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動物病院のカルテ 不妊手術(男の子)

「去勢手術をする理由は何ですか?」

そう聞かれて羽尾先生は、資料を示して説明しました。
「猫ちゃんに手術を受けさせる大きなメリットは二つです」
まず第一に病気の予防です。
この図にあるように、性ホルモンに関係する病気を防げます。
そしてもう一つは、精神的な安定です。
一般家庭で暮らす猫ちゃんは、交配して子どもを残す機会がありません。
それなのに、その欲求だけあるのは、とても辛いですよね。
この手術は、そういった欲求を無くしてくれるのです。
そう言いながら羽尾先生が資料を手渡すと、大抵の場合は、「では、手術をして下さい」となります。
「でも、チンチンを切っちゃうのはなぁ…」
難色を示すのは、決まって一家のお父さんです。
手術方法も間違えられやすいですが、タマを取るだけで、チンチンを切るわけではありません。
そのように、いつも羽尾先生は説明します。


宦官
昔の中国などで「性器を切り取り繁殖能力を無くさせる」という事が行われていました。
それ自体が刑罰であったり、後宮で安全に働かせるためであったりと、理由はそれぞれです。
後者の場合は、自ら望んで手術を受けたということになります。
そんな宦官たちですが、後からやはり元通りになりたい、と思うこともあったようです。
人間の子どもを食べると、新たに生えてくる、という話がまことしやかに噂されたときに、実際に試した宦官もいたとか。
本当におぞましい話であるとともに、そんなことをしてまでチンチンを再生させたいのだという、とてつもない執念を感じます。
それくらい、その欲求は根深いと。


羽尾先生は『三国志』も『水滸伝』も読んでいます。
でも、宦官についてはよく理解していませんでした。
だからと言って、誰が羽尾先生を責められるのでしょうか?
現在の日本では、猫の去勢手術は良いことだとされているのに。
もしもそれが出来るとしたら、当事者の猫だけかも知れませんね。

動物病院には毎日、かなりの数の猫が診察を受けに来ています。
ただそれらの猫たちだけが、羽尾先生を責めることが出来るのです。

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