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「ポジティブアプローチ」と「ギャップアプローチ」

「明日、その新人さんをデビューさせなきゃいけないとしたら、どんな具体的なサポートがあればデビューできますか?」

お客さまとのミーティングでお話を聞きながら、そんな問いを投げかけました。このお客様は、発達障がいを持つ子供たちの療育を行っています。こうした療育に正解はありません。そのため、スタッフは、子どもから学び、自分と向き合うことを大切にしています。

正解のないセッションにデビューさせることの難しさ

冒頭の言葉にある「デビュー」とは、新人が初めて一人で療育のセッションを行うことを言っています。そう聞くと、一通り進め方や手順を理解していれば、デビューできそうなものです。ただ、相手があってのセッションです。臨機応変な対応が求められます。何かあったときに対応できるかどうかを見極めてデビューさせることになります。

そういう状況ですから、新人の教育係になると大変です。ケースバイケースだけど、あれもこれもできるようになってほしいとは思う。でも、教えてできることばかりではない。かといって、そんなに都合よく経験してほしい経験ができるケースがあるわけがない。だからある一定の時間が必要になります。

一方で、教室をマネジメントしている教室長からは、なるべく早く新人を一人前にしてデビューさせたいという期待が向けられます。期待というと前向きですが、捉え方によってはプレッシャーとなります。

経営の観点からは、療育ができる人を育てていきたい。できれば、なるべく早く、再現性のある形で…という課題があります。そのための仕組みづくりをお手伝いしているところです。

ギャップアプローチとポジティブアプローチ

お客さまから色々と話を聞いていると、私たちコンサルタントと似ているなと思います。支援しながら、こちらも考えさせられます。

今回も、冒頭の問いが出てきたのは、コンサルタントのあり方として「ギャップアプローチ」と「ポジティブアプローチ」があるなと考えていたためです。前者はあるべき姿と現状のギャップを定義し、要素分解して足りないものに手を打っていくアプローチ。後者は、今あるものを活かしてありたい姿を作り上げていくアプローチです。

たとえるなら、前者はジグソーパズル、後者はレゴブロックといったところでしょう。

私は、自分のことをポジティブアプローチをとるタイプのコンサルタントだと自覚しています。冒頭の言葉は、ポジティブアプローチです。

ギャップアプローチだと、こんな言い方になります。

「3か月後に、その新人さんをデビューさせなきゃいけないとしたら、何が足りないのでしょうか。デビューできる状態とは何ができることと定義できますか?」

…特に問題ないですよね? 
誤解がないように申し上げると、ギャップアプローチを否定するつもりはまったくありません。私も上記のような言い方をするケースもあります。到達目標を示して、足りないことをトレーニングしていく段階もあるからです。ある一定のパフォーマンスが出せないと、臨機応変はできません。

とはいえ、このアプローチだと、いつまでたってもデビューできません。足りないピースを埋めるための経験ができるわけではないからです。そして、何が足りないかと言われたら、足りないことだらけです。そもそも「臨機応変」に正解はありません。

そこで、浮かんだのが、「明日、その新人さんをデビューさせなきゃいけないとしたら、どんな具体的なサポートがあればデビューできますか?」という問いです。

ポジティブアプローチが持つ効果

この問いには3つの狙いあります。一つは、現実解を出そう、ということです。今できることを使って、どうにか形にしようというわけです。そもそも正解がない療育ですから、そういう発想が必要です。正解ではなく、問いを立てることが求められます。

二つ目は、セッションを構成する要素の言語化です。ここでいっている「サポート」とは、「教育係のオブザーブ付きなら」とか「○○さんといっしょなら」とか、「保護者への説明はベテランがいっしょにやるなら」といった内容です。デビューさせる側が、どんなサポートが必要かと考えることであらためてセッションを構成する要素の言語化が進みます。

三つ目は、チャレンジする組織にすることです。ギャップアプローチだけだと、できない理由に逃げ込む可能性があります。「では、どうすれば良いか」と考えることが大切です。そうした前向きなチャレンジを促す力がポジティブアプローチにはあります。

ギャップアプローチとポジティブアプローチを意識して使い分ける

いかがでしょうか。
二つのアプローチは、方向が全く違います。しかし、問いに着目するとちょっとした違いです。このため、アプローチの違いを知らないとギャップアプローチばかりをする可能性が高いです。なぜなら、分かりやすくて、アクションが速いからです。そして、ギャップアプローチは分析的で賢く見えます。だからどんどん整理していく力が求められ、そうしたアウトプットができる人が主導権を握っていきます。

とはいえ、それだけでは解決できないことがほとんどです。整理して割り切れないことがあるからモヤモヤ悩むのです。それを受け入れて、前に進むためのアプローチも併せ持つことが大切なのだと思います。

ぜひ、意識して使い分けてみてください。



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