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オフコースのオリジナルアルバムを勝手にレビューするシリーズVolume13:「NEXT SOUND TRACK」

このシリーズの今年の一発目はこれから行く。

これは、1982年9月21日にアルバムが先行して発売され、8日後の1982年9月29日にTBS系列の「日立テレビシティ」枠で放送されたテレビ番組「NEXT」が元になっている。

番組についてはリアルタイムでも見ているが、何せ40年前の話だし、今回改めて視聴したこともあり、それも踏まえて後述する。

メンバーが着ぐるみを着ている、という様子を見て、これを思い出す人も多かろう。

ザ・ビートルズの大変に有名なテレビ番組である「マジカル・ミステリー・ツアー」と、それのサウンドトラック盤(アルバム化されたのはアメリカが先で、イギリスでは当初、EP2枚組での発売だった)だ。

これをモチーフにしていることは何となく想像がつく。アルバムの作りまで似せているのかどうかは知らないが。

さて、5人期のアンコールみたいなもの、というのが「NEXT」(番組、サントラ盤ともに)についての私自身の捉え方であり、それ以上でもそれ以下でもない、と考えている、という前提でお読みいただくと助かる。
例により、また文中の名称は敬称略。

序説

最初はこの番組について見ずに書くつもりだったが、それでは正確性に問題があるので、先述した通りBlu-rayを購入して40年ぶりに見た。

番組について言えば、「あれがあの時のオフコースに出来る全てだった」ということかもしれない。それ以上でもそれ以下でもないと感じる。

当時オフコースに存在した解散説がモチーフになっているらしいことは容易に想像がつく。冒頭にもそういうシーンが登場する。

簡単にストーリーと内容について述べておく。

グループ解散後に各所にいて、それぞれに活躍していたメンバーが黒ずくめの二人組に連行されて、一箇所に集められる。
そこで首謀者と思わしき人物から、大間の命と引き換えに「オフコースとしてコンサートをやれ」と厳命される。
不承不承承諾はするが、まあいろいろある中でメンバーも昔を思い出し、最後はコンサートをやって、実はあの人が言い出したことだった、と種を明かして終わる。

まあ、こんな感じだ。オフコースのメンバーを連行してきた組織の首謀者と思しき人物を演じるのは中村敦夫。劇中では、清水仁らが彼のことについて「なかむらあつし」と言っている。
中村敦夫は後に、似たような枠で番組を持つことにもなるのだが、それはまた別の話。
他に、片岡鶴太郎が出演して、当時の持ちネタだった田原俊彦や、具志堅用高、映画評論家の小森和子の物真似をやっている。
メンバーを連行した二人組の小太りの方は、クレジットを見る限りだと、ロードマネージャーの富樫要だろうと思われる。もう一人は不明。
番組では大間ジローが顔にパイをぶつけられるシーンが出てくる。

メンバーの演技がどうのこうのはない。彼らは演技者ではないのだから、上手くないに決まっている。だから、それは別にどうでもいい。
当時のオフコースはこういう感じで演奏してたんだろうなあ、というのを、例の「若い広場」以外で世に問うたのは、この番組が初めてだろう。
シーケンシャルサーキットのプロフェット5を演奏する小田の姿を確認できる他、歌いギターを弾く鈴木や松尾の姿も見られる。
それを確認する以外の価値はないと思う。
番組の中では記者会見のシーンで、ジャケットでメンバーたちが着用している着ぐるみが登場している。

なお、番組内のライヴのパートで断片的にでも取り上げられたライヴは以下の曲。

愛の中へ
メインストリートをつっ走れ
心はなれて
言葉にできない
YES-NO
愛を止めないで
I LOVE YOU

「言葉にできない」は武道館最終日なので、小田が感極まって歌えなくなってしまった部分が含まれる。「We are over thank you」のメッセージ付きのひまわりの映像が使われている。
「YES-NO」の冒頭でフリューゲルホルンを吹いているのは、スタジオテイクでもそれをやっている富樫要。本作でもメンバーを連行する二人組の一角で登場しているのは、先に説明した通り。
「I LOVE YOU」は本作にも収録されており後述するので、特に説明する点もなかろうと思う。
「I LOVE YOU」の後には「YES=YES-YES」が登場するが、これもこの後に述べている部分が出てくるので、説明は不要だろう。

番組後半の上述のライヴ部分を含め、これと別に商品化された例の最終日の映像をそのまま流用している部分が多い。

特筆すべきは主にそんなところか。

話は逸れるが、後にグループが関与しない形で発売されたコンピレーション盤の最初期の一例となる「YES-YES-YES」のジャケット写真は、この番組のシーンから流用されている。
余談になるが、この「YES-YES-YES」なるコンピレーション盤も可哀想な作品である。
これを含むコンピレーション盤の制作についての会合を東芝EMIと持ったものの不調に終わった。
それに怒った小田和正が「勝手にしろ!」と言い捨て、これを許可と解釈した東芝EMIが、その後、グループ非監修のコンピレーション盤を乱発する、というような顛末の最初の一例だった。
編集もヴァージョン選定も意図を感じない、メチャメチャな作品で、これがせめてCD時代に出ていたら、と思われてしまう。

話を元に戻そうか。

そんなわけで、「NEXT」という番組を作ったが、これのサウンドトラック盤という位置づけではある。
ただ、基本的に代表曲のスタジオテイクは既発のヴァージョンをそのまま流用している。番組の中ではエコーが強調された音作りがされているものがあるが、全てオリジナルヴァージョン通りになっている。
新曲は小田・鈴木で1曲ずつ。歌入りとインストゥルメンタルがそれぞれに存在する。
注目すべきはメドレーか。まあ、これもどのように評したら良いのか。

アルバムの収録曲は以下の通り。

1:メドレー
2:流れゆく時の中で(instrumental)
3:眠れぬ夜
4:さよなら
5:一億の夜を越えて
6:さよなら(instrumental)
7:NEXTのテーマ~僕等がいた
8:流れゆく時の中で
9:I LOVE YOU(Live)
10:YES-YES-YES
11:NEXTのテーマ(instrumental)

松尾の曲は個別の収録曲には未収録。小田が7曲(3・4・6・7・9・10・11)で、鈴木が3曲(2・5・8)だ。
制作にビル・シュネーはほぼ関与していない。強いて言えば「We are」に収録の5と「I LOVE YOU」収録の10(の二番サビ直前まで)のみ、彼がエンジニアをした作品だが、それを除けば彼の関与は皆無と言って良い。
これはこのサントラの話で、番組では小田・鈴木・松尾のそれぞれの曲が登場している。

これは、恐らく鈴木との決別をするための作品かもしれない。

1:メドレー

以下の作品が収録されている。

intro
プロローグ
こころは気紛れ

やさしさにさようなら
風に吹かれて
恋を抱きしめよう
眠れぬ夜

時に愛は
せつなくて
きかせて
揺れる心
YES-YES-YES
Yes-No
一億の夜を越えて

言葉にできない
I LOVE YOU
愛を止めないで

closing~NEXTのテーマ

太字のものが番組の中で実際に使われた部分である。どのように形容するべきかわからない編集だが、スターズオンとかでもやらないような強引な編集だなあ、と思う部分もある。
松尾については、この中で「せつなくて」が起用されているだけで、本作ではそれと、6でのハーモニカ演奏以外のフィーチュアがない。
とりあえず、8分半は長いのか短いのか。

2:流れゆく時の中で(instrumental)

8のインスト版だ。ストリングス主体の演奏になっている。
(作曲:鈴木康博)

3:眠れぬ夜

1975年のシングル盤であり、アルバム「ワインの匂い」にも収録されたものと同一テイク。
例の1982年6月30日の武道館でも演奏された。この他、西城秀樹のカヴァーは大変よく知られているだろう。
(作詞・作曲:小田和正)

4:さよなら

1979年に発表された大ヒットシングル。契約上のメンバーが5人になって最初のシングルでもある。
この前に出た「風に吹かれて」でも既に5人のグループショットがジャケットに使われているが、契約上はこちらが5人になって最初のシングル。
小田によれば「これまで以上に売れることを強く意識して書いた曲」だという。確かに売れた。
録音時に一部歌詞を間違えている箇所があり、そのことを長年悔やみ、ソロとなってからの小田は、本来の歌詞で歌っていた時期があった。しかし、今は元に戻しているようだ。
(作詞・作曲:小田和正)

5:一億の夜を越えて

鈴木の作品で、「We are」収録。冒頭の大間によると思われるシャウトとシンセの短音リフもカットされずに収録された。
(作詞:安部光俊・作曲:鈴木康博)

6:さよなら(instrumental)

4のインスト版。ハーモニカでメロディを演奏しているのは松尾。番組内にもそのシーンが出てくる。
(作曲:小田和正)

7:NEXTのテーマ~僕等がいた

本作でメンバーが用意した新曲のうちの一つ。小田の作品。フェイドインから始まる。
歌詞は小田が感じるオフコースの変遷と未来、来るべき(実際にはもう少し後になるが)オフコースの終焉についての思いを綴っているものと考えられる。
間奏でトランペットを吹いているのはロードマネージャーの富樫要。かつて「Yes-No」のイントロでフリューゲルホルンを吹いていた人物だ。
この曲がフェイドアウトしきったところで、次の曲へとつながる。
(作詞・作曲:小田和正)

8:流れゆく時の中で

新曲のもう一つで、鈴木の作品。鈴木が得意とする叙情的で穏やかな作風になっている。
この曲の特に二番サビからの歌詞に顕著だが、オフコースは鈴木にとって過去のもの、という割り切りがこれを作った時点でついていて、だからこそ、「NEXT」以後を見据えた言葉が多く綴られている。
これは鈴木の決意表明、若しくは、オフコースへの謝意と決別の時とを兼ねた作品、という言い方ができるのではないか。
鈴木としても別にオフコースが嫌いになったわけでもなく、オフコースという存在の現在地に違和感を覚えるようになった結果、グループを離れる、という結論になっただけなのだ。
鈴木は悪くないし、小田も、その他のメンバーも誰も悪くない。ただ、こうなるより他なかった。
この曲を聴くと、今はそう思う。
(作詞・作曲:鈴木康博)

9:I LOVE YOU(Live)

映像ソフト化はされているものの、音源としてはリリースがなく、そのため音源で唯一残っている1982年6月30日のライヴテイクである。
これ以外にも、ライヴ音源自体は前述した通りに番組でもいくつか使われているが、最終的に使われたのはこれだけだ。
スタイジオテイクとは異なるアレンジになっており、二番までは小田による弾き語りである。
二番が終わり、間奏に入ってからバンド演奏になる。この際、スタジオテイクと同じようにダイアログが入るのだが、具体的には何かはわからない。
三番のAメロまでバンド演奏で続き、その後、サビは小田の弾き語りに戻るという複雑なアレンジをしているが、最後はバンドスタイルで終えている。
演奏終了後の観客の声に交じって流れるのはテープ演奏。
(作詞・作曲:小田和正)

10:YES-YES-YES

このヴァージョンの大部分は「I LOVE YOU」に収録されたものと同一テイクである。だが、二番サビからフェイドアウト寸前までが異なっている。
ここに何を重ねているのかというと、1982年6月30日のコンサートが完全に終わり、客出しでこの曲のテープが流れた時に居残った観客が、流れたこの曲に合わせて大合唱を始めた時の様子だ。
流れた演奏はライヴでなくテープなので、こういうミックスが可能だった。あの日の日本武道館では終演後にこんなことがあったのか、と知る手がかりの一つではある。
(作詞・作曲:小田和正)

11:NEXTのテーマ(instrumental)

7のインスト版。2に近いアレンジがなされているが、最後の辺りに小田の歌唱が少しだけ含まれる。
ハープで大団円、ではなく、最後にピアノが少し含まれている。
(作詞・作曲:小田和正)

アルバム全体の短評

今から述べることも、予てから述べてきたようなことなので、短評も何もないような気がするが……。

何度も述べているように、これはコンサートに於けるアンコールみたいな位置づけで良いのだと思う。それ以外に捉えようがない。

オフコースの名前の下に出すには、少々脆弱な気もするが、「解散」やそれにまつわる周辺事情込みで売らんとしたのは、他ならぬオフコース自身であり、その結果があの番組なのだから仕方がない。

結果として鈴木康博というピースを失い、四人編成となったオフコースは日本を代表するバンドにはなったのかもしれない。
だが、五人期までのオフコースは恐らく「ニューミュージックに殉じた」のだろうと思えてならない。
まだ「J-POP」という言葉はこの頃にはなかったが、そういう未知の音楽像に迫りたい、とする心情は次作以降にボチボチと出てくる。
まあ、それは次作以降で述べれば良いだろう。

鈴木康博についても少し書いておく。
オフコースとの契約が切れ、法的にもオフコースのメンバーでなくなった鈴木は、その直前の1983年8月21日に「Sincerely」というアルバムと「愛をよろしく」というシングルを同時発売する。
(鈴木の正式な脱退日は1983年8月31日)

このアルバムも買った。「愛をよろしく」は確かTBSのドラマ「もういちど結婚」(三田佳子と藤竜也が出ていたはず)の主題歌でもあった。

その後、郷ひろみに提供した「素敵にシンデレラ・コンプレックス」が大ヒットした。車のCMソングだったような気がする。作者の鈴木本人も後にセルフカヴァーした。
ちなみにカップリング曲の「黒にしておけよ」も鈴木の作品のはずだ。両面共に作詞は阿久悠。

これで一発当てたのは確かなのだが、この印象があまりにも強すぎたがために、却って鈴木の音楽の方向性はわからなくなってしまった。
「素敵にシンデレラ・コンプレックス」自体はカッコいい曲だし、大好きなのだけど。

ともあれ、オフコースは四人期に向けて走り始めた。

基本的に他人様にどうこう、と偉そうに提示するような文章ではなく、「こいつ、馬鹿でぇ」と軽くお読みいただけるような文章を書き発表することを目指しております。それでもよろしければお願い致します。