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24年桜花賞を振り返る~勝負を分けた雷神とレジェンドの驚異的先読み~

レース前から話題の多い桜花賞だった。

ルメールが先週のドバイで不運にも落馬し負傷。チェルヴィニアの鞍上が空いてしまった。大野は腰をやってしまってキャットファイトのジョッキーも空いてしまい、新たに2人が枠を埋めないといけない状況に。

そこに武さんの家に窃盗団が入ったニュースまで入ってきた。まー、これ自体は高松宮記念の日のニュースだし、レースの流れを変えるようなものではない。ただただ武さんが不憫でならない。

そんな話題の多い桜花賞だが、枠順が決まった後のマスクの第一印象は、やけに有力馬が近くの枠に固まったなというものだったんだ。

今年の桜花賞の4~6枠
⑦スウィープフィート 武豊
⑧コラソンビート 横山武
⑨アスコリピチェーノ 北村宏
⑩セキトバイースト 藤岡佑
⑪ライトバック 坂井
⑫ステレンボッシュ モレイラ

人気の一角となるクイーンズウォークが1枠に、チェルヴィニアが大外に行ったものの、他の人気馬は真ん中付近に固まる抽選結果だったんだよ。

枠順が決まった後にもpostしているが、今マスクが言っているのは5番目のところ。

以前からマスクは『強い馬の後ろ』、『武豊の後ろ』がいいポジションであると耳にタコができるんじゃないかと思うほど言ってきた。ある意味競馬の基本みたいなものさ。

今回のように有力馬が固まると、近くの有力馬も競馬がしやすくなる。だって近くにマークする存在がいるんだもの。すぐに後ろに入れるだろう?

他の有力馬の外に入れば、他の有力馬を外から締めることができる。有力馬たちは『全体的に競馬がしやすくなる』のだ。

この時点でマスクの桜花賞最大の注目ポイントは、真ん中付近の枠に入った有力馬たちのポジショニングとなった。


今年は4年ぶりの桜花賞開催

お前は4年間寝てたのかと言われそうだが、今年の桜花賞は4年ぶりの開催だった。予想のタイトルもそう書いた。

何が4年ぶりかって、先ほど挙げたPostで触れたように『4年ぶりのBコース2週目』だったのだ。

桜花賞というレースは基本的に毎年Bコースで行われる。ただここ3年は京都競馬場の改修の影響で、桜花賞の週からBコースで開催していたんだよ。それまでは前の週の大阪杯週からBコースに変わっていて、桜花賞はBコース2週目の開催だった。

つまり以前と同じ桜花賞に戻ったのだ。前日予想にも極端に内伸びではないと書いたが、日曜は更に外伸びが進行していた

これは日曜9Rの忘れな草賞だ。8頭立てという少頭数だったんだけど、青タガノエルピーダ川田が直線を向いて外に持ち出そうとしているのが分かる。

忘れな草賞(内回り芝2000m)
1着 青④タガノエルピーダ 川田
2着 黄⑤ステラクラウン 岩田康
3着 緑⑥ヒヒーン デムーロ

このように上位は内より外にいた馬だった。この川田の挙動を見る限り、今日の阪神芝はなるべく外のほうがいい

阪神10R ダイワスカーレットカップ(内回り芝2000m)
1着 桃⑮エーデルブルーメ 川田
2着 緑⑫シェイクユアハート 古川吉
3着 青⑧セブンマジシャン 鮫島駿
4着 橙⑬フレーヴァード モレイラ
5着 黒④アスクドゥポルテ 岩田望

忘れな草賞と同じ内回り2000mで行われたのが、10Rのダイワスカーレットカップだ。8頭立てだった忘れな草賞に対して、こちらは16頭立て。

外を回る馬はよりロスが発生する可能性があるものだが、結果はご覧の通り外。川田がタガノエルピーダどころではなく外を回って勝ち切った

一応内目を通った黒アスクドゥポルテが5着に入っているように、決して内は走れないというわけではない。ただ今年からBコース2週目ということもあり、コース変わりの恩恵はもうなくなっている

レース前に『最後に外が差してくる馬場』とPostしたが、直線の短い内回りでこれ。より直線が長くなり外回りは、更に外になると考えられるわけ。

Bコース開幕週であればここまで外になる可能性は低かったのではないかな。京都改修の終わりが桜花賞に影響を与えていた

有力馬が固まるレースは大体面白い

と、レース前にXに書いた。冒頭に書いたように、有力馬の後ろはベストポジション。力の足りない馬が近くにいるより、力のある有力馬が近くにいると固まるとポジションの取り合いになる。

当然みんな狙ってくるわけだから、ジョッキーの思考が問われてくるわけで、それが面白いんだよな。

黄アスコリピチェーノ北村宏と緑ステレンボッシュモレイラは、たぶんお互い前に出たほうの後ろに入るプランだったと思う。近くにいる有力馬の後ろに入るのはセオリーの一つだからね。

正面から見るとスタートから大体同じようなポジションに見えるが、これが横から見るとそうでもない。

黄アスコリピチェーノのほうがまだゲートを出ているのだ。まー、出ているとはいえ普通程度だけどね。逆に緑ステレンボッシュのほうが後ろになってしまった。

出遅れたわけではないが、出てから数完歩で少しトモを落とすような形になって、モレイラが軽く追って出している。

結果、黄アスコリピチェーノが緑ステレンボッシュの前に行く形になるんだけど、こうなるとステレンボッシュのモレイラはアスコリピチェーノの後ろに入りに行くのがセオリーになるから、早速実行しに行くことになる。

この時点では黄アスコリピチェーノの後ろは水ライトバックなんだが、ライトバックはパドックからパシュファイアーを着けて2人で引いているくらい気性が難しい。折り合い重視になるため、黄アスコリピチェーノとの間にスペースが生まれる。

そうして空いたスペースに緑ステレンボッシュのモレイラがスッと入っていく。ここまではセオリー通りなのだが、逆に言えばそのセオリー通りのことをGIで無駄なくやってくるモレイラはさすが

スタートからわずか200mちょっとでステレンボッシュはベストポジションに入った。後はもう前にいる黄アスコリピチェーノが自爆しなければ勝ち負けになる。

しかも橙エトヴプレが内に寄っていったんだよな。コントロールが甘かったか収まりがついていなかった感じではある。

これで青コラソンビートや黒イフェイオンが内に更に押し込められる形になったんだ。

橙エトヴプレが内に寄っていったことで、緑ステレンボッシュの前のポジションがぱっくりと空いた。しかも黄アスコリピチェーノは外の赤セキトバイーストあたりに締められないよう、抵抗していかなければいけない。

普通であれば18頭立てのGIだと馬群の真ん中の馬はもっとプレッシャーを受けるものだが、この画像から見て分かるようにステレンボッシュに対するプレッシャーがだいぶ甘いんだよな。

対して白クイーンズウォークはただでさえ内枠2番なのに、エトヴプレの内への寄りで更に内が密集したことにより、完全に身動きが取れなくなってしまっている

レース後川田は「内の状態は悪くない」と話しているが、いいとは言っていない。9Rも10Rもより外へ、外へという意識を持っていたように、川田は外のほうがよりいいことくらい分かっている。

しかしこの馬群ではどうやっても外に出せないし、それこそ逆シャダイカグラをやるくらいしか手がない。

これで有力馬の1頭がほぼほぼ詰みの状態になり、展開面は更にステレンボッシュに向く。まー、勝つ時はこうして全てが噛み合うものだ

ペースの話をしよう

余談だが、今朝、総裁に怒られた。洗濯物を入れるカゴが壊れたのだ。

総裁曰く「もっと大切に扱いなさい」とのことだが、「物には寿命というものがある」と言ったら火に油を注いだらしい。しっかり怒られてしまった。

ちなみにこの話は桜花賞のレース回顧に何も関係ない。ただ今日こんなことがあったよというマスクの報告だ。

話を戻そう。今年の桜花賞のペースについて見ていきたい。

24年桜花賞
12.5-10.8-11.2-11.8-11.8-11.4-11.2-11.5
34.5-34.1 1:32.2

過去10年と比較すると、前半3Fは4番目、後半3Fは3番目タイに速い。簡単に言えばそんなにスローでもないのに上がりも速かったレースだ。

今年の桜花賞にはトライアルのチューリップ賞で逃げて2着だったセキトバイースト、同じくトライアルのフィリーズレビューを逃げ切ったエトヴプレという逃げ候補が出走していた。

そこに昨年末の阪神ジュベナイルFで逃げて5着だったシカゴスティング、加えて昨年の新潟2歳SやアルテミスSで逃げていたショウナンマヌエラもいて、このあたりが逃げ候補という認識で多くの人間が一致していたと思う。

前哨戦とGIの前半3F
23年阪神JF 34.4 5位
24年チューリップ賞 34.5 3位
24年フィリーズレビュー 33.8 7位

右の順位はそれぞれの前半3Fを、過去10年と比較した時の順番。例えば阪神JFの34.4は、それまでの10年と比較すると5番目に速い

どのレースもそれなりには流れていたほうだ。ここにショウナンマヌエラがいれば、少なくとも15年桜花賞、レッツゴードンキが勝った年のような前半3F37.1なんていうスローペースになることはないと考えられる。

結果、前半3Fは34.5、前述したように過去10年中4番目に速いという、標準か、気持ち速いかくらいのラップになった

そこまで遅くないペースなのに目立って引っかかっていたのが黒イフェイオンと青コラソンビートの2頭だ。どちらも正面から見ても頭を上げているのが分かる。

11着イフェイオン 西村淳也騎手「イレ込みが激しく、競馬でもファイトして収まりがつきませんでした

16着コラソンビート 横山武史騎手「何とか折り合いをつけたかったんですが、1600mは長かったですね。思い切って逃げてみるプランもあったのかもしれません

お互いのレース後のコメントを見ても、まー、パトロールで見た通りのコメントだ。武史の逃げというプランは、馬場を分かっていないのではなく、ハナに行けば馬が物見してハミが抜けるからっていうことだろうね。

まー、標準、気持ち速いラップだから、これ以上速いペースで逃げても最後捕まるだけだったと思う。ただしコラソンビートが逃げるとどんなレースになったのか見たい気持ちはある。

この青コラソンビート、黒イフェイオンが掛かって抑えにかかると、先ほど少し触れたように白クイーンズウォークの川田は厳しい。外に出しようがない

手としては紫キャットファイトと内ラチ沿いの空いたスペースから上がるやり方かもしれないが、そもそもキャットファイトが内ラチとスペースを空けているのはラチ沿いが良くないから。

Bコース2週目』であって、『開幕2週目』ではない。阪神は阪急杯週から数えて7週目。Aコースで5週間使った結果、内はすでにそこまで良くない。そんな良くないところから上がって脚を使うわけにもいかない。

川田からすると、見据えているのがオークスだという意味合いもあると思うね。次オークスを使うことは戦前から決まっていたが(そのために前走東京に輸送してクイーンCを使った)、すると800mの距離延長になる。

道中の折り合いが鍵になるオークスを前に、マイルで道中動かす競馬はしたくない。レース後に「これをいい経験にして、次に向かっていくための準備ですね」と話しているが、オークスを見据えて乗っているのは明らか。

ただでさえ内目が大したことがないのに、折り合っていない馬もいるわ、馬群の中で閉じ込められている馬もいるわ、この時点でもう有利なのは外を追走している馬だったんだよね。

エトヴプレは強いのか

23年阪神ジュベナイルF
12.4-10.7-11.3-12.0-11.8-11.3-11.4-11.7
34.4-34.4 1:32.6

24年桜花賞
12.5-10.8-11.2-11.8-11.8-11.4-11.2-11.5
34.5-34.1 1:32.2

これは昨年末の阪神ジュベナイルFと桜花賞のラップ比較だ。コンマ何秒の違いはあるが、前半3F34.5前後、中盤は12秒を切るあたりになって、ラストは34.5以内。基本的なラップ構成がほとんど似ていることが分かる。

阪神ジュベナイルも桜花賞も、ラスト2Fとラスト1Fのタイムを比較するとどちらも-0.3秒ほとんど失速していない

つまり先行馬は1F12.0以内で走り続け、なおかつラスト1F11.5以内を3連発で出さないと好走できないわけで、当然だが苦しい。これもまた外差し組有利に働いていた。

24年桜花賞
1着ステレンボッシュ 11-8 33.4
2着アスコリピチェーノ 8-8 33.5
3着ライトバック 17-18 32.8
4着スウィープフィート 18-17 33.0
5着エトヴプレ 2-2 34.2

差し有利で上位が33.5以内の脚を使う中、2番手から粘ったエトヴプレは思った以上に走った印象が強い

フィリーズレビューは前半3F33.8、ここ10年と比較すると8番目とはいえ、33秒台で入りながらラスト3Fを35.1(過去10年で3番目に速い)でまとめて後ろに差させなかったあたり、結構やるなとは思っていたんだけど、マイルでこれほどまで粘れるとは正直思わなかったな

極端に速いペースではないから過度な評価は禁物だとは思うのだけれど、ラスト1Fまで先頭をキープしていたように内容自体はいい。レース後克駿が「力は出し切っています」と言っている通りの内容だったと思う。

よりいいのは見た目通り1400以下だろうし、そうなると5月25日、ダービー前日に京都1200mで行われる葵Sが目標になってくるだろう。葵Sの斤量設定は馬齢だから、牡馬57kg、牝馬55kgで固定される。

つまりエトヴプレのフィリーズレビュー制覇が斤量設定に何にも影響を与えない。これが55kgで出てくると、よほど差し馬場ではない限りチャンスがありそうだね。

今年の葵Sは過去のDコース開催ではなく、連続開催6週目、Bコース変わり3週目になって外伸びになる可能性があるから馬場は見ておきたい。

超現実的な武豊の思考

わざわざここまで馬場とペースの話をしてきたのは(途中総裁に怒られた話はあったが)、差し馬有利の流れで外伸びであるということを頭の中に置いておいてほしかったからだ。

そうなると有利になるのは黒線で囲ったこのあたりだろう。大外のチェルヴィニアも控えてはいるが、ずっと外を回り続けるのはロスでしかないから、有利候補から除外している。

ここで注目したいのは青スウィープフィートの武さんの動きだ。ペースは恵まれている。あとは進路取りが重要になってくる。

仮にスムーズに進路を取るのであれば、内より外。ペースが流れて垂れてくる先行馬を避けないといけないからね。馬場も外のほうがより伸びるのはこれまでのレースから分かる。

外に出すとすると、水ライトバックが邪魔だ。この馬を外に弾き出しながら進路を確保していく必要があるし、逆に言えばライトバックの瑠星は青スウィープフィートの外進出をどうにかして防がないといけない。

瑠星も武さんの外への進出は頭に入っていただろうし、本来のセオリーとしてはそうなる。

ところが青スウィープフィートの武さんは、水ライトバックを押し出す素振りがない。それどころか目線が内のほうを向いている。馬場は外伸びなのにだ。

武さんが馬場を読めていないかというと、それは違う。むしろ誰よりも馬場読みは上手い。それこそダートが1cm2cm厚みが違うのを歩いて判別してくるくらいのモンスターさ。そんなモンスターがセオリー無視しているのである。

4着スウィープフィート 武豊騎手「このメンバーでずっと外を回しては苦しいので、内を通ってどこかが空くかと思ったんだけど…

武さんのこの進路取りの理由はレース後のコメントで明らかになっている。そう、『このメンバーでずっと外を回しては苦しい』のだ。

シビアだと思ったよ。チューリップ賞であれだけ綺麗に差し切っているのに、現実的な判断を下し、外を回しては足りないから馬群を突く選択肢を取ってくるんだから。

まー、これはスウィープフィートの長所を生かした手でもある。エルフィンSで荒れたインをロスなく立ち回って伸びてきたように、この馬は馬場が多少荒れてようが問題なく走れるのがいいところ

つまり外伸びで内目が荒れていても問題ないから3コーナーでも内目を通って脚を溜めている。エルフィンSの永島まなみちゃんの進路取りは外伸び馬場だったのに内を通ったことで結構色々批判されていたが、ある程度間違いではなかったことがここで天才によって証明されている。

戦前から武さんのトーンがそこまで上がっていないあたり、チューリップのような形にはしないんじゃないかと見ていたし、予想でもヒモ扱いだったんだけれど、武さんの戦前のトーンがそのまま出たレース内容だった

武豊という人ではない何か

今回の桜花賞、武さんが自分の騎乗を何点と評価しているのか分からないが、少なくとも50点以下だったのは間違いない。なぜかって、直線詰まったからだ。

これは桜花賞の4コーナーの入り口。前の章で内目を意識して回っていたと書いたが、ここでもまだラチに近いところ。つまり道中のロスを削っている。

水ライトバックに締められる立場だろうが、もうすでに一か八かという戦法を取っているんだ。多少足りないと武さんが感じているのが否が応でも伝わってくる場面だよ。

前述したように、レース後武さんは「内を通ってどこかが空くかと思ったんだけど…」と話している。武さんの作戦としては道中内目でロスを削り、直線を向く過程で前がどこか開けばそこを突くという手だった。

そのため直線入口に向くところで、少しずつ外に、外に持ち出している。まー、どこも開いていないんだけど。

そこで武さんは開きそうなところを見つけたんだ。桃マスクオールウィン津村のところだ。マスクは大外に動こうとしている時点で、遠心力もかかる分、少しだけ外に膨らむことが考えられる。

そうすればその後ろの水ライトバックは更に外を回すことになるし、武さんからすると大外を回るロスを削れるし、願ったりかなったりの展開なんだよな。

ところがここに武さんの誤算があった。桃マスクオールウィンが大して外に膨れなかったのだ

津村は技術力の高いジョッキーでコーナーで簡単に膨れたりはしないんだけど、遠心力が掛かってもほとんど膨れずに回ってきた。これで青スウィープフィートの進路が通ろうとしていたマスクの内の進路が消える。

かといって、桃マスクオールウィンの外に出そうにも、水ライトバックの瑠星がしっかり外を締めて回ってきたからこっちも進路がない。

ここの瑠星が上手かった。惰性で外を回さず、しっかり内をフタしてきた分、更に外に弾かれることなく回ってきたんだ。3着に入ったのはこれが決め手。マスクが高目を引けたのは瑠星のこの締めによるもの。ありがとう瑠星。イケメンだな。

そうなると青スウィープフィートの進路は桃マスクオールウィンの内。この画像だと分かりにくいんだけど、マスクの津村は右ムチを持っている。

何度か過去の回顧で触れているように、馬はムチを叩いたほうとは逆のほうに行く。この場合、右手にムチを持っていれば左に、つまり外に行くからね。気持ちは分かる。

実際武さんの想定通り、桃マスクオールウィンは右ムチの影響もあって少しずつ外に行った。

しかしまだまだ武さんの試練は終わらない。今度は前にいるのが橙テウメッサ、左前にいるのが黒セシリエプラージュだったんだよ。

別に人気が能力を表しているとは思わないが、前走アネモネSでようやく2着、単勝147.1倍15番人気のテウメッサがメンバー中上位の力があるかというと、それはないだろう。

人気馬の後ろがベストポジションなのは、前の馬に脚があるから進路が開くことによる。逆に前が力の足りない馬だと詰まるから本来避けたいポジションだ

しかしもうそんなことは言っていられない。武さんは前のテウメッサを捌くしかない。

セオリーとしては一瞬開いた橙テウメッサの内側の進路に入りたい。黒セシリエプラージュのデムーロが左ムチを使っていて、自分の側に寄っているしね。

しかしこれが難しいところで、青スウィープフィートには内にモタれるという癖がある。チューリップ賞でも内に、内にモタれていった。ここまで映像を切り取っていると12時に間に合わないから割愛するが。俺だってのんびり風呂に入ってから熱闘!Mリーグを観たい。

内にモタれるとなると話は変わってくる。モタれる馬で内に入りにくいし、武さんの選んだ進路はその逆、外だった。

若干理解に苦しむシーンだが、青スウィープフィートの武さんは黒セシリエプラージュを内からそっとプッシュして、進路がそもそも開いてないところに進路を作ってしまったんだよ

ほぼ進路がないところに新しく作って、なおかつ制裁を受けないというのはちょっと神業。人かは疑わしい仕事さ。

しかも武さんが見ていたのは黒セシリエプラージュだけでなくその先も。よく見ると水ライトバックの瑠星が左ムチを叩いている。つまりライトバックは内に寄っていく。

橙テウメッサと水ライトバックの間にはスペースがあるが、武さんは瞬時にこのスペースも消えると判断して、進路を更に外に持っていった。

実際に武さんの読み通り、水ライトバックが内に寄っていって、最初に開いていたスペースは消えた。なかった進路を作り、更に先まで読む、プロ棋士のようなことをしている

まるで高性能カメラ。確かに最初マスクオールウィンが外に行かずに一度詰まる誤算はあったが、ここからの立て直しが凄かった。これだけの高性能カメラが自宅についていれば…と思わざるを得ないが、あの邸宅の防犯設備は万全だったはず。不憫でならない。

先にスウィープフィートの話をしてしまうと、やはり武さんに道中内を選択させてしまっている以上、感触としてはGIで外を回して足りるレベルではないのだろう。もちろんいい馬だとは思うが、今年は前述したようにレベルが高い。

ただ同時に、一度詰まりかけながら狭いところを割って4着まで差しているように、武さんからすると「思った以上にやれた」という感覚が強いと思う。

実際レース後に武さんは「このメンバーでも十分にやれたし、オークスは楽しみじゃないかな」と話している。このメンバーではやれないかもしれないという思いが、このメンバーでもやれるに変わっている

だったら最初から外回してスムーズならと思われるかもしれないが、ライトバックがフタをする中で強引に弾くにも体力はいる。そもそも道中のロスを削りに削ってここまできているわけで、最初から外を通って勝てたとも思えない。

折り合いにだいぶ進境が見られる今なら2400も持つんじゃないかとも思うが、長距離輸送になること、直線内にモタれる馬がまだ左回りを使ったことがないことなど、不安な点は結構あるな。

まー、収穫としては『思った以上にやれること』を武さんが掴んだことじゃないかな。次はもう少し攻めの騎乗をしてくると思う。

おばあちゃんのスイープトウショウはチューリップ賞を勝った後に桜花賞5着、そこからオークス2着と巻き返した。単までいけるとは言わないが、もう1、2つ着順が上がる可能性はありそう。

2歳女王の弱点、見逃さない雷神

全然アスコリピチェーノとステレンボッシュに触れずにゴール迎えたぞと思った人間もいるかもしれないな。お待たせした。このレース最大のポイントの時間だ

これは先ほど挙げた桜花賞の向正面。この画像、よく見ると黄アスコリピチェーノが少しだけ外を向いているのが分かる。

ほんのちょっとだし別に問題ないレベルだと思うが、アスコリピチェーノは少し口向きが悪い。阪神ジュベナイルもそう。わざわざ切り取って出すと熱闘!Mリーグに間に合わないから省くが、阪神ジュベナイルのパトロールを見ると分かる。

3、4コーナーだ。少し左側、つまり外のほうに少しだけ張っている。あの時は外にプシプシーナがいて壁役になっていたんだけど、やや外に張っていた。

それでも馬群の中から抜け出してきたりと見た目は乗りやすい馬なんだが、たぶんこちらの見た目以上に乗り難しい馬なんだと思う

3コーナー前でも黄アスコリピチェーノは少し外を向いているのが分かる。ここでも少し口向きが悪く見える。まー、改めてここが敗因だよと指摘するレベルではないのだが、お分かりだろうか、1つ前の画像との違いが。

ウォーリーを探すより簡単だと思うが、緑ステレンボッシュのポジションだよ。1つ前の画像では黄アスコリピチェーノの真後ろにいるのに、この画像ではアスコリピチェーノの右斜め後ろにいる。真後ろから移動しているのだ。

3コーナー。ウォーリーもとい、緑ステレンボッシュのモレイラは、完全に黄アスコリピチェーノの右隣に入り切っている。

マスクは冒頭から書いているが、有力馬の後ろがベストポジションだ。別にその内でも悪くはないが、真後ろほどいいポジションではない。

だってこれ、黄アスコリピチェーノが内を締めてくるだろ。わざわざ締められるポジションに行くなら、真後ろからついていったほうがアスコリピチェーノに締められる心配はない。なのにウォーリーはアスコリの内に入った。

そのアスコリピチェーノはというと、桃チェルヴィニアの真後ろというポジション。この状況なら一番現実的なところだろうな。休み明けとはいえ、アルテミスSを完勝して上位人気に推されている馬だ。有力馬の真後ろはなんとやらだ。

左前から見るとこんな感じ。桃チェルヴィニアの後ろについている黄アスコリピチェーノとしては、チェルヴィニアの真後ろから離れずに追走できれば、その内の緑ステレンボッシュの進路は開かない。

それこそステレンボッシュは前を走るシカゴスティングを、池谷直樹よろしくモンスターボックスのごとく飛び越えるなら話は変わってくるが、それはさすがに現実的ではない。

勝負を分けたのがこの4コーナーだった。俺のボタンを押すタイミングが悪くて画像では伝えきれないんだけれど、4コーナーを回るところで黄アスコリピチェーノが一瞬だけ外に膨れた

お分かりだろうか、黄アスコリの宏司の左足が少し上に浮いていることが。つまり、逆の右足に重心を掛けている。馬が外に膨れかけているから、それを戻すために内に重心を掛けているんだ。本当に一瞬なんだよ。

これを見逃さないのがジョアン・モレイラ。雷神と呼ばれている男。

本当に微細な動きなんだけどね。黄アスコリピチェーノが一瞬外に膨れて立て直そうとするところに、内から緑ステレンボッシュがプッシュしてきて、進路が1頭分開いてしまったんだ

本来であればアスコリは桃チェルヴィニアとの間を詰めに詰めてステレンボッシュを出したくないのだが、本当に一瞬のスキを突かれてしまった

レース直後にマスクはアスコリピチェーノの4コーナーがもったいないとPostしているが、それがこの部分。一瞬膨れてしまってそこをモレイラに突かれてしまっている。

もちろんこの局面、アスコリピチェーノの北村宏司に油断はない。すぐ隣にモレイラがいることくらい分かっているし、出しちゃいけないのは誰でも分かること。

しかし前述したようにアスコリピチェーノは外に少しだけ張ってしまっているのだ。思い返してみてくれ。3コーナー入口、ステレンボッシュのモレイラはアスコリの真後ろから1頭分だけ内にポジションをずらしただろう。

これ、モレイラは最初から狙っていたんだよな。アスコリピチェーノの後ろに入っていけば、勝負どころでインからアスコリを外に押し出せる可能性がある、もしくはアスコリが膨れる可能性がある。それを向正面の口向きから判断して、最初から狙っていた。

でなければわざわざ有利な真後ろを放棄して、どう考えても垂れてくるシカゴスティングの真後ろに入っていかないのだ。ポジションとしては危険性の高いところになるが、多少リスクを負っても攻めてくるのが外国人トップジョッキー

形としてはアスコリが少し膨れたのがポイントだし、締めきれなかった側の負けなんだが、正直モレイラを最後まで締めきれるジョッキーが日本にいるのかというと非常に疑問なところだ。

いや、いた。昨日の大阪ハンブルクカップのパトロールを見てほしい。4コーナーでサスツルギモレイラが内のレッドバリエンテ川田を締めようとしたら、逆に弾かれてしまっている。これはパトロールを見てほしい。

なぜその参考画像を貼らないのかって、何度も言わせるなよ。俺は熱闘(以下略)

ステレンボッシュの可能性

まー、直接的に勝因としてはやはりこの4コーナーだ。モレイラの弾き方はある種芸術的で、負けたアスコリピチェーノの宏司が「勝ち馬の内からのプレッシャーも強く、外に振られてしまいました」とレース後話しているように、弾く前からプレッシャーをかけ続けたのも勝因だろう。

ただそれだけで勝てるほどGIは甘くなくて、内からプレッシャーをかける側もスタミナを食う。能力がないとできないことだし、ステレンボッシュにはモレイラにこの戦法を取らせるだけの力があると判断できる。

阪神ジュベナイルFの数字がいいとはもう書いたが、そもそもこの2歳女王決定戦にステレンボッシュは出ない予定だった。ところがチェルヴィニアの回避により急遽代打で出ることが決まったくらいで、過程が随分と急だったんだよな。それでも2着。

今回は最初から桜花賞狙いでじっくり作ってきた。天栄と国枝厩舎もさすがだよな、間隔が4カ月開いてもこのレベルまで仕上げてくるんだから。3歳春の牝馬なんて仕上げるのも大変だろうに。これが厩舎力。改めて感じるところだよ。

今更マスクが書く内容でもないと思うが、ディープインパクトの近親で、エピファネイアにルーラーシップにダンスインザダーク。いかにも距離延長はいけそう。

しかも今年はモレイラが6月の1週目までいるから、オークスにも乗れる。よほど自爆しない限り、オークスでも勝ち負け候補だと思うね。デキももう1つ上まで持って行けそうな気配があった。

仮にレガレイラが皐月賞も勝ったとして、ダービーに行ったとしよう。いとこ同士で桜花賞、皐月賞、オークス、ダービーと4連勝したらそれはもう空前絶後だよな。春、本当にこの歴史的偉業が生まれそうでこの先の推移を楽しみにしている。

まー、アーバンシックが勝っての4連勝の可能性もあるんだけど。凄いね、どこを介しても走る馬が出てくる。それでいてまだ存命のウインドインハーヘアは歴史に残る名牝


アスコリピチェーノは課題もはっきりしたレースだったんじゃないかな。結局弱点をモレイラに突かれてしまったが、逆に言えば克服すべきところは見えているし、口向き的に左回りのほうがより良さそう

順当ならNHKマイルだろう。左回りだ。より乗りやすくなりそうだし、そもそも今回の数字だって例年の桜花賞馬の数字より若干上。スムーズなら勝ち負けだと思う

今日のパドックは素晴らしかったね。+10kgだったが、全部成長分。昨年の冬より馬が格段に良くなっていた。ちょっと道中促していたあたりが休み明けの影響なんだろう。一度使った次はこの促す部分が解消されると見ている。

アスコリティの子どもの仕上がりが早い点から成長力が課題になってきそうだが、叔母のタッチングスピーチは結構成長力があった。夏を超えても楽しめそうな馬ではある。

まー、何が武器っていうと難しいタイプで、レシステンシアがその後GIを勝ち切れずに前哨戦を勝つタイプになったが、似たような方向に進むのではないかな。距離が持って決め手があるレシステンシアという感じ。いや、それだとGI勝つな。来年のヴィクトリアマイルでもいいぞ。

ちょっと腹が痛くても最後まで書いた自分が偉い

食べ過ぎ。

3着ライトバックはいい馬で、今回も上がり3F32.8の決め手を使って追い込んできた。綺麗なバラにはトゲがあるとはよく言ったものだが、まるで剣山のごとくトゲがあって、どうにも乗り難しい。

それだけに今後も折り合い次第になるが、過去に出てる数字は重賞も勝てるもの。そうだなあ、より折り合えないスイープトウショウと言えばいいか。決め手に関してはこの世代ナンバーワンだろう。あとはもう気性の成長だけ。

今回もパドックでパシュファイアー着けて、細心の注意を払って調整されていた。スタッフの皆様お疲れ様です。いい馬。どう成長するのか、しないのか今後が楽しみ。

6着ワイドラトゥールも地味にいい馬。前走チューリップ賞13着は試しの利っぽい感じだった。ファンタジーの大敗もゲートのミス。それだけに最内枠の最初入れを疑ったんだが、割とちゃんと出た。

カリフォルニアクロームにワイドサファイアだし、もう少し上がりの掛かる舞台が良さそう。もう紅梅Sを勝ってしまっている分2勝クラスに出てこれないのが残念だが、いずれどこかの1400で買うことがありそう。春はもういいかな。

7着セキトバイーストはこのワイドラトゥールに紅梅Sで負けている。正直昨年のりんどう賞の数字を見て微妙と思っていたら、チューリップ賞で数字を上げてきた。

そのチューリップが稍重。少し馬場の重たい条件なら。まー、当分これはって条件はないが。NHKマイルが道悪になってもしくはってところか。


オークスのほうがいいと言われている8着クイーンズウォークは、馬だけ見ると本当にいい。ただ今日はもう前述したように、枠も悪かった。

クイーンズウォークの戦績
新馬2着 36.9-33.9
未勝利1着 35.4-34.4
クイーンC1着 35.4-34.4
桜花賞8着 34.5-34.1

それ以上に道中抱えきれなかった分だと思う。ペースに対する懸念は持っていたし、だからこそ上位評価はしなかったんだけど、今回の桜花賞はこれまでより1秒ほど前半が速い。

レース後に川田が「手応えがなかったため、外に出す選択肢も取れませんでした」と話しているように、脚を溜められる局面がなかった。今回の負けが実力ではない。

抱えられるオークスのほうがいいと思うが、筋肉量が多い馬なのがどうかね。グレナディアガーズとは全然違う馬だと分かってはいるが、いざグレナディアガーズの妹をオークスで重視できるかと問われると…


11着イフェイオンは淳也が言っているようにテンションが高かった。すぐにどうこうという感じではないが、この馬能力はあるから、成長を待ちたい。いずれ成長したらクイーンSの内枠で買わせてくれ

13着チェルヴィニアは難しいね。今日の馬体はPostしたように硬く、休む前と違って全体的に緩さがあった。陣営のトーンも低かったが、まー、こんな感じだよなというところ。

母はオークス2着のチェッキーノ。父はハービンジャー。次は輸送距離も短くなるしいいと思うんだけど、なにぶんここまで使ったレースが少なく、ガッツリ揉まれこんだわけでもなく、経験不足がオークスで出ないかが不安

加えて今回休み明けを叩いて、どこまで上げられるかもまだ今のところ分からない。厩舎力自体は高いだけに、ここからどこまで戻せるか、それは楽しみ。数字はある。血統だけならオークス向き

16着コラソンビートは逆で、武史が言うように距離短縮で。3歳春までは本来の適性より少し長い距離でも持つ場合があるが、もう短距離馬になってきたな。あれだけ引っかかってはもうレース以前の問題

短縮すれば当然変わってくるだろうし、葵Sとは言わないまでも、1400で見直したい。スワンではなさそう。京都牝馬かな。いずれは1200の馬になる可能性も視野に入れている。


さて、本日最後に。桜花賞とは全然関係なさそうだが、少し関係のある話をさせてほしい。

5着だったエトヴプレの鮫島克駿くんが、レース後「まずは昨日落馬事故のあった藤岡康太騎手の無事を願います」とコメントしている。

まず最初に騎乗する予定だった人間を慮る姿勢は非常にいいと思う。俺も今はただ藤岡康太くんが早く快復することを願っている一人だ。

評価うんぬんなんて関係ない。久々にGIも勝って、お子さんも生まれてまだそんなに経ってないだろう。

残念ながらジョッキーの命に関して軽視するような声を上げる人間は多い。今日にしてもマスクのXに、赤字になっていることに触れた勝浦や大庭がダサいなんていうとんでもないご意見が届いたが、命を懸けている点は競馬をやる上で大前提として考えるべきことだろう

もちろんこれはどの仕事もそう。どの仕事も命がけだが、ジョッキーはすぐそこで命を落とす可能性がある仕事だ。実際先日、高知で痛ましい事故が起きた。

競馬で事故ゼロは正直難しい。競馬を開催する以上事故は起きるし、それでも少なくするため全員が動いている。考えてご意見を送ってほしいものだ。考えてないから送れるとも言えるんだけど。

無事に終えることの難しさは競馬を知れば知るほど痛感するものだ。改めてとなるが、今はただ藤岡康太くんの早期快復を祈る。



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