見出し画像

【Leica】M10-Mはモノクロームの夢を見るか?

先日、X(旧Twitter)にてこんな投稿をした。

これは多分、ほとんど誰にもわからない「問い」。
私も同じ立場だったら当てる自信がない、というか当てようがないのでは?と思う。
では、この投稿の問いの目的は何だったのか、それを書いてみたいと思う。
(一応、最後にどっちがM10モノクロームなのか正解を書いておきますね)

◾️そもそもM10モノクロームとは何なのか?

先日、Leica M10 Monochrome(以下、M10-M)を購入した。
その一番の特徴は、色のある写真は撮れないモノクロ専用カメラであること。
モノクロ専用機は、最近ペンタックスがK-3 Mark III Monochromeをリリースして話題になりましたが、それまではドイツのライカ社のみが出していた(訂正:フェーズワンがモノクロ専用デジバック出していたらしい、勉強になります)。

X(旧Twitter)への投稿が証明しているように、カラーのデジタル画像は簡単にモノクロ化できる。さらに専門のRAW現像ソフトを使えば、トーンカーブで写真の調子までコントロールできてしまう。
なのに、なぜ、モノクロ専用機がいるの?そんな話に着地できたら。

◾️まず、「撮って出し」を見てみよう。

2枚の写真を掲載します。
一枚はM10-Dで撮ったもの、もう一枚はM10-Mで撮ったものです。
いわゆる「撮って出し」ですね。
これなら、どっちがM10-Mか分かりますか?

※娘とランチにいったお店のカットなので、厳密なテスト撮影ではありません。

fig1 なんかコントラストが高いな
fig2 こちらはフラットな印象、実際に太陽光が弱い時に撮った

これも、たぶん分からないですよね(M10-Mを所有し、ライカの望む味付けを知ってたら当てられるかな)。
撮影情報を共有すると、ISO1600 /F4.0 /レンズは同じ、で撮りました。
なので、違いが出るのはシャッタースピードくらい。
写真を見て分かるように、この日は太陽が雲に出たり隠れたりしており、この2枚も部屋に差し込む光が強さが結構違います。なので、センサーの違い以上に、日差しの状況が違う。

◾️次に、補正後を見てみよう。

では、あらためて、X(旧Twitter)に掲載した補正後の2枚を見てみましょう。
さて、次はどちらがM10-M、どちらがM10-Dでしょうか?
(上と順序が同じかもしれませんし、違うかもしれません)

fig3 うん、良い感じ
fig4 こちらもいい感じ、ハイライトは飛んでいる

互いを寄せたので、ますます分からなくなりましたね。
RAW画像を触っているのでちょっとしたコントラストは調整でなんとでもなる。ちなみに、これはトーンカーブと露光量調整しか触っていない。

つまり、デジタル時代、現像&レタッチにおけるモノクロームセンサーである所以は限りなく少ない。どっちで撮ったか分からないのであれば、ますますカラー写真の撮れないM10-Mに意味があるのか?となる。

◾️本題、拡大してみよう。

次はピクセル等倍で一部を表示してみた。
左と右、どちらがM10-Mだろうか?
これでかなりの人が正解できるのではないかと思う。

そう、左がM10-M、解像度が全然違う。これが、M10-Mの魅力の一つ。
(note投稿の画質劣化でも伝わると信じたい)

一つ目は、センサーの画素数。
M10-Dは2400万画素、M10-Mは4000万画素と大きく異なり、これが解像度の違いの一要因になる。
画素数が違うために拡大率が違うから、上の画像は分かる人にはそれでバレる。

そして、二つ目が今回ポイントとなるデモザイク問題。
あまり詳細は書かないけど、元々センサー自体は色を判別できない。
なので、カラーフィルタを用いて4つの素子で色を補間しているというのがベイヤーセンサーの仕組み。
たまに聞くだろう偽色というのは、簡単にいえばこの補間のための演算が狂ったものと理解してもいいかもしれない。
M10-Mは、モノクロ故にこのカラーフィルタが存在しない。
そのため、一つ一つのセンサーがシンプルに光の強弱のみを把握する。素子ひとつひとつがシャープに点を描く、といってもいい。
一方、カラーセンサーは隣にいる素子たちの色情報に影響され、角が取れてしまう、感覚的にはそういう理解でもいいと思う。

この画素数の差とカラーフィルタの有無が、M10-Mを尖ったものにする。

◾️モノクロームだから実現できる高感度

一般的に、高画素機は高感度が弱い。素子のピッチが小さいと受光量が小さくなるためだ。だから、一見M10-MはM10-Dより不利なような気がする。
ただし、先に述べたカラーフィルタがないことがここでも強みになる。カラーフィルタの有無は受光量を倍増させる、これがピッチ差よりもかなり大きく影響する(ようだ)。

また、色がないことは高感度時のカラーノイズの問題もクリアする。画像処理的にカラーノイズを低減することもできるが、それは解像度とのトレードオフであることを考えると、その高感度特性も理解できるはず。

モノクロセンサーが故に、感度特性が高い、加えて高感度のカラーノイズ問題が起きない。加えて、輝度ノイズは、モノクローム写真にとってフィルム時代の粒状感につながり、白と黒の世界に、ざらっと手触りのあるリアルをもたらす。

M10-Mが、ISO100,000というとんでもない設定ができるのはそのためだ。

深夜2時、立ち上がる蒸気まで妙にリアル ISO8000の世界

◾️なぜM10-Mを選んだのか。

若い頃、私はカメラにモノクロフィルムを詰めて写真を撮っていた。
過去開催した個展もすべてモノクロームで、写真はモノクロだろ、くらいに考えていた(化石ですね)。

銀塩時代は、モノクロしか暗室で焼けず、プリントトーンに責任を持てなかったという面も大きい。作品のアーカイバルの問題も無視できなかった。
一方で、デジタルで撮った写真で開催した個展(2022年)も、モノクロの持つセクシーな世界観を表現したくてカラー写真をモノクロ化した。
つまり、シンプルに、私はモノクロームな世界を愛している。

なぜM10-Mというある意味キワモノを手に入れたのか、それはこれまで述べてきた、極めて高いディテール表現、極めて高い感度耐性、それに尽きる。
それが無ければ、M10-Rでも良かったはずだ(赤バッジの好き嫌いはおいといて)。

大阪中之島美術館にて

M10-Mはモノクロームの夢を見るか?

「コシノジュンコ 原点から現点」より

そして、これは極私的な意見だが、M10-Dというカラーフィルムなカメラを持っている私にとって、次に手に入れたいのはモノクロームフィルムなカメラだった。手にした瞬間にモノクローム・アイにスイッチが切り替わるものが欲しかった。

あとからカラー/モノクロどちらでも選べますよ、は一見リッチなようで必ずしもそうとは限らない。「less is more」 、ミース・ファン・デル・ローエは正しい。

Leica M10 Monochromeは、どんな深い闇をも照らす燭台だ。
このカメラを携て、これからいろんな景色を見てみたい。


<正解>
左がM10-D、右がM10 Monochromeでした。
ついでに、
fig1:M10-M
fig2M10-D
fig3M10-D
fug4:M10-M
です。
あえて反対を選んでしまうんじゃないかな?という意地悪な現像&セレクトすみません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?