蛍石とフッ素

蛍石(フローライト)は見た目が美しく、コレクションとしても人気がある鉱物の1つです。蛍石はUVライト(ブラックライト, 紫外線ランプ)の照射や、加熱により発光(蛍光)するという性質があります¹⁾。(美品ではないですが、私も1つ持っています。UVライトで光らせると楽しいです。)

蛍石の主成分はフッ化カルシウム(CaF₂)であり、これに硫酸(H₂SO₄)を反応させることでフッ化水素(HF)を得ることができます。これには化学の授業で習う弱酸の遊離の性質が利用されています。このフッ化水素を水に溶かして水溶液にしたものがフッ化水素酸(フッ酸)です。

第17族元素(周期表の右から2番目の縦の列にある元素)をハロゲンといいます(表1, 橙枠内)。ハロゲンと水素からなる化合物をハロゲン化水素といい、その仲間には塩化水素(HCl)、臭化水素(HBr)やヨウ化水素(HI)などがありますが、フッ化水素(フッ化水素酸)のみが唯一ガラスを溶かすことができる酸です。フッ化水素酸は、まれに”ガラスを溶かせるほど強い酸”と誤解されることがありますが、酸としては他のハロゲン化水素よりも弱く、ガラスを溶かす性質はフッ化物イオン(F¯)の働きが鍵になります(詳細な説明は省きますが、フッ化物イオンはガラスのようなケイ素(Si)化合物と”相性がよい”のです)。

表1. 元素周期表²⁾(色付きの枠内が第17族元素であるハロゲン)

フッ化水素は毒物に指定されており、何やら怖い物質として名前を聞いたことがある方もいるかもしれません。この物質は一体何に使われるのでしょうか?フッ化水素やフッ化水素酸は、ガラスを溶かす性質があることからガラスの加工に用いられるほか、テフロン(PTFE, 図1) ³⁾などのフッ素原子(F)を含む化学製品や医薬品(例:デキサメタゾン酢酸エステル, 図2)⁴⁾などのフッ素源の1つとして使用されています。分子にフッ素原子を導入することでユニークな性質が発現するようになります(例えばテフロンの場合なら高い撥水性や高い撥油性が挙げられますね)。詳細は別の記事で紹介したいと思っています。

図1. テフロン(PTFE)
図2. デキサメタゾン酢酸エステル(市販の虫刺されの薬の成分の1つとして利用されています)

【参考文献】
1) 多摩六都科学館, 結晶美術館 - 蛍石の加熱による発光, https://www.tamarokuto.or.jp/blog/rokuto-report/2023/09/12/post-28548/ (2023年12月10日閲覧)
2) 元素周期表はぽっくり下駄様の素材を加工して使用させていただきました。
元素周期表ベクター素材 - ぽっくり下駄, https://booth.pm/ja/items/2548309

3) Wikipedia, テトラフルオロエチレン, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%AB%E3%82%AA%E3%83%AD%E3%82%A8%E3%83%81%E3%83%AC%E3%83%B3 (2023年12月11日閲覧)
Wikipediaの情報になりますが、PTFEの原料であるテトラフルオロエチレンの合成にはフッ化水素が用いられているようです。ちなみに、テフロンもPTFEも同じ物質を指しますが、テフロンはデュポン社の商標になります。
4) 有機合成化学協会 編, 医薬品の合成戦略 医薬中間体から原薬まで, 化学同人, 2015年7月, デキサメタゾン p6-p7
デキサメタゾン酢酸エステルの母核となるデキサメタゾンはフッ素を含むステロイドであり、フッ素の導入にはフッ化水素酸が使われているようです。