13.「lovesong」 – 『PROUD』 全曲ソウルレビュー –

※2016年12月24日に自作ブログに投稿した記事のサルベージです

すばやいスケッチのような「lovesong」がアルバムの静かな幕引き

2016年の傑作アルバム『PROUD』は、あきらめと後悔と逡巡と内省が入り混じる美しい13曲目「lovesong」でひっそりと幕を閉じる。

アルバムを締めくくるのは、答えを歌い上げるのではなく、問いの中に沈み込んでいくようなこの歌。

自由の喜びと、喪失の痛みと、歩むべき道の選択の難しさ。

そのはざまで思い悩む20代の風景を描いた、この『PROUD』というアルバムらしい終わり方だ。


清水翔太はこの「lovesong」という曲で、丹念に練りこんだ集大成というよりも、風景をサッと捕まえるスケッチのように、短い期間に心に次々と湧き起こる様々な感情や感慨をラフに歌ってみせる。

人生が凝縮されていく、ある瞬間。

おまえ見てると今にも 別の言葉で濁してしまいそう
恋に落ちたあの瞬間から 今日までを鮮明に思い出す
何かを選ぶということ それは何かを選ばないということ
やっぱ本当の自分は弱いな お前失うのが怖いんだ

一つのことをするということは、他の何かをしないということ。

人間は体を一つしか持たない以上、これは避けられない運命だ。

アルバム12曲目「キミノセカイヘ」のエントリで書いたように、誰かと一緒にいるのは自分の何かをあきらめることで、自分をつきつめるということは誰かと一緒にいることをあきらめることだ。

せめてバランスを取るぐらいはできるにしても、両方の道を究極までつきつめるというのは、人には許されていない不可能な道だ。

この歌の場合は、自分の道を突き詰めるほうを選んだ。

しかしそんな別れの瞬間、相手に飽きたわけでも嫌いになったわけでもなく、ただ自分の都合と決断で別れていくのは、身も心も引き裂かれるような体験になる。

なんやかんや半端なんやって
怒ったってどうしようもない関係
でも好きやからしょうがないやんけ
ずっとそこから動けない

決断は下されていても、足が動かない。

このままじゃ中途半端だと、心と頭はわかっていても、体が離れたくない。

同じ痛みをくり返さないために

言葉にしないだけで 想ってることは同じ
ふり返ればずっとそんな感じだった
玄関で最後のハグ どうしようもないとわかる
涙がこぼれるその瞬間 静かにドアは閉まった

心が整理されていない状態で二つのことを同時に進めていても、どうしようもない。

ずっと迷いつづけながらでも、付き合ってこれたのは、どちらも大切にしたい存在であることは間違いなかったからだ。

そういうことを学んだ上で、痛ましい別れがあったとき、それでは次にはどうしたらいいのか。


この歌のような別れを経験した者は、次の恋愛には慎重になるだろう。

人は同時に一つのことしかできない。

だから自分は何がしたくて、何と何にどのぐらいの労力と時間をかけられるのか、それを整理しておく必要がある。

たとえば誰かと次の恋愛を始める時、自分はその恋愛にどのぐらい本気で、相手とどうなりたいのか。

それを初めに、自分に対して明らかにしておかなければ、とても恋愛には踏み込めなくなるだろう。

自分のやりたいことの中に、「家族を得る」ことが含まれていれば、いつかはそういう恋愛にも踏み込む。

そしてそのために、結婚生活にせよ、子育てにせよ、そちらにも労力と時間を充分にかける覚悟と計算があるのか。

自分以外の人間のことを、自分と同じぐらい尊重し、大切にできるのか。

そういうことを、自分によく問いかけて、明らかにしておく必要がある。

またも中途半端にならないための、それが学びだ。

愛するのに、愛されるのにふさわしい自分になるために。

本当の愛って何だろう?
じゃ偽物の愛ってなんだろう?
そんなのわからないけど 二人でいるときは最高
でもそれだけじゃだめだよ
でもそれだけじゃだめだよ
頭じゃわかってても つかんだ君の腕離せないよ


書く力になります、ありがとうございますmm