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動物病院のカルテ ミスター・オミクロン

ご年配の方には、何にでも「さん」をつけたがる人がいます。
お豆さん。
運転手さん。
お稲荷さん。

診察がひと段落ついて、年配ご婦人と羽尾先生の間で雑談になりました。
話題はコロナウイルスのオミクロン株。
「本当にオミクロンさんが流行っていますね」
「ええ、本当に」
羽尾先生は相槌をうちながらも、とてもおかしく感じました。
(オミクロンにも、さん、をつけるのか)
ふと横で話を聞いている看護師さんを見ると、やはりニヤニヤしています。

診察がおわるとすぐに、羽尾先生は看護師さんに話しかけました。
「オミクロンさん、っておっしゃってたよね」
「本当ですね。初めて聞きました」
そう言って、二人は顔を見合わせて、楽しく笑い合いました。
待合室にまで声が漏れてはいけないので、やや抑えてはいましたけれども。

「じゃあ、次の方をお呼びしてください」
「はい、先生」
「次は、今泉(いまいずみ)チロちゃんです」
看護師さんはうなずいてドアを開け、待合室に元気に呼びかけました。

「オミクロンさーん、どうぞー!」

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