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くしゃみと咳、セキセイインコの場合 ~動物病院のカルテ~

動物の種類によって、くしゃみや咳の音は、かなり違います。
猫はほとんど咳をしなかったり。
犬は何かを吐きだそうとしていると、勘違いされることが多い咳をしたり。
セキセイインコは「クチュン」と、いかにも小鳥らしい、可愛らしいくしゃみをします。そして鼻水が鼻の上に飛び散ります。
羽尾先生はそんなセキセイインコが大好きで、自宅で<もっぴ>という名前のセキセイインコを飼育しています。
男性の一人暮らしで飼育するのは、なんだか寂しい気が自分でもしてはいるのですが。

「風邪をひいてしまったようだ」と、セキセイインコが連れて来られました。
待合室にいる時から、物凄いくしゃみをしています。
「ブゥエックショオオォオィィーーー!」
しばらくしたら、また出ます。
「フゥワックショオォォイィィーー!」
なるほど、確かにくしゃみが続いていて、これでは辛そうです。
トリは具合が悪くなるとすぐに重症になってしまうので、羽尾先生は緊張しながら診察を始めました。
まずはご家族の方に家での状況をお伺いします。
色々お伺いすると、元気だしエサも食べるし鼻水も出ないし、くしゃみがひどい割には意外に大丈夫そうです。
実際に聴診器で呼吸の音を聞いても特に異常は無く、鼻の上もあれだけくしゃみがひどいのに汚れておらず、鼻水は全く出ていないと言うことで間違いなさそうです。
「一体どういうことだろう?」と羽尾先生が思ったその時、またくしゃみです。
「ハックショイ!!ッッチクショウ!!」

羽尾先生は、思わず看護師さんと目を合わせて笑ってしまいました。
セキセイインコが風邪をひいていたわけではありません。
ご家族の、人間の風邪がうつったのです。
さらに正確に言うと、人間のくしゃみを真似しているだけでした。

あまりに面白い出来事だったので、その日の羽尾先生は家に帰ってからも、一人で思い出してはニヤニヤしてしまいました。
「ゴホン」
一人暮らしのはずなのに、あきらかに成人男性の咳払いが聞こえました。
何故!?
恐る恐る振り向くと、そこにはくびをかしげてこちらを見つめる<もっぴ>の姿がありました。
今度は<もっぴ>に羽尾先生の風邪がうつったようです。

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