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小学校の動物を幸せにする②

獣医師会に入ったばかりの僕は緊張しながらこの日を迎えた。
○○県獣医師会の一員として、初めての公務に駆り出されたからだ。
偉い先生から、公務なんだからしっかりした格好をして行くようにとくぎを刺されたため、粗相がないようにと気が気では無かった。

さて公務の内容は、近所の小学校で児童にウサギを抱っこさせる、というものだった。
獣医師会の獣医三名で小学校に出向く。
今回は5,6年生の飼育委員を対象に授業を行った。
まずはベテランの先生(30の僕から見ておばあちゃんと呼べそうな)が、ウサギの生態についてのお話をする。
その後僕ともう一人の獣医が、児童に順番にウサギを抱っこさせていく。
全員が終わったら、質問や相談に答える、という手順だった。
抱っこさせたウサギはベテラン先生が飼育しているロップイヤー(垂れ耳種)。小学校でもウサギを飼育しているが、とても抱っこなんて出来る子ではないと教員がおっしゃるため、今回は出番なしだった。

授業を終えて校長室に通された。
お茶を頂き一息ついた所で、ウサギの飼育小屋を見る事になった。
そこでは、毛がゴワゴワでやたらと動きの速いウサギが、餌とフンの散乱した床を走り回っていた。
「何だか、凄い飼育状況だな」
と感じたのも束の間、さらにショッキングな光景に出くわす事になった。
ベテラン先生が巣箱を指差した。
「これは去年獣医師会で寄付した巣箱ですよね」
「あ、そうなんですか。私は今年赴任したのでよく分からなくって」
と教員が答えた。
その時おもむろにベテラン先生が巣箱を持ち上げた。
すると・・・。

僕が今まで見た事の無い数のゴキブリが巣箱の中や下から姿を現した。
そして数秒で四方八方へ散り散りに逃げて行き、姿が見えなくなった。
その場には数人の大人が居たが、数秒間誰も動けず声も発する事が出来なかった。

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