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オフコースのオリジナルアルバムを勝手にレビューするシリーズVolume17:「as close as possible」

いろいろあってすっ飛ばしてましたが、残り二作なので。

序説

前作「Back Streets of Tokyo」が。言わば企画盤だったので、今回は久々のオリジナルの新曲を結集したアルバムとなるわけだが、それにはいくつかの留意点がある。

1:外部の作詞家(秋元康や松本一起、Randy GOODRUMら)の起用
2:外部の作曲家(ここではDann HUFF)の起用
3:有名ゲスト(「嘘と噂」に於ける大貫妙子や坂本龍一など)の起用

こういう留意点がある。他にも、小田・松尾に加えて清水仁が曲作りや歌唱に参加している、という点があったりもする。

坂本龍一や大貫妙子の起用などに関しては後述したい。

収録されたのは以下のバラエティに富んだ10曲。素晴らしい作品が並ぶ一方で、オフコースである必然性が本当に高いのかどうかは、少々疑わしい面もある。

1:もっと近くに(as close as possible)
2:IT'S ALL RIGHT(ANYTHING FOR YOU)
3:ガラスの破片
4:白い渚で
5:Tiny Pretty Girl
6:Love Everlasting
7:I'm a man
8:心の扉
9:SHE'S GONE
10:嘘と噂

この中で小田が作詞・作曲したのは2・4・10の3曲のみ。1は小田の作曲だが、英語部分のみRandy GOODRUMの助力を仰いでいる。
次に、松尾一彦だけで作った曲が3と7。松尾はこのアルバムでは作詞をしておらず、どちらも作詞は秋元康である。
また、5と8は松尾に加えて清水仁が曲を作っている。これら2曲は松本一起が歌詞を書いており、8は小田も歌詞を助力している。
残る9は作詞を小田単独で、作曲を小田と松尾で手がけている。この段階でグループには3人のソングライターが存在することになった。
オフコースというグループがキャパシティを広げたことは、私がここでくどくど説明するまでもないのだが、広げたキャパシティが本当にグループを充実させていたのかどうかと言われると、そうも思えない。

全収録曲紹介

1:もっと近くに(as close as possible)

アルバムからリリースされたシングル曲でもあるが、アルバムからのファーストシングルとは言い難い。このシングルのカップリングは5の「Tiny Pretty Girl」である。
フジテレビ系の人気番組だった「なるほどザ・ワールド」の主題歌として起用されたことで有名。個人的にもこの番組はよく見ていたが、オフコースの本作が聴きたいが故に起用されている間はずっと見ていた。
この曲のコーダ部分で英語詞が出てくるが、それはRandy GOODRUMによるもの。ただ、これも、急遽決まったもので、テープを送る時間が無かったため、電話口でベーシックトラックを聴かせて意図を説明して作ってもらったらしい。
オフコース晩年のライヴにもしばしば登場していた。また、小田は英語部分を自分で日本語によって作詞し直してセルフカヴァーしている。
(作詞:小田和正・Randy GOODRUM、作曲:小田和正)

2:IT'S ALL RIGHT(ANYTHING FOR YOU)

むしろシングルとしてはこちらが先に切られている。アルバムヴァージョンとシングルヴァージョンには明確な違いが存在し、間奏やアウトロのソロがシングルでは松尾のギターなのに対して、アルバムではトム・ピーターセンのサキソフォンになっている。
また、アルバムヴァージョンの方が少々長い。これと「もっと近くに」と、どちらを先にシングル化するかをミーティングした結果、こちらの方が選ばれている。
シングルのカップリングは、この曲のインストゥルメンタルヴァージョンである「IT'S QUITE ALL RIGHT」で、曲の長さはアルバムヴァージョンに準拠しているらしい。
(作詞・作曲:小田和正、英語部分監修:PHILIP H.RHODES)

3:ガラスの破片

従来のイメージによるオフコースというブランドで出すような作風とは言い難い松尾の曲。若いアイドルなどが歌えばピッタリきそうな作風でもある。若しくは、若い後輩ミュージシャンが歌っても良さそうだ。
どちらにしろ、佳曲には違いないのだけれど、これまで世間一般に認知されてきたオフコースというバンドのイメージで演奏される必然性はあまり感じない。
ただ、秋元康の書いてきた歌詞は、松尾の少々トリッキーなメロディにうまく絡んでいて、これはこれでなかなか聴かせる風でもある。
(作詞:秋元康、作曲:松尾一彦)

4:白い渚で

シングルカットされたわけでもないのに、晩年のグループ非監修のベスト盤「君住む街へ」に収録されている小田の作品。まあ、良い曲には違いないのだけど。
ミディアムテンポの曲であり、この頃の小田がよくやる感じの大人しめの作品でもあった。
この曲にも英語の部分が登場するが、恐らく2と同様にPHILIP H.RHODESの監修を受けているものと思われるが、クレジットがないので正確なところは不明。
(作詞・作曲:小田和正)

5:Tiny Pretty Girl

アルバムの中でもかなり御陽気な作風で、歌い出しからいきなり清水仁のヴォーカルが聴かれる。Bメロで松尾一彦が歌い出し、サビは松尾と清水、キメフレーズ(タイトルフレーズ)を小田和正が歌うという、そういうパターンになっている。
オフコースというグループで演奏する必然性というより、これはむしろ若い後輩ミュージシャンに歌ってもらった方が良いのかもしれない。そういう従来型のオフコースのイメージから飛び出した感じの曲。
ただ、キメフレーズを小田にやらせる、というアイディアはオフコースでないと実現しないであろうことなので、これはこれで悩ましい。
良い曲ではある。1がシングルカットされた際にカップリング曲に選ばれている。
作詞を松本一起が手がけているが、そもそも松本を起用するきっかけになったのは、大間が手がけた勇直子の作品で作詞をしていた一人が彼だった、というのが理由。
大間は「この人ならオフコースでもやれるのでは?」と思って誘ったのだそうだ。
(作詞:松本一起、作曲:清水仁・松尾一彦)

6:Love Everlasting

サスペンスタッチもそこはかとなく漂う全面英語詞の本作は、実はオフコースのオリジナル作ではない。
作詞はRandy GOODRUM、作曲及びアレンジはDann HUFFである。Randyは「たそがれ」辺りから仕事をし始めている作詞家で、Dannはセッションミュージシャンとして名高い。
中でもWHITESNAKEの「Here I go again」の1987年版がつとに知られている。このように、本来はこうしたAOR的なポップ寄りのサウンドを得意とするミュージシャンでもある。
この曲のレコーディングに小田以外のメンバーは参加していない。というのも、本来この作品はソロ作「K.ODA」のメンバーによって録音されているためである。
このため、キーボードにRobbie BUCHANAN、ドラムスにTOTOのJeff PORCARO、ギターがDann HUFF、ベースにDavid HANGATE、パーカッションにLenny CASTROなどのセッションミュージシャンが参加している。
小田が歌唱している佳曲ではあるが、これをオフコースの曲としてリリースすべきだったのかは疑問の余地が残る。
(作詞:Randy GOODRUM、作曲:Dann HUFF)

7:I'm a man

3に続く、秋元康&松尾一彦コンビの作品。オフコースの作品というより、よくできたポップス、という感じしかしない。
良い曲には違いないのだが、オフコースというブランドの下で演奏される曲かどうかは意見の分かれるところ。
後にベスト盤「君住む街へ」にも収録された。
(作詞:秋元康、作曲:松尾一彦)

8:心の扉

清水が作曲に参加した曲のもう一方(5同様に松尾との共作)。これも歌い出しの部分から清水か歌唱している。作詞は松本一起と小田。
清水・松尾・小田の三人でヴォーカルを分け合う5みたいな状況になっているが、小田の歌唱範囲は5より多い。
短調基本の曲だが、だからと言って暗いイメージの作品でもないのは救いかもしれない。
(作詞:松本一起・小田和正。作曲:清水仁・松尾一彦)

9:SHE'S GONE

小田と松尾で書いている曲。冒頭からややミステリアスなムードを称える作品であり、少し従来の小田のイメージとは異なる風でもある。
恐らく、ファンが共通理解として持っているだろう「オフコースらしさ」という実態のないイメージからの脱却を図ろうとした作品かもしれない。
(作詞:小田和正、作曲:小田和正・松尾一彦)

10:嘘と噂

さて、本作中最も話題性のある作品かもしれない。ゲストに坂本龍一と大貫妙子が参加しているのがその理由。
このうち、坂本龍一については、小田が参加した財津和夫や松任谷由実とのコラボレーション曲「今だから」に参加していた縁で参加している。
一方、大貫妙子については、女性の心情を歌う部分に彼女の声を混ぜたら面白いだろう、という狙いから参加を要請された。
たまたま坂本、大貫の両者ともこの時点でMIDIに所属しているが、それは本当にたまたまである。
端的には、小田のイメージが大貫妙子の歌唱にマッチした作品、という言い方ができる。
(作詞・作曲:小田和正)

アルバム全体の短評

本作については、個人的には肯定的とは言えないが、だからと言って、本作を安易にぶった斬るのは難しい。

断っておくが、クオリティが低いわけはない。オフコースの名前を冠する以上、基本的にクオリティは高いと思う。

とはいえ、このアルバムはオフコースというブランドでリリースされた、オフコースの名前を冠した何か、だなあと思う。単純にオフコースの作品と理解するより、そう言ってしまう方が適切なように思う。

小田のソロ活動時に準備していた6や、清水が曲作りや歌唱に加わった5や8などとか、大貫妙子が参加した10など、バラエティに富んだ作品に放っているものの、これを「オフコースの作品」と納得するのはなかなか大変かもしれない。

これはむしろ、ビートルズで言えば「ザ・ビートルズ」俗に言う「ホワイトアルバム」に近いかもしれない。あれも確かに良い作品である。
だが一方で、良く解釈すれば「バラエティに富んでいる」反面、意地悪な見方をすれば「統一感の薄い散漫な出来のアルバム」という見方もあるかもしれない。

このアルバムと次作にして最終作の「STILL…a long way to go」とは、オフコースというグループが音楽的多様性を得ることで、オフコースである必然性を失う端緒になった作品であると思われる。

小田(または鈴木)的なものがオフコースだったのだとするなら、鈴木の脱退によって作曲家として松尾が成長し、加えて同じ立場で清水が頭角を現すことで、オフコースである必然性がなくなってきた、ということは言える。
かつての小田が考えていた「自分以外のメンバーが独り立ちしてやっていけるようになるまではやってみよう」を実践する中での作品の一つ、と言えるだろう。

昔の、小田和正や鈴木康博の個性で引っ張ってきたオフコースが終わり、松尾一彦や清水仁がこれまで以上に強い個性を獲得することで、新たな方向に成長を遂げたオフコースという音楽集団だった。
だが、それ故にオフコースというバンドである必然性を見失うことになっていって、誰かのソロプロジェクトの延長というか、入れ物としてオフコースという形態が存在していくようになったように思う。

成長は大変に素晴らしいことだ。彼らのキャパシティを広げることでもあるのだから、それは当然かもしれない。
鈴木の脱退により、オフコースは新たな可能性を得た。それは間違いないのだけれど、得たものが本当に彼らを幸せに出来たのかどうかは、何とも疑わしい。

シングルになった1は大好きだし、2も決して嫌いではない。4や5のように好きな作品もある。
だが、音楽的には充実した作品ながら、それ故に何かが微妙に違うように思えてならない。
たぶん、グループ末期でもあった彼らは「オフコースらしさ」という実態のないイメージの呪縛に、人知れず苦しんでいたのではないか。それが、鈴木という存在の喪失から新しい方向性を打ち出したことで顕在化したと思う。
無論、清水や松尾や大間が悪いわけではない。小田も然り。ただ、新たな個性が出現することで、従来培ってきた何かが失われてしまう、そのことに、当のオフコース自身が苦しみ始めていた。

何だか四人時代以降の、特にこの作品集と次作を聴いていると、そういう気がしてしまうのだ。
次作でオフコースは終焉に向けて歩き出し、東京ドームでの有名なコンサート「The Night with Us」を最後に解散することになるのだが、その端緒を本作から見ることが可能であろう。

本作はたぶん、オフコースという音楽集団の終わりの始まり、なのかもしれない。私には今はそう思えてならない。

基本的に他人様にどうこう、と偉そうに提示するような文章ではなく、「こいつ、馬鹿でぇ」と軽くお読みいただけるような文章を書き発表することを目指しております。それでもよろしければお願い致します。