年目は適応するためにノーステップで取り組んだが身体の負担も大きく現在は足を上げながら、徐々にその適応力の片りんはスプリングトレーニングで見せている。

また彼の場合一年目はルーキーとして中々練習マシンを利用できなかったことで思うように取り組めなかったことも吐露していた。

キムハソンのドキュメントでもチームの仲間と馴染んでいることを一つ大きな象徴として語っていたが我々が見えない戦いもあるのかもしれない。


またキムハソンのバットは特徴的でJグリップと言われる、いわゆるグリップが楕円形の日本ではなじみのないバットを使用しているのが目につく。一度WBCのアメリカ戦でムーキーベッツが使ってることで話題になった。



ラケットと同じ構造のため衝撃が分散して、スイングやボールへのインパクトによって主に負傷しやすい神経や有鈎骨の怪我が防げることでMLBでは利用されている。

あとはグリップの形状上、バットの面が一か所に集中せざる得ないためにバットのラインに入れやすくする意識で持つ意味では利用する人が増えているのは分かる。この辺も再現性の重要性だろう。

直球のアプローチの視点で言えばバットを遠心力で振るというよりは手と身体の連動性意識しながら打つにはいいのかもしれない。調べたら軽量に作られているものが多かったので、当たると飛びやすいのだろうがパワーがあると手もその分コねりやすそうなので彼のようなバットコントロールのいい打者にしか使えないバットだろう。

彼のフォームは足を上げるがグリップの位置は胸の位置に来るぐらい低くトップからすぐにラインに入るような意識の強いフォーム。KBO時代の映像はこれよりもグリップは高かったため、メジャーへ適応するために洗練していった結果がこれらの変化に見えた。

今季はスプリングトレーニングから5番を打っており開幕からおそらく彼のバットには期待がかかっていることがよくわかる。

ソウルシリーズの主役から始まるワールドクラスの知名度になる内野手のさらなる躍動に注目したい。









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?