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オフコースのオリジナルアルバムを勝手にレビューするシリーズVolume8:「THREE and TWO」

-実はこのアルバムからロゴが変わっていて、以前はSONG IS LOVEの丸みを帯びたロゴだった。それが、シングル「風に吹かれて」を最後に使われなくなっている。
個人的にはこっちのロゴの方が好き。グループ名の中黒についてはもう説明は要さないだろうから書かない。そして例の如く敬称略。

序説

前作「FAIRWAY」の前に、グループで監修したベスト盤である「SELECTION 1973-78」が出ている。

そこで一つの区切りがついたから、というわけでもなかろうが、グループは徐々に「小田と鈴木のコンビ」から「大間・松尾・清水を含めた5人組」という体裁での売り出しにシフトしていく。

シングル「あなたのすべて」で小さいながらも初めてのグループショットを公開している。
それ以前にシングル「こころは気紛れ」でバンド演奏の模様をイラストで表現してもいるのだが、まあ、それはそれ。
アルバムのリリース前にリリースされたシングル「愛を止めないで」と「風に吹かれて」で5人体制でのグループショットがそれぞれ公開されており、その下地はあった。同年8月に契約上も5人組になった。

このアルバムにも収録されている前述の「愛を止めないで」が年初から微妙にヒットした。後にグループの代表曲の一つにもなった。

夏に前述のシングル「風に吹かれて」がリリースされ、そしてアルバムリリース後の12月に、かの大ヒット曲「さよなら」が世に問われる。

しかし、「さよなら」の色がつかない作品だからこそ、このアルバムは燦然と輝いている、という言い方が可能だ。ここで「さよなら」が収録されていたら、アルバムが台無しになるのでは?とさえ思う。

冒頭の「思いのままに」からエンディングの「生まれ来る子供たちのために~いつもいつも」までが、一つのパッケージとしてよくできている。

それは良いとして、このジャケットには、小田なりの拘りがあるという。レコード会社側は「表面に写った松尾・清水・大間をメンバーと誤解する」と言ったそうだが、それでもこのジャケットを小田は推した。
以前から小田は言っていたのだが、例の3人はバックバンドではなく、オフコースの一員なのだ、と。その決意を表したジャケットと言える。

前作「FAIRWAY」がそうであるように、この「THREE and TWO」もまたゴルフ用語である。「残り2ホールで3打差ある場合、自動的に勝負が決する」という意味のようだ。オフコースのメンバーの数にも合うので採用された。

また、話を少し戻すが、プロデュースを小田と鈴木のみで賄うようになったことが大きい。武藤敏史は一歩退いた「エグゼブティヴ・プロデューサー」のポジションに収まっている。
武藤に情熱がなくなったのではなく、「新作はオフコース自身でプロデュースする方が良い」との考えによっている。この試みは、実際成功したと思うし、この後のオフコースの進路にも影響した。

全曲を紹介しておく。

1:思いのままに
2:恋を抱きしめよう
3:その時はじめて
4:歴史は夜つくられる
5:愛を止めないで
6:SAVE THE LOVE
7:汐風のなかで
8:愛あるところへ
9:生まれ来る子供たちのために~いつもいつも

「FAIRWAY」では一部を除きノンクレジットだった「いつもいつも」が、本作ではクレジットされている。
小田作品は1・3・5・8・9(と10)で、鈴木作品は2・4・6・7。シングルカット曲の「風に吹かれて」と「さよなら」も小田作。またシングルカップリング曲の「この海に誓って」は歌詞こそ小田作だが、曲は松尾作である。

1:思いのままに

小田の作品。始まりはキーボード主体のロックナンバーだが、ギターが全く活躍しないわけでもない。二番辺りからギターの出番が増えてくる。
歌詞カードにない英語のコーラスが聞かれる。ソロはギターでなく、ディストーションがかかり気味のシンセ。
ライヴ演奏が「LIVE」に収録されているが、大サビの後の部分が少し長めのアレンジになっている。
(作詞・作曲:小田和正)

2:恋を抱きしめよう

鈴木の作品。シングル「風に吹かれて」のタイトルがボブ・ディランの著名作品の邦題から取られていることが、カップリング曲の本作にも恐らく関係があるかもしれない。
ヴァースごとにキーが異なり、Aメジャー→B♭メジャー→Bメジャーの順番でキーが上がっていく。「潮の香り」に作りのパターンが類似しており、その路線での曲作りを、当時の鈴木が気に入っていったのかもしれない。
後年になって、鈴木自身もセルフカヴァーしている。
(作詞・作曲:鈴木康博)

3:その時はじめて

ギターのサウンドから始まる作品だが、小田のキーボードもさりげなく主張をしている佳作。ただ、ライヴ盤「LIVE」には収録されていない。
サビで聞かれるギターの細かいリズムカッティングや、間奏でキーが変調すること、そこからの戻り方、ラストサビ前の小田のファルセット、エンディングのエレピなどいちいち芸が細かい。
また、本作での清水のベースラインが恐ろしくクール。この段階での彼のベストプレイと言っても良いかもしれない。
(作詞・作曲:小田和正)

4:歴史は夜つくられる

鈴木の作品。「その時はじめて」とは異なる種類の格好良さ。個人的には本作中のベストトラックとも思っている非常にスリリングな作品。
そのスリリングさを演出するのが、小田によるシンセのメロディ。イントロのそれは特に秀逸。「LIVE」ではこれをギターで演奏している。
フェイドアウト部分のオルガンがまた素晴らしい。こちらは「LIVE」での演奏テイストがかなり異なるので比較しても面白そう。
また、「LIVE」では語尾を伸ばすように歌う部分があるので、幾分もっさり気味に聞こえる。
これに関しては、ライヴテイクよりはスタジオテイクを推奨したい。

5:愛を止めないで

小田の曲であり、アルバムの9ヶ月前にシングルカットされている。その後も、コマーシャルやテレビドラマの主題歌などで度々取り上げられている。オフコースのなかでは比較的知名度の高い作品。
小田によれば「いきなり君を抱きしめよう」の部分にかなりファンからの抵抗があったらしいが、結局小田はそのまま歌っている。
通常はシンセによるコード弾きのイントロが含まれるが、ベスト盤である「SELECTION1978-81」に収録のビル・シュネーのリミックスにはそれがない。本作に収録の主流となっているHACHIYAミックスを聴くべきだ。
人よってはボストンの「A man I'll never be」との類似性を指摘する人もいるようだが似てないだろう。せいぜい間奏部分のリードギターのフレージングが何となく似てる程度。
「眠れぬ夜」を「Another day」と類似していると言うのと同じだろう。
(作詞・作曲:小田和正)

6:SAVE THE LOVE

鈴木作。アルバムのB面の頭を飾る非常に長い、そのわりには中弛みもなく強く訴えかけてくる作品。
時折、シモンズと思われるシンセドラムのような音が聞こえてくる。8分以上ある長尺の作品であり、終わり方もかなり唐突ではあるが、これはむしろ次曲「汐風のなかで」とのつながりを意図してのものと推測される。
(作詞・作曲:鈴木康博)

7:汐風のなかで

鈴木作で、シングル「さよなら」のカップリング曲。アコースティック風味の強い作品だが、ギターソロ後半はボトルネックギターにより行われているという、ギタリスト鈴木康博を堪能できる作品。
「LIVE」にも収録されたが、その中のMCで小田が本曲のメロディの美しさを絶賛し、「大好きな一曲」とまで述べている。
そう言う小田もピアノで貢献しており、そういった意味では作者こそ鈴木だが、共作という概念でも捉えられる作品。
前曲でも登場したシモンズ風のシンセドラムが登場している。
(作詞・作曲:鈴木康博)

8:愛あるところへ

小田作。ピアノのコード弾き風の重厚なサウンドに導かれ、シンセリードによるポップな印象へとうまく転換する作品。本曲もライヴ盤「LIVE」には収録されていない。
間奏部分でピアノの繊細な単音フレーズが聞かれたりするなど、ライヴでの演奏が少し困難だったのかもしれない。
程良くポップにはできている作品と言えるかもしれない。
(作詞・作曲:小田和正)

9:生まれ来る子供たちのために~いつもいつも

生まれ来る子供たちのために

曲は小田作で、1980年3月に本曲をメインにシングルリリースされた。小田の意図としては「グループが盛り上がっている時にこそ出したかった」という曲そうだ。
作った小田としては恐らくポリティカルなイメージではなく、もっと漠然としたイメージがあったものと推測される。
オフコースの曲では珍しく台詞入りで、本曲にもビル・シュネーによるリミックス版が存在するが、聴いたらすぐにわかるような大きな差異は見られない。
シングルカットの際は、ハードケース仕様のジャケットが採用されていた。これは後に「時に愛は」などでも見られた。
ジャケットに写真の類は一切なく、文字でタイトルが書かれているのみ。ジャケット裏面に本曲のみの歌詞とグループショットが掲載された。
カップリング曲は松尾一彦作の「この海に誓って」だが、こちらは1978年に制作されていた。歌詞は小田作。

いつもいつも

小田作。前作「FAIRWAY」には単一の作品として収録されているが、本作にはあくまでもメドレーの一部として収録された。また、シークレットトラック扱いではなく、タイトルも記載された。
録音の元も、彼らの1979年8月5日の田園コロシアムでのライヴ音源である。

アルバム全体の短評



9曲(実際には10曲)どの曲たりとも捨て曲ではない。私は個人的には本作が最も好きだし、これ以降の「『製品』としての完成度が高いオフコース」よりも、何処か危うい感じのオフコースの方が好きだ。

ここで触れたことの繰り返しになる部分はあるが。

ぶっちゃけ言えば、ビル・シュネーがサウンドプロダクションに関与していないことが、最も奏功した作品と言えるかもしれない。
本作でエンジニアを務めたHACHIYA RYOJI(この人物の漢字を度忘れしたので、うろ覚えのまま表記しては良くないと思ったので、この表記でご勘弁願いたい)の音作りは個人的には最も好きなものだ。

この作品の一番良いところは、音像が整備されていないところだと思う。少しラフに聞こえるぐらいがむしろ良い。「We are」以降のオフコースには感じられない感覚だろう。

少なくとも5人期に於いて、「We are」以降の三部作は質的には非常に高いと思う。これは万人が認めるところだろう。
ビル・シュネーというエンジニア自体も非常に質の良い仕事をする人だと思う。ただ、彼の音はいい音には違いないのだが、その実何処かで食い足りない部分があるというか、物足りなさを覚える。

少なくともシングルヴァージョンにはビル・シュネーが関与していない「さよなら」なども含め、このアルバム頃までの音作りは、ラフさがありながら非常に質の高いものだったように思う。

ビル・シュネーのプロダクションがダメなのではない。彼はいい音を作りすぎてしまうだけなのだと思う。もちろん、彼の音も好きだ。だが、私にとっては「きれいすぎて」しまう。
個人的な印象の問題と言われたらそれまでだけど、このアルバムまでの音作りを支持するのは、楽曲の質の高さを敢えてスポイルするかのようなパワーの感じられる部分にあると思う。

オフコースは優しいだけのグループではなく、力強く包容力も備えたグループだった。この頃の音である意味、集大成になったのかもしれない。
ぜひ、そんなサウンドに耳を傾けてほしい。

次作「We are」でアメリカのサウンドエンジニアとして名高いビル・シュネーを迎えている。そこで提示されたサウンドは、これまでのオフコースが作ってきたものとは一線を画していた。
いろいろと整理された音像がそこには開けていた。オフコースは、新時代へと舵を切ったと思う。

基本的に他人様にどうこう、と偉そうに提示するような文章ではなく、「こいつ、馬鹿でぇ」と軽くお読みいただけるような文章を書き発表することを目指しております。それでもよろしければお願い致します。