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【シーズン2-12:エグゼクティブの成功マインドを磨くCEOコーチング】フィードフォワードはゆっくりと耕すものである

(1)経営者たちの共通点


こんにちは。エグゼクティブ専門コーチの久野和禎です。

 CEOコーチングの中でも、とくに重要な要素である「未来思考:フィードフォワード」を軸にお話ししてきたシーズン2も今回が最終回になります。

 シーズン2の序盤は基礎的な部分を深く、細かくお話しして、後半になるにつれ、高度なリーダーシップ、経営の話を展開してきましたが、今回は、私が接している多くの経営者たちに共通する「特徴」の解説からスタートしたいと思います。

 

優れた経営者たちは、性格の面では、慎重な人、どんどん挑戦する人といった違いはありますが、全員に共通するのは、「いまやっていることを続けていけばいい」とは考えずに、「何か新しいことはないか?」「何かおもしろいことはないか?」と模索し続けている点です。

 「いまのままでいい」と考える人と、「何か新しいことを見つけていきたい」と考える人とでは、「コンフォートゾーン」がまったく違います。

 「コンフォートゾーン」とは「自分にとって当たり前の世界」のことであり、「これくらいでいいか」という「コンフォートゾーン」と、「新しいことを見つけよう」という「コンフォートゾーン」では、大きな差があると私は考えています。

 「新しいものを見つけよう」と考えるリーダーが「メンバーがついてきてくれない」と歯がゆく感じるのは、リーダーとメンバーの「コンフォートゾーン」が違うからです。

 

(2)リーダーのアイデアを「なかったことにする」メンバーたち


 たとえば、こんなシーンに心当たりはないでしょうか。

 

みんなと一緒に未来に向かっていきたいと考えているリーダーが、「いいアイデアがあるよ!」「みんなで一緒に考えよう!」と目を輝かせて言っているのに、メンバーは目を合わせない。

メンバーとしては、後ろ向きな発言をしてリーダーに嫌われるのもイヤなので、否定するわけでもなく、かといって賛成するわけでもなく、ほどよくたしなめるような発言をしてお茶を濁す。

リーダーは「受け入れてもらえなかった……」と感じて、一度はアイデアを取り下げるも、「やっぱりやりたい」と考え直して、再度、メンバーを招集。「私が社長だ。みんな、やろうよ!」と強引に進める。

メンバーは渋々同意しながらも、意識的、かつ無意識的に、進捗を遅らせたり、できない理由を積み上げていって、社長のアイデアをなかったことにする……。

フラストレーションが溜まった社長は、「このメンバーではダメだ!」と考えたり、1on1を実施して「わかってくれよ」と説得を試みる。熱意を伝えた甲斐あって「そうですね!」と言う者もいれば、わかったふり、ポーズをとる者もいるけれど、しばらくすると、他のメンバーの雰囲気にのまれてしまい、結局進まない……。その結果、既存事業はいままでどおり安定的に運営されているけれど、新しい事業に関しては遅々として進まない――。

 以上のようなことが、多くの現場で起きているのではないでしょうか。

そして、そのような状況に苦慮しているリーダーたちにおすすめしたいのが、これまでの連載で扱ってきた「フィードフォワード」なのです。

(3)「未来」の種をまき、5%ずつ未来寄りになっていくのを見守る


未来から考える習慣である「フィードフォワード」を身につけて、未来から考えることが当たり前になれば、いままでよりも新しいことに対してオープンになります。
そうなるためには、社長、あるいはリーダーが「これからどうしたい?」という質問からはじめて、さまざまな対話をすることによって、メンバー自らが未来に目を向ける習慣を身につけられるように促していく必要があります。

これには、ある程度の時間がかかります。1回やったくらいでどうこうなるものではありません。1カ月、2カ月、3カ月と「フィードフォワード」をしていくうちに、5%、10%と少しずつ「未来寄り」になっていく。メンバー自身は自覚がないかもしれませんが、少しずつ未来寄りの考え方をするようになっていくイメージです。

 もし、メンバーそれぞれが10%ずつ未来寄りになったら、会議の雰囲気もずいぶんと変わります。たとえば、メンバーの集合的な意識、無意識が10%分未来寄りになることで、社長の提案に対して、それまではネガティブな反応だったのが、少しだけ前向きになっていくことでしょう。

 「未来を向こうぜ!」「前向きにいこうぜ!」と言ってもダメだったものが、「フィードフォワード」によっては、知らず知らずのうちに前向きになっていくのです。

 馬を無理やり引っ張っても動かないのと同じで、人間も無理やり「前向きにいこうぜ!」と言って動かせるものではありません。本人が「未来に向かって、新しいことをやってみたい」と自発的に考えるようになる環境を「フィードフォワード」を使って、ゆっくりと耕していくしかないのです。

 相手の心の土壌にまいた「未来」という種から芽が出て、成長していくには時間がかかります。一度種をまいただけではダメで、水や肥料を与えたり、ケアをし続けた結果、少しずつ未来思考になるのを「見守る」スタンスが求められます。こちらが無理やり「させる」のではないのです。

 リーダーができるのは、種をまき続けること、そして、質問であったり、コミュニケーションであったり、あるいは自らの姿勢で「未来にいいことがある」というメッセージを伝えることくらいです。
言葉だけでなく、その人の働く姿勢、生きる姿勢を見て「あっ、私もそんなふうになりたいです」という人が増えてくる――。言葉も姿勢もすべて「フィードフォワード」なのです。

組織のトップになればなるほど、リーダーを経験すればするほど、「フィードフォワード」の威力を感じられるようになるでしょう。

(4)大切な時計を紛失してしまった話


最後にエピソードを1つ。
先日、私が大切にしている2つの腕時計のうち1つが、なくなってしまいました。
あちこち探しても、見つかりません。
 
私は常に「フィードフォワード」をしているので、「どうしてなくなったのだろうか」と過去のことを思い出したりはしません。
そのときも未来思考で、「見つかる未来」だけでなく、「見つからない未来」も考えました。「見つからないのは残念だけど、それはそれで仕方ない。新しい時計を買うことになるのだろうけれど、そのときはそのときだ。そうなったときに考えればいい」と思いながら、時折、「このあたりにあるのではないか」と探してみたり、「地球上のどこかにはあるのだから、いつかは見つかるだろう。どんな形で腕時計と再会するのだろうか」と考えたりしながら、過ごしていたところ、ある日、ようやく再会することができました。
 
結論からお伝えすると、いつもと違う場所でオンラインセッションをしたあと、ばたばたとしていたのもあって、いつもと違う場所に移動させてしまったことが原因でした。
 
この例が、経営にどういうふうに応用できるかはみなさん次第ですが、人生も仕事もそんなものではないでしょうか。
 
未来というのは、想定し得る「一番いい未来」から「一番よくない未来」の間のどこかに落ち着くものです。思い通りにいくかどうかはわからないけれど、「そうなったらいいね」と思いながら、やるべきことをたんたんと、コツコツやっていくしかないのです。
 
1つ言えることは、どんな未来でも「大丈夫」だということです。何かよくないことがあっても、すべてを失うわけではありませんし、次の一手もあります。何年か経てば、「そういうこともあったね」――そんな思い出話、笑い話になるものです。
 
いいときも悪いときもあります。大げさに考えることはありません。
いま苦労している人も、絶好調の人も、私が時計との再会をイメージしながら過ごしたように、「よい未来」を目指していれば、「よい未来」に近づく可能性は高まります。
 
そんなふうにおおらかに、ゆったりと考えていただければと思いますが、いかがでしょうか?

そして、明日、あるいは今日の午後からでも、自分の意識を未来に向ける、相手の意識を未来に向ける「フィードフォワード」を実践していただければと思います。
 
シーズン2の最終回も最後までお読みいただきありがとうございます。


注)シーズン3は、10月に開始する予定です。
再開後も引き続きよろしくお願いいたします。


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