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別世界の入り口に立って

会場の後ろのほう、真ん中の席に座って正面を見ながら、誰に言っているかも分からない言葉を反芻していた。
「そこ。そこのドアを開けて地上へ出たら、もう終わり。」
ずっと考えていたら、いざ本当に終わったときにさみしい気持ちになってしまうかもしれない。そう思っていたのだけど、実際はかつてない高速の卒業式とあっという間に時間が経った懇親会。そのあとは急いで食事に向かうという怒涛の展開で、何かを感じる暇もなく外に出てしまった。

道すがら話をする人も食事をしながら話をする人も、明るい話しか出てこなくて、本当にいい半年だったと実感した。

企画メシ第8回【自分の企画】

6月から始まった『企画メシ』もいよいよ最終講義。講義テーマは『「自分の企画」〜未来の自分を企画する〜』。最終課題はこれだった。

「あなたはどんな企画をする人になりますか?」

第1回の「言葉の企画」や、はたまたその前に提出した設問の回答と関係しているのだろうか。そんなことを考えながら、自分が提出した過去の課題を見返したり、各講義で講師の皆さんが話した言葉を思い出したりしていた。

30数年生きてきて「人生」について話そうというのは、先を歩く先輩たちにも、追いついてくる後輩たちにもおこがましい。でも「自分の企画」と言われて、ふと自分のこれまでについて考えた。これは課題を出すにあたって大きな影響を与えたものだったから、少し書いておきたい。

自分はこれまで1本の道を歩いてきたというより、バカでかい屋敷のような家に居たんじゃないか。そんな考えが浮かんできて妙にしっくりきた。小学校・中学校……人生のステップごとに新しいドアを開け、その部屋で過ごす時間に一喜一憂する。それだけでなく、ラジオに夢中になればラジオのドアも毎日開けていたし、引っ越しのタイミングで別の地域のドアも開けた。

いろいろな経験をしてドアの数は増えた。今も毎日開けるドアがあれば、年に1・2回もしくは数年に1回のペースで開けるようなドアもある。正直、できれば近づきたくない、開けたくないドアもある。
それまでのすべてのドアが「自分」という家の中には並んでいて、いつだってそのすべてに入れる。

これからもきっとドアは増えていく。と同時に、できるなら自分の経験が誰かのドアになればいい。数年に1回開けるペースでいい、きっとそれはその人の「選択肢」になる。そういうドアを作りたい。
そう思って提出した課題が『DOORを企画する』だった。

BUKATSUDOでの「宣言」

第7回講義の最後に、最終講義での発表者を募っていた。「少し考えて翌日に枠が埋まってなかったら」くらいに思っていると、5分と経たず発表希望枠がすべて埋まっていて驚いた。
もちろんあとで希望すれば発表はできたと思う。でもけっきょく、発表はしないことにした。

直前まで悩んで、行くことに決めた横浜・BUKATSUDO。毎日仕事で早起きしているのに、それよりも早い時間に起きて出発。空港から飛行機に乗って、横浜に着いて、ずっとワクワクする気持ちが止まらなかった。
「はじめまして」の挨拶をして会場準備をしたら、もう講義の時間に。

阿部さんがこれまでの振り返りをして、いよいよみなさんの発表。29人の「宣言」が次から次へ自分の中に入ってくる。全員が自分の悩みも決意も詰め込んで、前を見据えて発表する。他の企画生はそれを真正面から受け取る。
写真でしか見たことのなかった「講義」が自分の目の前に広がっていて、それだけで嬉しい。と同時に、発表者から見る景色はきっとめちゃくちゃいいものなんだろうと、ずっと思っていた。

全員の発表が終わってから、反芻していた言葉をもう一度思い返す。あれは自分が発表者だったら、そんなことを言ったんじゃないか。そう思ったあとで言葉の続きが出てきた。

そこ。そこのドアを開けて地上へ出たら、もう終わり。
でももう次のドアの前に立っている。
同じ「企画メシ2021」のドアを開けたみなさんが、すでにそれぞれのドアの前にいてすごいと思う。
自分はまだまだこの先がぼんやりとしているけれど、みなさんが次々にドアを開けていく中で、開けたくなるようなドアを作りたい。

企画メシ2021からの「卒業」

講義から卒業式・懇親会・食事とすべてが終わって、宿泊するホテルの部屋で受け取った卒業証書を読んでいた。みなさんの「宣言」をあらためて見たあとで、阿部さんと平賀さんの言葉を読んでまた気持ちが満たされた。

すぐに自分が変わることはないかもしれない。でもここで学んだことを、ここで「宣言」したことを大事にして、もっといろいろ挑戦していこう。自分のことを誰より自分が面白がって、楽しもう。

みなさんがこれからどんな風に進んでいくのかも、とても楽しみだ。進んだ先の姿もしっかり見たいし、今よりもっと関わっていきたい。それぞれのドアを開けても「企画メシ2021」のドアはずっとあり続けて、いつだってそこに集まることができる。

高揚した気分のなかでそんなことを考えていたら、電気も消さずに眠ってしまっていた。

別世界の入り口に立って

翌朝。人通りが多いのかどうかも分からない日曜9:30の環八通りを歩いていた。ラジオを聴こうかとも思ったが、音楽を聴きながら駅に向かうことに。耳に入ってくる最初の曲に、前日のことやこれまでのいろいろなことがよみがえってきて、鳥肌が立った。

10年以上前から聴いているのに、いまこの曲が自分と重なるのか。
そう思いながら両腕をさすって鳥肌をおさえる自分が、ちょっとおかしくて笑ってしまった。
少しして落ち着いてから、前日からの充実した気持ちのまま飛行機に乗って福岡に帰ってきた。

阿部さんが作詞をされた、向井太一さんの『FLY』。
チームの企画でできたオリジナルソング『プロローグ』。
偏愛ラボでみなさんが教えてくれた『推し曲』。
企画メシで出会った音楽はどれも好き。そこに加えて自分からもう1曲、詞の一部と一緒に紹介したい(ちょっと強めの詞も出てくるけれど、それはダメな自分に向けてのものと思って)。

終わらそうぜ 地下の生活
瓶詰めの 蓋をこじ開け
ほら希望が 肺の底から口を出た

書き溜めた 思いのたけと
君に向けた 殺し文句と
連れ出そうぜ 埃まみれの誇り抱いて

プロペラが回り出して
はやる心をなだめた
さあ何から仕掛けようかな

今に全てが変わるさ
風に泳ぐ船に乗れ
ここから眺める世界は
歌い踊りやまない

椿屋四重奏『別世界』

同じ時に、同じドアを開けたみなさんのこれからが、歌い踊りやまないものでありますように。
ありがとう。

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