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SF映画と思いきやエンタメ業態を風刺したそうな回りくどいホラー映画【NOPE/ノープ】


アマプラに映画「NOPE」が追加されたので見た。

ゲットアウトの脚本も書いたジョーダンピールが撮った作品だったらしいが、今作のは好みが分かれる気はする。


あらすじ
田舎町で広大な敷地の牧場を経営し、生計を立てているヘイウッド家。ある日、長男OJが家業をサボって町に繰り出す妹エメラルドにうんざりしていたところ、突然空から異物が降り注いでくる。その謎の現象が止んだかと思うと、直前まで会話していた父親が息絶えていた。

外れ物を消費と承認に利用する現代の人間への風刺映画


予告を見る限り変わったSF映画なのだと期待していた人も多かったと思うが全く違った。

話は主人公OJの父が空から落下したコインが脳天に刺さり死亡するところから始まっていく。

飛行機から落下した荷物が落ちたという不運な事故として処理されたが、OJはこの現象を不可解に感じ、空にUFOのような飛行物体を見つけたことから妹とお金稼ぎのためにバズを狙ってその飛行物体の撮影を試みる。

飛行物体は人間と目が合った時のみ自分の機体に吸い込み帰らぬ人となるため、最終的に撮影を試みたOJと妹、カメラ店で出会った男やドキュメント映像の監督と命がけで臨むたたみかけのシーンだけはホラーとして良かったが
話としては正直退屈だった。

冒頭のドラマ出演していたチンパンジーが人間に襲い掛かるシーンの伏線が度々張られていたが、あのシーンの意味も考えなければ意味の分からない映画で終わってたと思う。

あのチンパンジーが急に人間に襲い掛かった原因は謎だが、UFOとの関連を見るに動物やその界隈から外れた生命を無意識にも商売に置き換えたがる人間への反逆を描きたかったということだろう。

チンパンジーがアジア系の子役であった彼に唯一襲わずにグータッチを求めたのも同じ見世物にされた同胞であったからということらしい。

そんな彼も大人になっても馬を商売にした遊園施設を経営し客を巻き込んでUFOを呼び寄せるショーを行うまでになったのも、チンパンジーの経験に習い消費されて忘れられた子役となった彼なりの反逆だったように思える。

結局あのUFOは何かしらの縄張り、つまり見世物等に対する観察者であり昨今の視聴者を意味する部分もありそう。彼も彼なりの反骨心で見せる側に立場を逆転させた瞬間に帰らぬ人間となった。


また「上を見上げてはいけない」というのがこの映画のキーワードでもあったが、

上を見上げて飛行物体を直視するということは、それを被写体にすることもあるが飛行物体で言えば「裏側」をみることを意味する。

飛行機を見てもそうだが飛行の裏側を見ることは本来の姿とは全く違う。

コンテンツにしても量産化し消費者が飽きると制作側は「裏側」を見せることに走る。

人や物事の裏側を見出して暴くことは、それまで成り立っていた価値を終わらすことに繋がる。

終盤のシーンもドキュメントの監督だけが最後まで「裏側」を撮ることを抑えられなくなってしまい帰らぬ人間になった。

人間が目線を上げる時は自信に満ち溢れている心理を表す意味もあるが、空を見上げるとなるとそこからの傲慢さから出る地から離れた人間の愚かさを描写しているのだろうとも思える。

最後はUFOは爆発しOJと妹が互いを見つめ合いながら終わっていく。
黒人のOJが西部劇風に馬に乗っていたのも意味をもたらしているのか。

バズ目的だった撮影も成功したがその後の話は何もない。ただ消費のための対象でしか見ていなかったUFOから徐々に目をそらし消滅させ、初めて目の前の見るべき現実を直視し美しく感じた瞬間だったと言える。

最近では珍しい説明や証拠を見せず表現と余白だけで鑑賞者に問いかけられる難しい映画だった。黒人の映画で有名な監督でもありエンタメ業界にも物申しているような演出も見受けられたが、少数の映画通ぐらいにしか気づかない所も多い。民俗学的な主張もあるだろうが日本人の私たちでは中々理解も追いつかない。

現代のソーシャルメディアに対しても「見るもの」であり「見られるもの」にすぐに置き換えられる社会に対して選択する判断力の掲示もしていた作品にも思えたが話としても少々回りくどく、起承転結が見えない分こちらが丁寧に振り返らなければ意味がよく分からない映画になった印象が正直なところ。

絶賛している人も多いようだがテーマだけが先行しすぎてる映画も面白いとは言えない。












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