心の防御システム

まだ医者になって5年くらいのころ、将来欧米のどこかで医者として働くことを目指すことにしてとりあえずアメリカで臨床医として働くために必要な資格を取ろうと思いついた。

仕事をしながら夜に毎日英語の成書を読むという生活を一年ほど続けていたが、その時の科目の中に”Behavioral science"という教科があり、なんの教科かよくわからないが教科書を読んでいると人間の精神的な防御機構についての説明があり随分と興味を持って学習することができた記憶がある。

その後それについて深く学ぶことはなかったが、自分自身が日本を出てスペイン語圏、フランス語圏、ドイツ語圏といった西欧といっても言語のみならず文化やメンタリティの異なる国で仕事を続けていく上で常に大きなストレスを抱えるようになり、徐々に精神的に疲弊を重ねる中でメンタルヘルスについて興味を持つようになった。

ドイツ語圏は元々フロイトやユングといった心理学の巨匠を産んだ土地でありそれがドイツ語で書かれたという歴史があるため、欧州、特にドイツ語圏はメディアや書籍でも一般向けの心理学のものが非常に多く関心も高い。

そんなこともあってフロイトの精神分析やユングの分析心理学などに触れる機会を多く持つようになり、その精神の防御システムというものが元々フロイトとその娘であるアンナ・フロイトによって取り上げられていたことを知った。

この防御システムは人間がストレスや精神的負荷をまともに受け止めるとその影響が大きいためできるだけその影響を小さくするために人間の精神が無意識に行う対処法であるとされ、単純に読み物として読んでいても思い当たることが多く、また実際に精神の不調を扱う際にも大変参考になる。

そんなわけで少しこの件についていくつか代表的な例に解説を加えてみることにした。

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