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ローレンツ変換の分解

4×4行列$${\Lambda}$$がローレンツ変換であることを次のように定義する。

$$
\Lambda \text{がローレンツ変換}
\qquad \Leftrightarrow \qquad
\eta = \Lambda^\top \eta \Lambda・・・(1)
$$

ただし、

$$
\eta =
\begin{pmatrix}
-1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 1 \\
\end{pmatrix}
$$

である。

また、本義ローレンツ変換のみを考える。すなわち、$${\Lambda}$$は次を満たす。

$${1. \qquad a_{11} \geq 1}$$・・・(2)
$${2. \qquad det(\Lambda) = 1}$$・・・(3)

ただし、$${a_{11}}$$は$${\Lambda}$$の$${(1,1)}$$成分を表す。

任意の本義ローレンツ変換が回転とブーストの合成に分解できることを証明する。


定理


任意の本義ローレンツ変換$${\Lambda}$$に対して、ある実数$${\beta\in[0,1)}$$、および3次元回転行列$${R_1,R_2}$$が存在して次のように書ける。

$$
\Lambda =
\begin{pmatrix}
1 & \bm{0} \\
\bm{0} & R_1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}} & \frac{-\beta}{\sqrt{1-\beta^2}} & 0 & 0 \\
\frac{-\beta}{\sqrt{1-\beta^2}} & \frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}} & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1 & \bm{0} \\
\bm{0} & R_2
\end{pmatrix}・・(4)
$$


記号、用語の注意

  • $${n}$$次元回転行列:$${n\times n}$$の直交行列のうち、行列式が1であるものを指す。

  • $${I_n}$$:$${n\times n}$$の単位行列を表す。


証明


式(1)の両辺の逆行列をとる。

$$
\qquad \qquad\eta = \Lambda^\top \eta \Lambda \\
\Leftrightarrow \qquad  \eta^{-1} = \Lambda^{-1} \eta^{-1} {\Lambda^\top}^{-1} \\
\Leftrightarrow \qquad  \eta = \Lambda^{-1} \eta {\Lambda^\top}^{-1}・・・(5)
$$

$${\Lambda}$$を次のように$${(1\times1),(1\times3),(3\times1),(3\times3)}$$の行列に区分けする。

$$
\Lambda =
\begin{pmatrix}
a_{11} & A \\
B^\top & C \\
\end{pmatrix}・・・(6)
$$

式(1)に代入する。

$$
\begin{pmatrix}
-1 & 0 \\
0 & I_3 \\
\end{pmatrix}
= \Lambda^\top
\begin{pmatrix}
-1 & 0 \\
0 & I_3 \\
\end{pmatrix}
\Lambda \\
=
\begin{pmatrix}
-a_{11}^2 + A A^\top & -a_{11}B + A C^\top \\
-a_{11}B^\top + C A^\top & -B^\top B + C C^\top \\
\end{pmatrix}・・・(7)
$$

両辺の(1,1)成分を見比べることで次の式を得る。

$$
|A|^2 = a_{11}^2 - 1・・・(8)
$$

同様に、式(5)より、次の式を得る。

$$
|B|^2 = a_{11}^2 - 1・・・(9)
$$

$${a_{11}=1}$$の時は、
$${|A|^2=|B|^2=0}$$より、$${A=\bm{0},B=\bm{0}}$$
となるため、

$$
\Lambda =
\begin{pmatrix}
1 & \bm{0}\\
\bm{0} & C
\end{pmatrix}
$$

となる。式(7)より次が成立。

$$
I_3 = C C^\top
$$

また、本義ローレンツ変換の条件(2)より

$$
det(C) = 1
$$

となる。よって、$${C}$$は回転行列と言える。

以上より、$${\beta=0, R_1=I_3, R_2=C}$$とすれば、定理の主張が成り立つことが確認される。

次に、$${a_{11}>1}$$の場合を考える。
式(8)、式(9)より、ある3次元回転行列$${R}$$、$${\tilde{R}}$$が存在して、次が成立する。

$$
A R = \left(-\sqrt{a_{11}^2-1}, 0, 0\right) ・・・(10)\\
\tilde{R} B^\top =
\begin{pmatrix}
-\sqrt{a_{11}^2-1} \\
0 \\
0
\end{pmatrix}・・・(11)
$$

簡単のため、$${\alpha = \sqrt{a_{11}^2-1} > 0}$$と置く。

次に、

$$
\tilde{\Lambda}
:=
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & \tilde{R}
\end{pmatrix}
\Lambda
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & R
\end{pmatrix}・・・(12)
$$

について考える。
本義ローレンツ変換の条件(3)より、容易に分かるように、

$$
det(\tilde{\Lambda}) = 1 ・・・(13)
$$

が成立する。また、式(1)と式(5)から、次の式が言える。

$$
\eta = \tilde{\Lambda}^\top \eta \tilde{\Lambda} ・・・(14)\\
\eta = \tilde{\Lambda} \eta \tilde{\Lambda}^\top・・・(15)
$$

$${\tilde{\Lambda}}$$の定義式(12)に式(6)を代入すると、$${R}$$および$${\tilde{R}}$$の定義式(10,11)より、次のようになる。

$$
\tilde{\Lambda} =
\left(
\begin{array}
{cc}
a_{11} & \begin{array}{ccc} -\alpha & 0 & 0\end{array} \\
\begin{array}{c} -\alpha \\ 0 \\ 0\end{array} & \Large{\tilde{R} C R}
\end{array}
\right)・・・(16)
$$

ここで、

$$
\tilde{R} C R =:
\begin{pmatrix}
\Omega_1 & \Omega_2 \\
{\Omega_3}^\top & \Omega_4
\end{pmatrix}
=\Omega・・・(17)
$$

と置く。ただし、$${\Omega_1,\Omega_2,\Omega_3,\Omega_4}$$はそれぞれ、$${(1\times1),(1\times2),(1\times2),(2\times2)}$$の行列である。

式(14)、式(15)に、式(16)および式(17)を代入する。

$${\alpha\neq 0}$$に注意して、次の式を得る。

$$
\Omega_1 = a_{11}・・・(18)\\
\Omega_3 = \Omega_2 = \bm{0} ・・・(19)\\
\Omega^\top \Omega =
\begin{pmatrix}
a_{11}^2 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 1
\end{pmatrix} ・・・(20)
$$

式(18)と式(19)を式(20)に代入すると次のようになる。

$$
\Omega^\top \Omega =
\begin{pmatrix}
a_{11}^2 & \bm{0} \\
\bm{0} & \Omega_4^\top\Omega_4
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
a_{11}^2 & \bm{0} \\
\bm{0} & I_2
\end{pmatrix}
$$

(2,2)成分を見ると、$${\Omega_4}$$が直交行列であることが分かる。
特に、回転行列であることが示される。
実際、式(13)より、

$$
1 = det(\tilde{\Lambda}) = det\left(
\begin{array}{cc}
\begin{array}{cc}
a_{11} & -\alpha \\
-\alpha & a_{11}
\end{array} & \bm{0} \\
\bm{0} & \Omega_4
\end{array}
\right)
=
det(\Omega_4)
$$

となる。

以上をまとめると、$${\Lambda}$$に対して次が成り立つ。

ここで、$${a_{11},\alpha}$$を書き換える。
$${a_{11}>1}$$より、ある$${\beta \in (0,1)}$$が存在して、

$$
a_{11} = \frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}
$$

と書ける。このとき、

$$
\alpha = \frac{\beta}{\sqrt{1-\beta^2}}
$$

となり、式(21)は次のようになる。

よって、

$$
\beta=\sqrt{1-\frac{1}{a_{11}^2}},\\
R_1=\tilde{R}^{-1},\\
R_2 =
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & \Omega_4
\end{pmatrix}
R^{-1}
$$

とすれば、$${R_1,R_2}$$がともに3次元回転行列であること、および$${\beta\in[0,1)}$$が成り立つことは明らかだから、定理の主張が成り立つことが確認される。

(証明終わり)


その他の注意

  • ブーストの速度$${\beta}$$はローレンツ変換$${\Lambda}$$から一意的に決まる。

  • $${R_1,R_2}$$は一意的には決まらないが、ブーストの方向は一意的に決まる。

実際、式(22)より、ブースト方向の単位ベクトル$${\bm{n}}$$は次の式を満たす。

$$
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & \Omega_4
\end{pmatrix}
R^{-1} \bm{n}
=
\begin{pmatrix}
1 \\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}
\qquad \Leftrightarrow \qquad \bm{n} = R
\begin{pmatrix}
1 \\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}
$$

式(10)より得られる、

$$
A^\top = R
\begin{pmatrix}
-\alpha \\ 0 \\ 0
\end{pmatrix}
$$

を用いると、$${\bm{n}}$$は次のように書けることが分かる。

$$
\bm{n} = \frac{1}{-\alpha}A^\top = \frac{\sqrt{1-\beta^2}}{-\beta} A^\top
$$


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