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除夜のオナラ


とうとう年が明けてしまった。

またもや年が明けてしまった。

まさか2024年になるとは、2023年が始まったときは思いもしていなかった。

あと何度経験すればいいのだろう。
年が明けない年などないのだろうか。
毎年必ずやってきては焦りを僕に押し付けてくる。

それが年明け。
焦燥と書いてとしあけと呼びたいくらいだ。

だが、多少なり期待感もある。
今年はどんな年になるのだろう、良い年になればいいなと、てかきっと良い年になるはずだと、思い込むようにしている。

割合で言えば、焦燥9の期待1ぐらいだけど。
それでも焦燥のロックを飲むよりはマシだと、少しでも期待で薄めて酔っぱらわない一年にしようとしている。


1月1日は、年が明けてからすぐに同居人2人と近所の神社に行った。
そこは、物凄く小ちゃい神社で、もう小ちゃすぎて鐘もないしぜんざいもないしお坊さんもいないし鳥居も激狭なのに、僕たちが行った頃にはとんでもない量の人が押し寄せていた。

列が並びすぎてあきらめて帰る人を何組も見た。

去年は少量の人しかいなかったのになんでだ?今年からパワースポットにでも任命されたのか?パワスポ大賞みたいなのに選ばれたのか?何が起こっているんだ?

疑問を抱かせながら、僕たちは列の最後尾に並んだ。
気のせいかもしれないが、僕たちが並んでからは全然人が後ろに並んでこなかった気がする。

気長に順番を待っていると、なにか大きくて太い音が耳に入ってきた。

「バーッ!」

完璧にオナラの音だった。

2組前のフードを被ったお父さんがオナラをしたのだ。
新年早々なんて音を聞かせやがる。
でも、周りは賑やかで誰も気付いていない、もちろん同居人の2人も。

まあ特に言うことでもないかと、僕も気付いていないふりをしていると、、

「バーッ!!」

おいおいおい、思いきりが良いにもほどがあるぞこの親父、もっと静かにだすことはできないのか。

その鈍くて太い音は、またしても賑やかの中に消えていった。

どうやらぼく以外まだ誰も気付いていないらしい。
そりゃそうだ、みんな喋るのに夢中で親父の肛門に注意を払っている暇などないのだから。

同居人2人にこのことを言おうか悩んでいると、、

「バッッ!!!」

おいまじか。
まだこんな余裕が残っていたとは、恐るべし親父。

僕は、鐘のないこの小さな神社に、除夜の鐘ならぬ除夜のオナラが鳴ったのだと思うようにした。

僕にしか聞こえない音、故に僕だけもう3つの煩悩を消せたのだ。
よし、あと105回鳴らしてみせろ、頼むぞ親父、お前の実力はそんなものじゃないだろ。

そんな僕の思いは虚しく、4回目の除夜のオナラは鳴ることはなかった。

悔しさを胸にしまい、順番を待っているととうとう僕たちの番がやってきた。
3人並んで参拝を済ませ、本日のメインイベントであるお神籤を引こうとした。

だが、ここで僕はお賽銭分の小銭しか持ってきていなかったことに気付く。
なので、同居人2人に100円をせびったが、誰1人として100円を持っていなかった。
3人ともお賽銭分の小銭だけ握りしめて神社にやってきたのだ。

なんと愚かなことか。

類は友を呼ぶというが、類は同居してはならないということを知った。

その日はお神籤を諦め、トボトボ3人で帰宅した。


そして1月2日、僕たちはリベンジへやってきた。
ちゃんと財布を持って昨日の神社へと舞い戻ってきた。

意気揚々と巫女さんへお神籤を頼むと、巫女さんから先に参拝するよう促された。
そりゃそうだ、巫女さんは僕たちが昨日来たことを知らないし、昨日来たやつは次の日また神社に来るわけがないのだから。

昨日きて参拝はしたけど誰もお神籤代の100円を持っていなかったので今日はお神籤だけ引きに来ましたなんてことは言えず、巫女さんの言う通り参拝した。

昨日と全く同じお願いごとをし、お賽銭代分だけなんか損した気分になった。

そして、待望のお神籤を引くときがやってきた。
僕は、11月にとある神社でお神籤を引き、大吉をだしたという実績があるので、今回もまた大吉だろと、2ヶ月でそんな運気が下がるわけないだろと、余裕綽々でお神籤を引いた。

すると、結果は小吉。

ん?2か月で何があった?三段階も下がることある?なんで?

神様は気分屋なことを知った。

僕のお神籤の「転居」の項目に「早くしてよろし」と書いてあった。
僕たちは今年中には引っ越す予定なので、そのことを同居人に伝えると、

「俺の方には遅めがよしって書いてあるなあ」

「俺は動かぬがよしって書いてある」

詰んだ。

別々の時期に引っ越さなければいけなくなった。
また、1人は残留することが確定した。
なんて神は残酷なんだと、逆に笑いが込み上げた。

そして、この日もトボトボ3人で帰宅した。


1月3日、母親から電話があった。

母親が言うには、僕の2024年の運勢は48位中5位とのこと。
星座と血液型を組み合わせて1位から48位まで順位付けしたものをテレビで見たらしい。

僕は、前日の小吉を取り返したようでテンションが爆上がりした。
母親とスピーカーで会話しながら自分でも調べてみた。
すると、

なんか18位に下がっていた。

やっぱり神様は気分屋だ。
たった数時間で13も順位を下げるんやもん、おかしいって。

このことを母親に伝えると、

「それはサイトによって違うんやろ」

と、至極真っ当なことを言われた。

僕は、「そっか」とだけ返した。

このサイトに、今年の僕のラッキーアイテムはノートと書いてあったので、新しくノートを買ってやった。
しかも鍵付きのやつ。

僕の人生で、ノート1冊に2000円以上使うときがくるとは思ってもいなかった。
まだ何を書くかは決めていないが、とりあえず今年の目標でも書いておこう。
そして、毎日持ち歩いて書き留めたいことがあれば瞬時に筆を走らせてやろうと思う。


今日は1月7日、三ヶ日はあっという間に過ぎ、もう年が明けてから1週間が経とうとしている。

こうやってまたあっという間に2025年がやってくるのだろうなと、しみじみした気持ちになる。

三ヶ日が終わってみると、焦燥9の期待1だったのが、焦燥5の期待5くらいに変わっていた。
焼酎だとこのくらいが僕にとってはちょうどいい。

きっと未来は明るいはずだと、きっと今年の僕は昇り龍だと、思い込ませた甲斐があった。

だが、正月はもうとっくに終わったというのに、まだ正月気分から抜け出せれないでいる。

正月から食欲が止まらず、もう3キロも太ってしまった。
早く切り替えないと一瞬で2025年になるぞと自分に言い聞かせているのだが、なぜか食欲が止まらない。

欲望のままに食べ物をかっ喰らってしまう。

僕はもう煩悩の塊だ。

きっとこれは、除夜のオナラが3回で止まってしまったせいだろう。

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