長編台本『不屍者の埋葬 -死臭-』

『不屍者の埋葬 -死臭-』

数多くの犯罪が日夜問わず行われている西の国。そこでは決して死なない少女たちが、秘密裏に戦うことで表面上の平和を保っていた…

※ネタバレを含みますので注意してください。





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40〜45分


男×3
女×3

調整委員会

ジュゼッペ
姿勢の悪く猫のような男。
冷酷そうに見えるが情はある。

ラファエラ
ジュゼッペの相棒。
冷静沈着だが年相応な可愛げもある。

アドリアーノ
調整委員の新人。
入ってから日は浅いが中々に優秀。

スザンナ
アドリアーノの相棒。
幼い少女のように見えるが戦い方は猛獣のよう。

殺し屋

セルギウス
凄腕の殺し屋。
どこか抜けているところがある。
嘘つきが好きじゃない。

ミロ
セルギウスの相棒。
喋るよりも食べるのが好き。
異常なほど鼻が利く。










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(街中)

ジュゼッペ
「…標的の本拠地を確認した。」

ラファエラ
「行動を開始する?」

ジュゼッペ
「ああ…お前の出番だ。
楽しんでこい。」

ラファエラ
「了解了解…仰せのままに。」

ジュゼッペ
「…了解は一回でいい。」

ラファエラ
「調整委員の仕事は小言を言うことじゃないわよ…それじゃ、目標を殲滅する。」

ジュゼッペ
「俺の調整が甘くないことを見せてこい。」


(昼、お気に入りのカフェ)

ジュゼッペ
「…なぁ政府はどうして不屍者を作ろうとしたと思う。」

アドリアーノ
「…そうですねぇ、単純に駒が欲しいとか?
ここ十数年で犯罪率は上昇する一方で、此方も手が足りてない状況ですからねぇ。」

ジュゼッペ
「そして行き着いた先が不屍者と。」

アドリアーノ
「そりゃね、調整委員のような人間がいれば、彼女たちは不死身の化け物になるわけだし…多くの人的資源を削減するにはもってこいですよ。」

ジュゼッペ
「武力には武力と…短絡的だが、解決策としては一番身近なものだな。」

アドリアーノ
「それで、えーっと先輩、武力っていうので思い出したんですけどね。」

ジュゼッペ
「…なんだいきなり。」

アドリアーノ
「最近の不屍者が襲われる事件について、何か知っていることってあります?」

ジュゼッペ
「そういえば数件、そんなのがあったな…一応彼女たちは大怪我だけで済んだとか。」

アドリアーノ
「此方でも色々と調べてはいますけどね…痕跡は今の所なし…相手はとんでもない凄腕ですよ。」

ジュゼッペ
「…そうか…おい、早く食えよ。
飯が冷めるぞ。」

アドリアーノ
「おっといけない忘れてた…先輩も気をつけてくださいね。
こんな仕事ですから、なにが起こるか分かりませんよ。」

ジュゼッペ
「俺の事よりも、お前のことを心配しろ。
…あと子供たちのことをな。」

アドリアーノ
「先輩…情なんて持っちゃいけませんよ。
彼女たちは、あくまで道具なんですからね…此方は上手いこと運用するだけですから。」

ジュゼッペ
「あ?んなこと分かってる。
…お前に言われなくたってな。」

アドリアーノ
「…」


(夕方、不屍者の住む寮)

スザンナ
「ラファエラ…」

ラファエラ
「なぁに、今日は非番なんだからゆっくり本くらい読ませてよ…」

スザンナ
「でもでも、それ前の非番の時も言ってた。
前々の時も…本なんて読まないで外で遊ぼうよ。」

ラファエラ
「えぇ…そもそもの話、ワタシたちは許可なく外出することを禁じられてる。それに本を読むことは別に悪いことなんかじゃないのよ?」

スザンナ
「…二人なら大丈夫ってアドリアーノが言ってたもん…」

ラファエラ
「アドリアーノが…?
ふーん…彼はそこまで優しい人だとは思えないんだけど。」

スザンナ
「アドリアーノのこと悪く言わないで…彼はすっごく優しいんだから。
この前もプレゼントを貰ったの!」

ラファエラ
「プレゼント?」

スザンナ
「うん、オルゴールを買ってくれたの。
すっごく綺麗な音だったよ!」

ラファエラ
「へぇ、彼も粋なことするじゃない。
それにしても、プレゼントか…」

スザンナ
「ラファエラは、担当の人からプレゼント貰ったことないの?」

ラファエラ
「…無いわ。ジュゼッペはそういう人じゃないから、あの人ね、凄く不器用なの。」

スザンナ
「あはは、そんな感じするかも。」

ラファエラ
「でも嫌いじゃないの。
彼と行動するのは、楽では無いけど生きてるって感じがするから。」

スザンナ
「…ねぇ、アタシたちって生きてるのかな。」

ラファエラ
「さぁね、少なくてもソレを定義するのはワタシたちじゃないから。」

スザンナ
「何だかちょっぴり寂しいね。」

ラファエラ
「…スザンナ。」

スザンナ
「…?」

ラファエラ
「…夜になったら絵本を持って部屋に来なさい。そしたら読んであげるから。」

スザンナ
「え!いいの!!
やったぁ、楽しみぃ。」

ラファエラ
「はぁ、貴女ってば単純なんだから…」


(同時刻、外)

ミロ
「寒い…」

セルギウス
「雪降ってるしなぁ…
夏だってのに気前いいよな神様は。」

ミロ
「雪降ってないって言ってた…詐欺師。」

セルギウス
「誰が詐欺師だよ…
それで、何か分かったのか。」

ミロ
「んと…今までの戦闘から、あの女の子たちは簡単に殺せないってことが分かった…この仕事を蹴って帰るのが安牌。」

セルギウス
「まぁ、不屍者なんて呼ばれてるもんな…にしても不完全な死者か…こんなもんが兵器として扱われるなんて世も末だな。」

ミロ
「アレは頭おかしい…
そもそも肉体の構造が人間じゃない…薬物による制御だけじゃなくて、身体の中に別なナニカを格納してる…?」

セルギウス
「…まぁ連中は化け物ってことだ。
それが分かれば十分。」

ミロ
「…本当にやるの?」

セルギウス
「少しくらい試してみたくないか…運命の女神は、果たしてどちらに味方するのかを、な。」

ミロ
「楽しそう…でもその前に、ご飯行こ。」

セルギウス
「はぁ…締まらないなこれじゃ…」

ミロ
「さっき美味しそうな店を見つけた…出陣。」

セルギウス
「あぁ走って転ぶなよー。」


(翌日、昼食、カフェ)

スザンナ
「ねーアドリアーノ。
どうして珈琲なんて飲んでるの?
苦くて美味しくないよぉ。」

アドリアーノ
「ん…ああ、どうしてだろうな…此方も気づいたら、としか言えないな。
スザンナも大人になったら分かるさ。」

スザンナ
「どうやったら大人になれんだろう…
アタシね早く大人になって、アドリアーノの役に立ちたいんだぁ。」

アドリアーノ
「…スザンナは今でも十分役に立ってるさ、此方も君と仕事が出来て嬉しいよ…プレゼントは気に入ってくれたかい。」

スザンナ
「うん!オルゴールありがと!
アタシもっともっと頑張るからね!」

アドリアーノ
「君はそれでいいんだ…その純新無垢な所を此方は評価しているんだから。」

スザンナ
「アドリアーノ?」

アドリアーノ
「…おっと、どうしたんだい。」

スザンナ
「あの、どうしてラファエラは担当の人からプレゼントを貰えないのかな…あの子もね、凄くいい子なんだよ…」

アドリアーノ
「ああ…それはね、ジュゼッペ先輩は不器用な人だからね、あまり他人に感情を伝えるのは上手な方じゃないんだよ。」

スザンナ
「それ、ラファエラも言ってた。」

アドリアーノ
「だろう?君が心配しなくても、二人とも仲良しだから問題ないさ。」

スザンナ
「そうなのかなぁ、でも気持ちは正直に言わないと伝わらないことの方が多いもん…」

アドリアーノ
「ははは、それは正しいよ。
けれどねスザンナ、それだけで解決しないから人は大人って生き物になるんだ。」


(同時刻、昼食、カフェ)

セルギウス
「なぁ…見えたか?」

ミロ
「こっちは問題無し。」

セルギウス
「なら良かった、ほれ好きなもん頼みな。」

ミロ
「じゃぁこれと、これと、これと…」

セルギウス
「しかしまぁ…どうやって片付けようかね。」

ミロ
「狙撃とか、爆破とか手段は多い。」

セルギウス
「いや、どれも理想的なものじゃない。
…恐らくだが連中相当勘がいいぞ…呆気なく防がれるだけだな。」

ミロ
「じゃあ、機会は少ないに限る…ご飯来た。」

セルギウス
「ん、ゆっくり食え…それに常にツーマンセルで動いているところも厄介だ…」

ミロ
「んぐんぐんぐ(ボクが囮になる案も却下)?」

セルギウス
「当たり前だろうに…あまりにも非効率的だ。
直ぐに合流されて狩られちまうさ。」

ミロ
「手段…少ないね」

セルギウス
「まぁ、闇討ちが安牌か…
それ食い終わったら私たちも動くぞ。」

ミロ
「…何が必要なの。」

セルギウス
「光学迷彩は持っとけ、不屍者の目は欺けんが効果は抜群だぞ。」

ミロ
「了解…場所は突き止めてある…行こう。」

セルギウス
「死体ひとつで二千万…これが終わったら、楽しいバカンスだ。」


(路地裏のバー、中には人が数人しかいない。)

スザンナ
「わぁ、大人のお店だ…初めて入ったぁ。」

アドリアーノ
「…スザンナ…あまりキョロキョロしてると怪しまれてしまうよ。」

スザンナ
「う、ゴメンなさい。」

アドリアーノ
「…まだ時間もあるし、何か飲み物でも頼もうか。」

スザンナ
「じゃあじゃあオレンジジュースがいい!」

アドリアーノ
「ははは、分かったよ。
…特に怪しい連中って、今いるかい?」

スザンナ
「イマイチ…ピンとくる人は居ないかも…
まだ時間まで余裕あるんだよね、どうしたの。」

アドリアーノ
「うーん、なんだか首の辺りがさっきからピリピリしててね。
凄くいやぁな予感がするんだよ。」

スザンナ
「…それって今回の任務に関係するの?」

アドリアーノ
「そうなのかなぁ、そこまで任務遂行が難しいものじゃない気がするんだけれど…」

スザンナ
「でもアタシが居るから大丈夫でしょ。
何があってもアドリアーノを守るんだから。」

アドリアーノ
「頼もしいなぁ、うちの姫さんはさ。」

スザンナ
「でしょでしょ、だからもっと頼ってね。」

アドリアーノ
「いつも君には頼りっぱなしだよ…情けない話だけどさ。」

ミロ
「…とても残念。」

スザンナ
「…っ!?アドリアーノ伏せて!」

スザンナがそう言い切ったと同時に、バーから勢いよく飛び出してきた男が銃弾を一室全体にばら撒き始めた。彼女は目の前にいる見えないナニカに先程まで無かった刀を振るい、そのまま男の方で急接近し一撃を加えようとしたが、半身を引いて躱されてしまう。

スザンナ
「貴方たちは、誰なの?!」

セルギウス
「その男と引き換えに教えてあげようかな。」

スザンナ
「そんなこと、アタシが許すハズないでしょ!
アドリアーノは早く逃げて!」

アドリアーノ
「…了解、君も気をつけてね…!
あまり此方に修理させないでくれよ…!」

スザンナ
「分かってるから早く!」

セルギウス
「…あーあ…こりゃすごい面倒だなぁ。」

スザンナ
「分かってるなら、大人しく投降して…
そしたら命の安全は保証してあげる。」

セルギウス
「…投降だって?
くっ、そんなことすると思ってるのか。
不屍者ってのは随分とお人好しなんだな。」

スザンナ
「…アタシは出来る限り人の命を奪うようなことはしたくないの、だから。」

セルギウス
「まぁそんなことは関係ない…これも仕事なんでね。
お互い恨みっこなしのダンスパーティーだ。」

スザンナ
「警告は…警告は、したからね!!」


(バー裏口、近くの細い路地)

アドリアーノ
「はぁはぁ、取り敢えず安全圏…先輩たちに連絡を…早く早く…!」

ジュゼッペ
『…なんだいきなり。』

アドリアーノ
「先輩!
緊急事態です、至急応援を!
敵は複数人います!」

ジュゼッペ
『…了解した…今は説明できる状態か?』

アドリアーノ
「いえ…どのような状態か確認できていません。」

ジュゼッペ
『そうか…俺たちが現場に一番近い。
…死ぬなよ。』

アドリアーノ
「…ええ分かってますよ。」

ミロ
「話は終わり?」

アドリアーノ
「態々待ってくれたのか…
しかし敵に正面から姿を見せるとは、それは愚策なんじゃないかな。」

ミロ
「光学迷彩は消費が激しい…
それに貴方なら無くて十分と判断。」

アドリアーノ
「ははは…それで君はあのバーで此方に話しかけてきてたね…スザンナから逃げ切ったのか。」

ミロ
「…あれは、偽装ホログラム…言いたい言葉はそれだけなの。」

アドリアーノ
「いいや…もっとあるけど、ねっ!」
手に持っていた傘を勢いよく彼女の方へと向けた。ネロは最初は戸惑いを隠せなかったが、その先を見て、すぐさま照準から逃れようと別方向へ身体を逃がした。しかし、銃口から勢いよく飛び出したのは銃弾ではなく大量の催涙性の煙だった。

ミロ
「っ!
…見えない。」

アドリアーノ
「それじゃあな!
次に会う時は取調室か検死室だ!」

ミロ
「けほ…まだ見失っては、いない…」


(地下、街の水路)

アドリアーノ
「此処まで、来れば追ってこれないだろ…
あいつら殺し屋か…?
しかしまぁ、随分と恨まれるようになったんだな調整委員会ってのも。」
水路は意外にも清潔で、声がよく反響して聞こえる。明かりは少ない為か薄暗く、水の流れる音と、消毒液の香りだけが、アドリアーノの感覚を刺激した。それがこの空間の不気味さをより引き立てていた。

ミロ
「はぁ…見つけた。」

アドリアーノ
「なっ、ぐぅっ…!」

ミロ
「…手間をかけさせないで。
今のは足、次は腕…」

アドリアーノ
「…だったら、早く殺せばいい…
どの道なにも喋らんぞ…ぐぁ…!?」

ミロ
「…次はどこを撃とうかな。
それで、不屍者の弱点はなに。」

アドリアーノ
「…あの子たちは死なない…そういう風に造り替えられたんだよ…お前たちには分からんだろうがな。」

ミロ
「そうなんだ…じゃあ此処でおしまい…」

ラファエラ
「…あら、楽しんでいかないの?」

ネロ
「援軍が早い…出来るなら、そうしたかった…でも不屍者相手なら逃げる一択…」

アドリアーノ
「ラファエラ…あの子を追うんだ…早く…!!」

ラファエラ
「ワタシが命じられた最優先事項は貴方の救出…そして、可能ならば敵対勢力の撃滅だけど。」

アドリアーノ
「なら…!!」

ラファエラ
「そう言ってもね…自分で思ってるより酷い出血よ?
両手両足を撃ち抜かれて…あと数分遅れてたらもっと酷いことになってたかもね。」

アドリアーノ
「くそったれ…じゃあ病院まで連れて行ってくれ。」

ラファエラ
「はいはい、それじゃ揺れるかもしれないから、しっかり掴まっててね。」

アドリアーノ
「はいは一回って先輩にも言われたろ…」

ラファエラ
「えぇそう…似たようなことならこの前、ね。」


(深夜、バー、戦闘後)

ジュゼッペ
「…幸いなことに死者はいない、か…
運が良いのか、悪いのか…」

スザンナ
「は、はい…気をつけて戦いました、です。」

ジュゼッペ
「俺に敬語は不要だ…もっと気を抜け。」

スザンナ
「ご、ごめんなさい、でもとっても怖そうだから、つい…」

ジュゼッペ
「…そうか、それについてアドリアーノの話し合っておこう…相手はどんなヤツだったか?」

スザンナ
「それが、そのよく分かんなくて…
顔が認識出来なかったというか…えと。」

ジュゼッペ
「…上手く顔を隠してたのか、はたまた不屍者の優れた五感をすり抜ける手段を持っていたのか、どちらにせよ厄介な状況は変わらずか。」

スザンナ
「…あと、何発かいい一撃を貰っちゃいました…折角のお洋服がぁ…アドリアーノ、新しいの買ってくれるかなぁ…」

ジュゼッペ
「そんなもの幾らでも申請すればいい…近接タイプの不屍者相手にダメージを与えるか、本当にそいつは人間なのか…」

スザンナ
「あの人、すっごく強かった…でもラファエラたちが来たタイミングですぐに逃げられちゃった…アタシは足の再生に時間を取られてたから動けなくて…あっちは大丈夫なのかなぁ…」

ジュゼッペ
「あぁ…アドリアーノは生き残ったみたいだ…相手にも逃げられたって悔しがってみたいだがな。」

スザンナ
「あはは…なんだかアドリアーノらしいや。
それで、怪我はどうなの…?」

ジュゼッペ
「出血が酷いようだから暫くは動けんだろうな。
死ななかったことは評価対象だ。」

スザンナ
「じゃあ、お見舞いに行かないと…
何買って行こうかなぁ…」

ジュゼッペ
「今日のところは帰って休息を取れ。
明日になったら、ラファエラを連れて買いに行くといい。」

スザンナ
「はい!それでは…」

ジュゼッペ
「待て。」

スザンナ
「どうしたんです?」

ジュゼッペ
「…調整は狂ってないか?」

スザンナ
「そっちは特に…大丈夫、かな。」

ジュゼッペ
「ならいいが、何かあったらラファエラに言え。
アドリアーノの代わりに俺が調整しよう。」

スザンナ
「ありがとう…でもジュゼッペさんって優しいんだね…今まで勘違いしてた。」

ジュゼッペ
「…俺は優しくない、道具には、適切な手入れが必要なだけだ。」

スザンナ
「ふふふ…それでは、そういう事で。」

ジュゼッペ
「…はぁ。」


(早朝、ホテル)

ミロ
「…とても疲れた。」

セルギウス
「お疲れさん…連中はやれたのか。」

ミロ
「思ったよりも、不屍者が来るのが早い。」

セルギウス
「そりゃなぁ…取り敢えず頭をズドンでいいんだ…人間なら、それで死ぬ。」

ミロ
「じわじわ嬲りたかったのに。」

セルギウス
「…おいおい頼むよ…私も連中相手に死に物狂いで戦うのはかなりしんどいぞ…」

ミロ
「それはごめん。」

セルギウス
「まぁかなりいい所まで追い詰めたんだろ。
…次辺りでいい加減仕留めたい。」

ミロ
「今の位置だと…病院がある。
一般人も普通に入れるけど、流石に日中は侵入出来ない。」

セルギウス
「おぉ病院送りにしたのか…そこまでやれたら上等だな。
さてさて、報酬が入ったら何をしようかね…」

ミロ
「もっと褒めてもいい…でもお腹空いた。
ホテルの朝食…バイキング形式。」

セルギウス
「そうだな、空腹はなにも良いことを生まないからな、とっとと食べて目的地に向かうぞ。」

ミロ
「了解…今度は逃がさない。」

セルギウス
「私たちは猟師と猟犬だ。
しっかりと狙った獲物を仕留めないとな。」


(夕方、病院)

ジュゼッペ
「アドリアーノ…調子はどうだ。」

アドリアーノ
「…先輩。
いやぁ情けない姿を見せてしまって、直ぐに復帰してみせますから。」

ジュゼッペ
「ああ頼むぞ…あれから、俺の方でも調べてみた…ラファエラやスザンナな聞いた話からな。」

アドリアーノ
「それで、何者なんですか。
所持していた装備も、身のこなしも並の連中とは一線を画していました。」

ジュゼッペ
「…かなりの大物だぞ。
…猟師と猟犬って言えば分かるか。」

アドリアーノ
「…確か、此処より東の方で活動している殺し屋の二人組ですよね。」

ジュゼッペ
「そうだ、更に言えば…奴らの達成率については知っているか。」

アドリアーノ
「いいえ…此方では見ていませんね。」

ジュゼッペ
「98%だ…奴らは狙った獲物を決して逃がさない、正に猟師と猟犬だな。」

アドリアーノ
「…残り2%は…」

ジュゼッペ
「契約の不履行だな。
それで逆に依頼主を殺害…中々の凶暴っぷりだろ。」

アドリアーノ
「…奴らの狙いは、不屍者ですかね。
一体何処から情報が漏れたんだか。」

ジュゼッペ
「…さてな、上の連中も案外その手のことは杜撰なのかもな…たまには、現場仕事も体験させてやりたい。」

アドリアーノ
「ははは…そうですね…」

ジュゼッペ
「お前は…」

アドリアーノ
「はい。」

ジュゼッペ
「この仕事は…調整委員は好きか。
そろそろ、慣れてきたか。」

アドリアーノ
「…親父も先輩と同じことを言ってましたよ。
…慣れてきたか、と言われればノーですね、あの子たちは道具なんだって思っても、殺しは殺しですし、血を見るとその重さを想像してしまいます…きっと怖いんですよね。」

ジュゼッペ
「何がだ…」

アドリアーノ
「此方の犯した罪が、罰になって返ってくることが、ですよ…先輩は怖くないんですか、そりゃ此方は命令するだけです…でも、人は死ぬんです、沢山死ぬんです。
声で、目で、指で、向けた方向の人間は例外無く消えてしまうって嫌な話じゃないですか。」

ジュゼッペ
「…我々は、いつか報いを受けるだろう。
だから祈るしかない、今日死なないように…」

アドリアーノ
「先輩もしかして…教会に行ったりするんですか。」

ジュゼッペ
「気が向いた時にだが…なにか可笑しいか。」

アドリアーノ
「いえいえそんな…ただ意外だと思っただけですよ。」

ジュゼッペ
「…」

アドリアーノ
「先輩は、そういうのには頓着がない人かと思いまして。」

ジュゼッペ
「…昔はそうだった。」

アドリアーノ
「…え。」

ジュゼッペ
「いや、忘れてくれ…俺はそろそろ行く。
ラファエラにスザンナを連れてくるよう言っておいてある…そろそろ来るだろう。」

アドリアーノ
「…色々と迷惑おかけして…」

ジュゼッペ
「いや構わない…それと、コレを置いていく。」

アドリアーノ
「…拳銃ですか。
まぁ、その助かりますが。」

ジュゼッペ
「手持ち無沙汰なのは褒められたものじゃないからな…祝い物だ。」

スザンナ
「アドリアーノ!」

ラファエラ
「こら…走っちゃだめだって。」

アドリアーノ
「スザンナ…」

ジュゼッペ
「それじゃあな…行くぞラファエラ。」

ラファエラ
「了解了解。」

ジュゼッペ
「はぁ…だから了解は一回でいい。」


(病院、日も落ちてきている。)

アドリアーノ
「スザンナ…心配してくれるのは嬉しいよ。
でも、大丈夫だからそんなにベタベタ触らなくてもね…」

スザンナ
「でもでも…アドリアーノは怪我しないって思ってたから…」

アドリアーノ
「ははは…此方は人間なんだよ。
君たちみたいな不屍者じゃないんだから…」

スザンナ
「アドリアーノはどうして不屍者にならないの?
そういえば男の人の不屍者って見た事ないけど…」

アドリアーノ
「さぁ…僕は部門が違うからさっぱりなんだ。」

スザンナ
「へーそうなんだ…ラファエラ以外の不屍者の子も見たことないし、居るんだとしたら友達になれたらいいなぁ。」

アドリアーノ
「ああ、それなら他の地区にいるよ。
此処の地区はスザンナとラファエラだけかな。」

スザンナ
「いつか他の子にもあってお話してみたいなぁ…一緒に買い物したり、公園で遊んだり、パーティーして楽しむの。」

アドリアーノ
「それは、いい夢だね。
なぁスザンナ。」

スザンナ
「んゆ?」

アドリアーノ
「君は、初めて人を殺した時のこと、覚えているかな。」

スザンナ
「えぇとお…実はあんまり…えへへ。」

アドリアーノ
「そう、なのか…君は…うん。」

スザンナ
「元々、アタシたちは任務が終われば記憶処理をしなくちゃいけないから仕方ないんだけどね。」

アドリアーノ
「…最近、君のことが人間のように思えてきて、手が震える時があるんだ…これって変なのかな…スザンナは道具、で…人じゃないのに。」

スザンナ
「…気にしなくても、大丈夫だから。
アタシは貴方に命令されるなら、どんなことでも喜んでやるよ!」

アドリアーノ
「スザンナ…」

スザンナ
「だから…そ、その抱きしめてくれたら、嬉しいなぁって…ご褒美に。」

アドリアーノ
「それくらいお易い御用だ…ほらおいで。」

スザンナ
「ん…暖かいんだね、人間って…」

アドリアーノ
「君は、冷たいんだね…死んでるみたいだ。」

スザンナ
「みたい、じゃなくて…死んでるんだよ。」

アドリアーノ
「ははは…そりゃそうか…うん。」

スザンナ
「あははは…」


(夜、病院)

セルギウス
「よぉ、迎えに来たぞ。」

アドリアーノ
「おいおい…警備の人間が居ただろ…」

セルギウス
「生憎だが、そいつらには長い休暇を取らせることにした…帰って来れなくなるくらい楽しい、な。」

アドリアーノ
「それで、さっさと殺さないのか。」

セルギウス
「少しくらい話した方がリラックス出来ると思ってな…ちょっとした気遣いだよ。」

アドリアーノ
「お前の相棒は、今と同じことをしてしくじったぞ猟師…」

セルギウス
「私たちのことをもう調べたのか…やはりあっちの猫背の男は狙わなくて正解だ、あいつは強そうだったからな。」

アドリアーノ
「…目的はなんだ。」

セルギウス
「調整委員と不屍者だ。
両方で二億、調整委員だけなら二千万。
お前ら人間はそこそこな値段ってとこだ。」

アドリアーノ
「不屍者のことは、一体誰から。」

セルギウス
「そりゃ依頼主だよ…勿論言わないからな。」

アドリアーノ
「そりゃ残念…」

セルギウス
「多少はプライバシーを守らないとな…腐ってもプロだ。」

アドリアーノ
「違う大陸では良くやってるみたいだしね…
最後に、遺書を書いても?」

セルギウス
「おう…五分くらいなら待ってやる。」

アドリアーノ
「ありがたい…ねっ」

ミロ
「…それは危ない。」

アドリアーノ
「っ…光学迷彩、充電はしてきたかな。」

ミロ
「バッチリ…それで殺すの。」

セルギウス
「そうだなぁ…嘘ついたもんな。
まぁ、ガッツは認めてやるさ、最期に言い残すことは何かあるか、代筆してやるぞ?」

アドリアーノ
「…スザンナによろしく言っておいてくれ。
それとお前たちは必ず先輩がっ…」

ミロ
「仕事おしまい…帰ってご飯…」

セルギウス
「まてまてまて…代筆が終わってないんだ…
先に帰ってろ、後から追いつく…ほれ駄賃はやるから。」

ミロ
「じゃあまたあとで。」

セルギウス
「おう、どこに旅行しに行きたいか考えとけよ。」

ミロ
「はいはい。」


(早朝、病院前)

スザンナ
「ぐすっぐすっ…」

ラファエラ
「大丈夫…大丈夫…」

スザンナ
「ううぅアドリアーノぉぉ…
まだ、早すぎるよぉ…」

ラファエラ
「スザンナ…」

ジュゼッペ
「…少し落ち着いたか。」

ラファエラ
「そう、見えるの?」

ジュゼッペ
「そうじゃないと、困るな。
…それに渡すものもある。」

ラファエラ
「…渡すものって。」

スザンナ
「…うぅぐすっ」

ジュゼッペ
「スザンナ…お前に奴から、アドリアーノからのメッセージがある…読む覚悟はあるか。」

スザンナ
「ぐすっ…ただ泣いてても、どうしようもないもんね。読むよ…それで連中に復讐するんだ。」

ラファエラ
「それを、アドリアーノは望んでるの?」

スザンナ
「きっとこの手紙にも、そう書いてあるもん。
だから、貴方たちのチームに入れて欲しい。」

ジュゼッペ
「俺は構わない…上がどう言うかは知らんがな。
ただし命令には従ってもらうぞ。
あと、俺の調整はキツいからな。」

スザンナ
「そんなの構わない…アドリアーノのは今よりもずっと痛い思いをしたんだ…だからアタシはそんなのへっちゃら。」

ジュゼッペ
「なら着いて来い。
…暫くは忙しくなりそうだ、丁度人手が欲しかった。」

ラファエラ
「よろしくね復讐鬼ちゃん。
ワタシも優しくは出来ないかもね。」

『不屍者の埋葬』 -死臭- 了

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おまけ

ミロ
「もぐもぐ…」

セルギウス
「おい。」

ミロ
「んぐんぐ…」

セルギウス
「聞いてるのか…!」

ミロ
「なに…今いいところ。」

セルギウス
「いいところ、じゃねえよ…
コイツらが今回の標的だ。」

ミロ
「女の子…可愛いね」

セルギウス
「ただの少女って訳じゃねぇ
連中は────っ!?」

ミロ
「…始まった。」

セルギウス
「あぁ、だがここじゃ分が悪い…逃げるぞ。」

ミロ
「まだご飯残ってる…」

セルギウス
「んなもん後で買ってやるから…!」

ミロ
「じゃあ働く…肉厚ステーキ…」

セルギウス
「金に見合った仕事しろよな…ったく!」

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