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息子が大怪我した両親の、一番長い一日

前回、年明けに一般病棟に移った話をしました。
今回は最初に戻って、愛知の実家の両親の目線から、救急搬送されてからの1日の話をさせてください。

12月11日の21時半ごろ、僕は東大の近くで、自転車で大怪我をしました。
そのころ実家では、すき焼きを美味しく食べていたそうです。

救急搬送の消防から電話が掛かって来たのが、10時20分ごろ。

自転車で怪我をしたと聞いて、両親は
「バカだねぇー、明日新幹線で様子見にいこっかー」
なんて言っていたそうです。そりゃそうなるよね。

でも何度も掛かってくる電話。
「緊急手術になります」「〜〜について同意いただけますか」
父は、「全て医師の判断する最善にお任せします」と答えて、2人は東京へと車を急がせることになります。

本当に死ぬのかもしれないと、思ったそうです。

「色々よくないことがたくさん頭に浮かんでくる。けど、口に出すと本当になりそうで、こわい。寝ていいよって言われても眠れない。なかなか電話が掛かってこない。」


母の日記の言葉は、心情を察するに余りあります。

12日の朝4時半、海老名サービスエリアで電話を受け、手術が終了したと聞かされます。

6時半、日本医科大学付属病院に到着。対面。

「生きている 眠っている いろんな管がついている 泣けてくる」

僕が貰い泣きしてしまうほどです。

一方父は「手術後、大樹の顔を見て、必ず治ると確信した。死ぬ男の表情とは違う。生気がある。」と言います。

直後、主治医から手術の経過と怪我の症状を聞きます。
言葉を取り戻せない。立てない。意識レベルも低い。後遺症が残る。東大に行ってた能力はなくなる。自発呼吸もままならない可能性が
あらゆる可能性を隠さず伝えてもらったそうです。

「何? どうなってしまうのか… 不安 でもまずは、命が助かったことに感謝。
いろいろ繋がれていて 触っていいのかも分からない 人工呼吸
顔がはれている 右目が少し開いていて涙がたまっている 左手は温かい 右手は冷たい

と母。

しかし父は、「必ず良くなる、学会で発表してください」と言ったそうです。そんなこと言う人、他にいるんだろうか…

その時の担当医の説明の走り書きの一部を、母が見やすく書き直したのが、この画像です。(母は教師で、字が圧倒的に綺麗。)

とにかく恐ろしい名前の病状が並んでいます。
「左側側頭部打撲」「左側硬膜外血腫」「急性硬膜下血腫」「右側側頭葉脳挫傷」「外傷性くも膜下血腫」「脳挫傷」「意識障害」「右側片麻痺」

で、「開頭血腫除去術」という、頭蓋骨を開く手術がされたそうです。
何が何だか分からないですが、やばそうなのは分かりますね。


面会ができるのは午後。両親は動きの早い優秀なチームなので、眠れてもいないはずなのに次の手を打ちます。

東大本郷付近の僕のシェアハウスへ。
同居人とも相談して、連絡しなきゃいけない人をリストアップ。
ロックもかけてなかったのが幸いして、ラインで連絡。仕事関係は名刺を探って電話で連絡。
部屋の掃除、モノの整理。

この機動力がなければ、いろんな仕事に支障が出るところでした(支障は出たんだけど)。助かりました。


午後の面会。まだ薬で眠っている僕。
(目を覚ますまでは2週間を要しました。)
これからどうなるか、どこまで回復するのか分からないと言われていた僕を、父は写真に残しています。

「そのうち、この経験を本にまとめるとか言い出すだろうから」と。
よくそんなこと考える余裕あったな…
未だ集中治療室。撮るのも憚られたろうに。
でも、おかげでこんな写真を使えてるわけです。

2人とも仕事があって、愛知に戻る予定だったのですが、やっぱり帰れないと思ったそうです。
その日はシェアハウスの僕の部屋に泊まって、両親の長い長い1日が終わりました。

1日を振り返って、2人が話したことが、母の日記に残されています。

「大樹が生きていてくれて感謝。たとえ障害が何か残ろうと、大樹は大樹。大事な大事な私たちの子。
もう一度子育てできるなんて幸せじゃないか。東京に行って帰ってこないと思っていた息子と、また一緒に居られるんだよ
一緒にキャンピングカーで旅しながら過ごそうか」

ようやく東大を卒業するはずだった子供に、「どうなってももう一回育てる」なんて言えるでしょうか。親の覚悟は想像を絶します。

あまりに幸せな子供なんだと、思い知らされます。

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さて、次回はまた一般病棟に移った所に戻ります。
実は1月12日からは、勧められて日記をつけ始めていました。

ちょうど半年の7月12日からは、毎日更新をはじめます。
そのころの日記と、今の自分のコメントを軽く加えてみます。
ほとんど回復し、働けている今。半年前のあの時の気持ちを、もう一度噛み直さないといけないと思うんです。

お付き合いください!


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