華麗なる逆襲 ー月曜午後10時への帰還ー
「退所後初の民放連ドラ出演」
2022年3月13日、早朝から長時間にわたってTwitterのトレンドに表示されていたワードだ。
それはその日の朝に発表された、2023年1月期の関西テレビ(カンテレ)月曜22時ドラマ枠で草彅剛さん主演の連続ドラマが放映されることになったという話題を受けての反応だった。
このニュースを聞いた時、私が思わずつぶやいたのはこの言葉だ。
私だけではない。ウェブ上を巡れば、同じような感想はすぐに、いくつも見つかった。
「遂に」と表現されているように、草彅さんが最後に民放の連ドラに出演したのが2017年1月期。今回新作制作が決まった同局ドラマ「復讐シリーズ」二作目『嘘の戦争』以来、実に6年ぶりのことだ。
関西テレビと草彅さんの縁は深く、同局制作の連ドラ主演本数は初主演ドラマでもある「いいひと。」(1997年)以降、今回を入れると8作目を数える。これは同局でも最多の主演実績となるそうだ。
そして月曜日22時と言えば、2016年末まで20年以上続いたSMAPの冠番組「SMAP×SMAP」放映枠でもある。
今はカンテレドラマ枠となったその月曜日22時に、記念すべき6年ぶりの民放連ドラ主演を果たすことになった草彅さんは、「再び原点であり出発点に戻ってきました」と語ったという。
「戻ってきた」
私も含め多くの視聴者も、この報せを聞いて同じように感じた。その言葉には、そこが彼が本来いるべき場所であり、それにもかかわらず6年もの長い間、理不尽にもそこから追われていたという共通認識が込められているように思う。
以前、草彅さんのNHK大河ドラマ出演が発表された時に『前に! ー草彅剛さんNHK大河ドラマ出演』でこう書いた。
大河出演が決まった時も、主演映画で大きな賞を受賞した時も、今回も、業界関係者だけでなく多くの視聴者が、彼の実力が正当に評価されたこと、彼が光の当たる場所に再び戻ってきたことを喜んでいる。よく乗り越えたと賞賛する。
理不尽にも彼に押された「今までのように出られないのは事務所の後ろ楯がなくなったからだ、今までの評価は実力じゃなかったのだ」という烙印。
その理不尽さを知りながら、そのような不当な烙印を覆すには、これまでの活躍ももちろん彼自身の実力であることを自力で証明するしかないのだと、じっとその動向を見守ってきた人たちがいったいどれほどいたことだろう。
今回の報せに喜んだ多くの人たちの中にも、そのような思いでこの日を待ち望んでいた人たちがきっといるはずだ。
でもその喜びの影で、これまで暗黙のうちに「乗り越える」べきとされたその壁、それ自体の不当性が、いつのまにか有耶無耶にされていくことにも気づく。
いったい彼から、私たちから、この素晴らしい才能を発揮し、享受する機会を6年間にもわたって奪い続けてきたものは何か。それは本当に「戻って」きたからそれでいい、として良いものなのだろうか。
さて、連ドラスタート時にはテレビ局は当然番宣のために前の2シリーズを再放送したいだろうし、日頃地上波テレビを見ない人たちにまで届けるためには配信もしたいはずだ。
退所後の草彅さんたちに関してたびたび話題になることだが、彼らが前事務所時代に出演した作品の再放送や配信は、今のところほぼ実現していない。
もちろん新作を幅広い人たちに見てほしいと望むテレビ局や草彅さん本人、所属事務所がそれを望むとは思えない状況で、万一今回も確たる理由もなくそれが叶わないとするならば、私たちはまたもやそこに働く何らかの力、意図を、今度こそ看過してはいけないだろう。
……とここまで書いて、実は私は今、そんな不安や懸念を遥かに超えて湧き上がってくるワクワクを押さえられない。
かつてはバラエティ枠であった月曜22時が奇しくもドラマ枠となったことで実現することになった、堂々たる「帰還」。
いみじくも今回新作が制作されることになった「復讐シリーズ」一作目『銭の戦争』の主題歌『華麗なる逆襲』(SMAP)の一節が、プロローグのように頭の中で響き渡る。
買い被らないで どうか茶化してよ
まだまだ勝負しちゃあいないぜ
ほんのついさっきまでの全てを 予兆と呼ぶから
どんな逆境だって たのしんでしまえさあ
面白おかしく 俺は勝ち逃げするよ(『華麗なる逆襲』より)
「あってはならない理不尽」は、もちろんあってはならない。
このかけがえのない6年という時間は、どうやってももう戻ってはこない。
その間にあり得た多くの共演や邂逅を思うと、やはり無念でならない。
しかしそのこととは別に、彼らがよくも悪くも背負ってしまったその「物語性」に、私はどうしようもなく心揺さぶられるのだ。
私もまたエンターテイナーとしての彼らの数奇な運命を「消費」する側の人間であることを自戒しながら、それでも心から彼らの「勝ち逃げ」を願ってやまない。
既にたくさんの人を幸せにし、これからもたくさんの人を幸せにし得る彼らには、その未来こそがふさわしい。
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