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動物病院のカルテ③ ウコッケイの診療報酬

「うーん…」
羽尾先生は、先程連れて来られた烏骨鶏(ウコッケイ)の前で首を傾げていた。
相対する烏骨鶏も負けじと首を傾けている。
いや、むしろ頭が床に着きそうなほどで、羽尾先生に輪をかけた傾げっぷりだ。

おそらくリンバーネックという、ビタミン欠乏から来る症状だろうとあたりはつけて、欠乏しているであろうビタミンを足す、という治療までは決まった。
しかし、いかんせん症状が重い。
とりあえずは入院治療となってお預りはしたのだが。

「あ」
ともすると、ガクッと落ちた頭がゴツンと床に打ちつけられる。まあ、痛そうである。
流石にここまで症状が重いケースは、羽尾先生は初めてみる。
果たして治療にしっかり反応してくれるか、それが少し心配だ。

有り難いことに、心配は杞憂に終わった。
ビタミン剤による治療とともに、食べ物をソノウ(人の胃にあたる器官)に管を通して与える治療を始めたところ、みるみるうちに良くなっていった。
実は入院して割とすぐに、原因は掴めていたのだ。

試しに餌を与えて見ると、烏骨鶏は食べようとする。しかし、先程の床に頭をぶつける動きになってしまって食べられない。
跳ね返ってきて、また食べようとするが、また床に頭をぶつけてしまう。そして、跳ね返って、というのを延々と続けている。
これは悲劇なのか、喜劇なのか、と羽尾先生は思った。そして、単純に食べられないから栄養を摂取出来なかったのでは無いかと思い当たった。

そんなわけで、烏骨鶏はしばしの入院治療で無事に完治して帰っていった。
後日…。
ご家族の方が、烏骨鶏の卵をたくさんお土産に持って来てくれた。
別の子のタマゴですよ、と言うセリフに安心して、スタッフみんなで卵を分けて持って帰った。

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