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【詩】太宰治

雪深い白銀の弘前
もう日が沈みそうなころ
ひとり太宰のまなびの家を訪れた
病の影が長く伸びて
職を転々としていたときだった
身一つで何も持たない者たちのなかで
叱責や嘲笑、憐憫に
毎日のようにまみれて暮らしていたら
突然太宰に会いたくなった
太宰の机は薄明りのなかで冷たかった
”満開の桜”
図書館で借りた
場違いな弘前の旅行本の写真は
幻のようで
でも若い女のコがひとり
はるばると時さえも越え
会いに来たと知って
自惚れた太宰には
薄いピンク色は
そのときとても似合うような気がした

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