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飛ぶ鳥を捕まえるのは至難のワザ 〜動物病院のカルテ〜

羽尾先生は、鳥の診療が好きです。
同じ動物病院で勤務している獣医は6人いますが、鳥を診られる獣医は羽尾先生ともう一人の織田先生だけです。

羽尾先生が勤務している動物病院に良く連れてこられるのは犬と猫で、次にハムスターやウサギ、ごく稀に鳥、という割合です。
日によっては鳥を全く診察しない、ということもあります。
二人は臨床鳥類研究会という、鳥の診療を研究する学会にも所属しています。

以前、研究会に所属する知り合い先生にその話をしたところ、「私ならとてもその職場では勤められない」と言われました。
その先生は、鳥だけを診察する動物病院で働いていて、「とにかく鳥が好きで、診るのも食べるのも大好きだ」と、おっしゃっていました。
後になって織田先生から「ああいう時に上手に笑えるようになったら、高志先生も大人だね」と、言われました。
羽尾先生は笑顔が引攣らないようにしましたが、残念ながらまだまだ勉強不足だったようです、

鳥の診察は、哺乳類の診察と相当な違いがあります。
体の形、それも外観だけでなく内臓も全く違います。
体温や心拍数も違えば、好む温度も湿度も異なります。
そのため、罹ってしまう病気、同じ病気だったとしても治療方法、同じ薬だったとしても用量、そして投薬方法と、何から何まで違います。
獣医の仕事で大変なところの一つは、動物種の違いによる診療の違い、というのが間違いなく上位に上がってきます。
ともあれ、鳥は飛びます。
それだけでも獣医にとっては、十分大変なのです。

診察を始めるのに、まずはケージ(鳥かご)から出す必要があります。
入口から手を入れて捕まえるのですが、逃げるのが上手な場合はなかなか難しいです。さらにはケージの中にワラで編んだ巣が入っていて、そこに逃げて籠ってしまうと、もうお手上げです。
ケージから外に飛び出してしまうと、もっと大変です。
あちらへパタパタ、こちらへバタバタ。
もともと鳥は自由に飛びたいので、連れて来るご家族にも捕まえられない事が殆どです。
天井近くを飛んで、高いエアコンの上などに止まる小鳥。
羽尾先生が脚立や椅子を持って来て手を伸ばすと、また別の所へ飛んでいく小鳥・・・。
ようやく捕まえて診察を始める頃には、どちらもヘロヘロ、なんていうことになってしまいます。

つい先日の診察で、頼もしそうな女性がセキセイインコを連れて来ました。
「じゃ、お願いしまーす」
と言って、無造作にケージの扉を全開にしました。
勢いよく飛び立つ、ブルーの羽毛が美しいピーちゃん。
美しいらせんを描いて診察室をグルリと一周、颯爽と飛びました。
「手乗りですよね?」と、笑顔の羽尾先生からの質問に対しての女性の答えは「いいえ、本気で噛むので、とてもじゃないけど触れません」という物でした。
羽尾先生は自らの笑顔が引攣るのを、はっきりと感じ取りました。

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