同じ動物病院で働いてる看護師さんと二人で、カフェに行きました。
そこには、紅茶と好きなケーキが一つ選べるセットが看板メニューとして、あります。
今日は仕事がお休み。
羽尾先生にも、そんな日はあります。

「ガトーショコラにしようかな」
その言葉に、羽尾先生は笑ってしまいました。
「どうしたの？」
「ガトーショコラって、加藤ショコラみたいだな、と思って」

ちなみに、ショコラちゃんは太り過ぎて糖尿病になってしまったポメラニアンで、目下懸命にダイエットに励んでいるところです。

「ホント！痩せなきゃいけないのにショコラって、なんだか面白いですね」
看護師さんもフフフ、と笑いました。

「じゃあ、ぼくは何にしようかな…」
ふと、モンブランに目が止まりました。
「あれ、確かモンブランも何かあるよね」
と口に出してしまってから、羽尾先生はすぐに後悔しました。
「モンブランちゃんっていう名前の子、いましたっけ？」
「いや、いたような気がしたけど…」
「特徴的な名前の子は、わたし大体覚えてるんだけどなぁ」
「そうだよね、珍しい名前だよね」

実は羽尾先生は、モンブランと言ってしまった瞬間に思い出していたのです。

モンブラン　＝　紋舞らん

学生時代に悪友が貸してくれた、いかがわしいビデオの主演女優さんだということが。

「思い出せないとモヤモヤしますね」
「ハハ、そうだね」
ヒヤヒヤしていることに気づかれないように、言ってみました。
「マロンちゃんだったかな？」
「いや、全然違うし！」
「だよね」
「しかもマロンなら、普通にありがちだし！」

診察以外でもこんなに苦労するなんて。
自分の迂闊さを呪いながら、羽尾先生は、いもしない犬だか猫だかハムスターだかのモンブランちゃんを、必死で思い出そうとするのでした。