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小説 祭りのあと~宇部金座商店街の毎日~

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山口県宇部市旧市街地に存在する架空の商店街「金座商店街」。 ここで暮らす若い商店主兼発明家の下村恭介は、或る日出会った老人から鈍い光を放つ黒い石を渡される。 その日から、商店街の… もっと読む
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記事一覧

[小説 祭りのあと(14)]一月のこと~フラミンゴのじいさん(その2)~

 生憎の雨模様。駐車場の軽自動車の中で、僕はかおるが到着するのを待っていた。  日曜日は…

Kazuyoshi Hara
2週間前
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[小説 祭りのあと(13)]一月のこと~フラミンゴのじいさん(その1)~

 ピコピコ。ピコピコ。ガー。ガー。  「何ですか、それ?」  「えっ、見て分からん?ロボ…

Kazuyoshi Hara
3週間前
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[小説 祭りのあと(12)]十二月のこと~ユウジの鳴らすAマイナー(後編)~

 「何、かおるちゃん。ようやくバイトに入れるんか?」  年末試験がようやく終わり、かおる…

Kazuyoshi Hara
1か月前
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[小説 祭りのあと(11)]十二月のこと~ユウジの鳴らすAマイナー(前編)~

 冷たい雨が降り出した午後六時過ぎ。いつものようにパフォーマーたちがアーケードにちらほら…

Kazuyoshi Hara
1か月前
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[小説 祭りのあと(10)]十一月のこと~嫁入り箪笥(終)~

 初冬の分厚く暗い雲が立ち込める、手もかじかむ日曜日の朝が来た。  東口から中田君が現れ…

Kazuyoshi Hara
1か月前
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[小説 祭りのあと(9)]十一月のこと~嫁入り箪笥(その2)~

 「こんばんは……」  閉店前の店に訪れたのは、中田君だった。  入社時以来のスーツ姿が、…

Kazuyoshi Hara
1か月前
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[小説 祭りのあと(8)]十一月のこと~嫁入り箪笥(その1)~

 「ズンズンズンズンズズズズ、ズンズンズンズンズズズズ、プリリーウーメン…」  最近背中が痛い僕は、アーケードに流れる「オー!プリティー・ウーマン」のメロディに合わせて、背筋を伸ばして床の隙間を歩き回って、デタラメ英語を口走りつつ運動不足解消がてらに乗りまくっていた。  ここ数日はお得意様からのお呼びがなく、店番の日々だ。  暇な時間は毎曜日テーマが変わるアーケードのBGMに聞き入り、時に曲に乗って踊っているのだ。  母には恥ずかしいから止めろと言われる。ガラス張りの正面から

[小説 祭りのあと(7)]十月のこと~メンチカツ一つ(後編)~

 「そういえば、この辺りは児童館みたいな場所ってありませんでしたよね」  幸がいいことを…

Kazuyoshi Hara
2か月前
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[小説 祭りのあと(6)]十月のこと~メンチカツ一つ(前編)~

 ショーケースの向こうから、まだ柔らかい感触の残る小さい手が見えた。  その手は五百円玉…

Kazuyoshi Hara
2か月前
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[小説 祭りのあと(5)]八月のこと~夏祭りのあと(後編)~

(前編が #小説記事 まとめ に取り上げていただけました!)  日中の暑さからは想像もつかな…

Kazuyoshi Hara
2か月前
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[小説 祭りのあと(4)]八月のこと~夏祭りのあと(前編)~

 シャッターを開けると熱風が屋内へ一気に滑り込んできた。僕は思い切り顔をしかめた。  炎…

Kazuyoshi Hara
2か月前
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[小説 祭りのあと(3)]七月のこと~思い出のアドバルーン~

 「ほんに何じゃい、この倉庫は」  僕が実家に帰ってきてから一度も入ったことのなかった倉…

Kazuyoshi Hara
3か月前
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[小説 祭りのあと(2)]六月のこと~女将の秘密~

 「かんぱーい!みんなお疲れぇー」  僕たち十八人は、大座敷を借りて打ち上げを始めた。梅…

Kazuyoshi Hara
3か月前
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[小説 祭りのあと(1)]四月のこと~黒い石と時計技師の恋~

 裏口を出た途端、僕は強い風に襲われた。  すぐ近くの公園からは桜の花びらが一斉に舞い飛び、アスファルトが一瞬薄紅に色付いた。正面からはゴミ収集車の音。海側を見上げると、工業地域の上空は、早くも雲とも煙とも見分けがつかない灰色に覆われていた。市役所通りに繋がるこの道の向こうには、闊歩するビジネスマン。  もう少しで、宇部金座商店街が今日も目覚める。  朝の玉子焼きで胸焼けがする。甘過ぎたのだ。料理の得意な母だが、玉子焼きだけは好みが合わない。  朝から爽やかとはとても言えない